資産運用の手段の一つとして「投資信託」を考えている人も多いかと思います。
今回は、投資信託に係る手数料、信託報酬、信託財産留保額などの諸費用に関する消費税の区分の考え方について解説します。
投資信託とは
投資信託とは、少しずつ投資した資金をもとに、資産運用のプロであるファンドマネージャーが株式や債券などの形で運用する金融商品のことをいいます。
販売・運用・管理・保管をそれぞれ専門の機関が担うため、投資に関する知識や経験が無い方でも効率的に資産を運用することができる仕組みです。
ただし、専門家に資産の運用をお願いしているので、それに対する対価を支払う必要があります。
また、投資信託の運用にあたり必要なコストは各投資家が負担しなければならない場合があります。
具体的には、購入手数料、信託報酬、監査報酬、信託財産留保額、所得税・住民税などがあります。
以下、これら諸費用の消費税の取り扱いについて解説します。
投資信託の収益分配金は非課税
投資信託の収益分配金の受け取りは、消費税法上は非課税取引となります。
これは、投資信託は、実質的に投資家が投資機関に対して運用実績に応じた利子を対価として金銭を貸し付けているのと同じであるため、「利子を対価とする金銭の貸付け」に類するものとして非課税取引となります。
投資信託に係る収益分配金は、その原資が有価証券の売買差益、株式の配当、公社債の利子等で構成されるものであっても、投資家にとっては金銭の貸付けの対価である利子に類するものとしてして非課税売上げとなります。
これを踏まえて、投資信託に関する諸費用の消費税の取扱いについて見てみましょう。
購入手数料
投資信託を購入する際に発生する手数料は、投資機関と投資信託契約を締結するための事務手数料などの役務の提供の対価として支払うものであるため、課税仕入れとなります。
この購入手数料は、最終的に投資信託の収益分配金(非課税売上げ)を得るために支出するものなので非課税売上対応課税仕入れとなります。
信託報酬
投資信託の運用のための費用や投資機関に対する報酬、資産の保管、収益分配金の支払取扱い、投資信託説明書等の作成等にかかる費用をまとめて「信託報酬」といいます。
信託報酬は、日々信託財産から差し引かれ、純資産額に一定の料率をかけて徴収するのが一般的です。
この信託報酬に係る消費税の取り扱いについては、投資信託の種類により異なります。
国税庁が公表しているタックスアンサーNo.6221『預金や貸付金の利子など』において、次のような記載があります。
消費税は、財貨やサービスの流れを通して消費に負担を求める税です。したがって、消費税の課税の対象になじまない資金の流れに関する取引などは非課税とされています。
非課税となる取引
具体的には、次のものを対価とする金融取引などが非課税とされています。
・・・(中略)・・・
5 合同運用信託、公社債投資信託(株式または出資に対する投資として運用しないものに限ります。)または公社債等運用投資信託の信託報酬
合同運用信託、公社債投資信託、公社債等運用投資信託の信託報酬については非課税とされますが、カッコ書きで株式又は出資に対する投資として運用をしないものに限ることとされています。
したがって、信託報酬の消費税の取扱いについては以下のようにまとめることができます。
・上記以外(株式投資信託など) → 非課税売上対応課税仕入れ
このように考える理由は、株式投資信託などについては、投資家のために株式の売買などを代行して行ったサービスに対する対価として支払うものと考えられるため課税仕入れとなりますが、合同運用信託や公社債投資信託については、もともと非課税とされる公社債等の利子から投資機関の取り分を差し引いて支払っているにすぎないため、合同運用信託や公社債投資信託の信託報酬の本質は利子のうち投資機関の取り分であると考え非課税仕入れとなります。
なお、株式投資信託の信託報酬は、投資信託の収益分配金(非課税売上げ)を得るために支出するものなので非課税売上対応課税仕入れとなります。
監査報酬
投資信託は、資産運用が適正に行われているかどうか監査法人の監査を受けることが義務付けられています。
投資信託の所有期間中は、投資信託の監査を受けるために各投資家が監査報酬に係る費用を負担する必要があります。
この費用も信託報酬と同様に、日々信託財産から差し引かれ、純資産額に一定の両立をかけて徴収するのが一般的です。
監査報酬は、監査法人から監査を受けたことに対する役務提供の対価として支払うものであるため課税仕入れに該当します。
監査報酬も投資信託の収益分配金(非課税売上げ)を得るために支出するものなので非課税売上対応課税仕入れとなります。
信託財産留保額
信託財産留保額とは、投資信託を解約する際に投資家が支払う費用のことです。
これは基準価格に対して一定の料率を乗じた金額が解約代金から差し引かれます。
信託財産留保額は、投資機関等から何かしらのサービスを受けた対価として支払うものではなく、投資信託を保有し続ける他の投資家に迷惑がかからないようにするために支払う費用です。
解約して投資家に代金を支払うためには、信託財産の一部を売却する必要がありそのために費用がかかるからです。
これは、解約をした投資家が何かしらのサービスを受けた対価として支払うものではなく、他の投資家が被る損害を補填するための損害賠償金のような性質のものであるため、対価性のない取引として不課税取引となります。
所得税・住民税
収益分配金の受取時や、国内公募株式投資信託の場合に収益(解約差益、売却益、償還差益)が取得価額を超えた場合に、所得税や住民税がかかります。
税金の支払いは対価性のない取引であるため不課税取引となります。
まとめ
投資信託の運用にあたり発生する諸費用の消費税の取扱いをまとめると次のようになります。
費用の内容 | 消費税の区分 | |
購入手数料 | 非課税売上対応課税仕入れ | |
信託報酬 | 合同運用信託・公社債投資信託(株式に係るものを除く)、公社債等運用投資信託の信託報酬 | 非課税仕入れ |
上記以外(株式投資信託など) | 非課税売上対応課税仕入れ | |
監査報酬 | 非課税売上対応課税仕入れ | |
信託財産留保額 | 不課税仕入れ | |
所得税・住民税 | 不課税仕入れ |
課税仕入れとなるものは、投資信託の収益分配金(非課税売上げ)を得るために支出するものなので非課税売上対応課税仕入れとなります。
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