2022年に入り、急激に円安が進行しました。
輸出業者など、外貨建てで取引を行っている場合は、多額の為替差損益が計上されることが予想されます。
今回は、外貨建取引を行った場合の消費税の課税標準について、数値例をもとに解説します。
外貨建てで取引を行った場合の課税標準は資産の譲渡等を行った日のレートで換算
外貨建てで取引を行った場合の消費税の課税標準については、国税庁が公表している質疑応答事例『外貨建取引の課税標準』において、次のように記載されています。
【照会要旨】
当社は、商品の価格表示を従来の円建てに加えて、米ドル建てによる価格表示を行うこととし、米ドル建てによる商品販売を計画しています。
このように外貨による商品販売を行った場合、消費税の課税標準はどのように計算するのでしょうか。【回答要旨】
照会のような外貨建取引の資産の譲渡等の対価の額は、消費税法基本通達10-1-7《外貨建取引に係る対価》において、所得税又は法人税の課税所得金額の計算において外貨建ての取引に係る売上金額その他の収入金額につき円換算して計上すべきこととされている金額によることとされています。
また、外貨建取引の課税仕入れに係る支払対価の額についても、同様に所得税又は法人税の取扱いの例によることになります。
外貨建ての取引金額の換算については、所得税については所得税基本通達57の3-1《いわゆる外貨建て円払いの取引》から57の3-7《国外で業務を行う者の損益計算書等に係る外貨建取引の換算》まで、法人税については法人税基本通達13の2-1-1《いわゆる外貨建て円払いの取引》から13の2-2-18《外貨建資産等の支払の日等につき繰延べ等があった場合の取扱い》までに規定されているところであり、このため、外貨建取引に係る課税資産の譲渡等の対価の額は、これらの規定の取扱いにより、円換算した金額によることとなります。
また、課税仕入れに係る支払対価の額の円換算の方法も、これと同様の方法で行うことになります。
したがって、外貨建てにより行った資産の譲渡等の対価の額又は課税仕入れに係る支払対価の額の円換算は、原則として事業者が資産の譲渡等を行った日の対顧客直物電信売買相場の仲値(T.T.M)によるものとされますが、継続適用を条件として、資産の譲渡等の対価の額についてはその計上する日の電信買相場(T.T.B)により、課税仕入れに係る支払対価の額についてはその計上する日の電信売相場(T.T.S)によることも認められることになります。(注)
1 この場合の電信売相場、電信買相場及び電信売買相場の仲値は、原則として、その事業者の主たる取引金融機関のものによることとなります。ただし、事業者が、同一の方法により入手等をした合理的なものを継続して使用している場合には、それによることができることとされています(所得税基本通達57の3-2(注)1、法人税基本通達13の2-1-2(注)1)。
2 円換算に当たっては、継続適用を条件として、次のいずれかによることができるものとされています(所得税基本通達57の3-2(注)2、法人税基本通達13の2-1-2(注)2)。
(1) 取引日の属する月若しくは週の前月若しくは前週の末日又は当月若しくは当週の初日の電信買相場若しくは電信売相場又はこれらの日における電信売買相場の仲値
(2) 取引日の属する月の前月又は前週の平均相場のように1月以内の一定期間における電信売買相場の仲値、電信買相場又は電信売相場の平均値また、資産の譲渡等の対価として取得した外貨を円貨に交換することに伴って生じた為替差損益は、為替相場の変動に伴う損益であることから、原則として、資産の譲渡等の対価の額又は課税仕入れの支払対価の額に含まれず、課税の対象外(不課税)となります。
【関係法令通達】
消費税法基本通達10-1-7
上記太字部分のとおり、外貨建てで取引を行った場合は、消費税の課税標準はその資産の譲渡等を行った日の電信売買相場の仲値(T.T.M)により換算します。
なお、毎期継続適用を要件に、課税売上げ(免税売上げ)については電信買相場(T.T.B)で、課税仕入れについては電信売相場(T.T.S)で換算した金額をもって計上することができます。
課税売上げ(免税売上げ)も課税仕入れも資産の譲渡等を行った日の電信売買相場の仲値(T.T.M)で換算
電信売買相場とは
電信売買相場とは、銀行が円と外貨の両替を行うときのレートとして公示しているものです。
電信売相場(T.T.S=Telegraphic Transfer Selling Rate)は、お客さんが銀行で円貨を外貨に換える場合の適用レートをいいます。(銀行の立場は外貨の売り手なので「売相場」です。)
電信買相場(T.T.B=Telegraphic Transfer Buying Rate)は、お客さんが銀行で外貨を円貨に換える場合の適用レートをいいます。(銀行の立場は外貨の買い手なので「買相場」です。)
電信売買相場の仲値(T.T.M=Telegraphic Transfer Middle Rate)は、電信売相場と電信買相場の真ん中の値(平均値)です。
電信売相場と電信買相場はぞれぞれ電信売買相場の仲値に為替手数料を買減算した金額となります。
電信買相場(T.T.B)=仲値(T.T.M)-為替手数料
電信売買相場の仲値(T.T.M)は、外国為替市場の取引実勢レートを基準(参考)にして金融機関毎に決定され、毎営業日の午前10時頃に発表されます。
適用するレートは、自社に有利になるように金融機関ごとに比べて、好きなレートを選んで適用していいわけではありません。
上述の質疑応答事例の(注)1に記載されている通り適用するレートは、原則として、その事業者の主たる取引金融機関(メインバンク)のものによらなければなりません。
ただし、主たる取引金融機関のものでなくても、ずっと同じ金融機関のレートを継続的に適用しているのであれば、それによることができます。
電信売買相場の仲値(T.T.M)はインターネットで調べることもできる、例えばGoogle先生で「三菱UFJ銀行 仲値」と打って検索すると、三菱UFJ銀行が公表している外国為替相場一覧表がすぐに出てきます。(過去の為替相場についてもページ下部からデータをダウンロードすることができます。)
為替差損益の計上は不課税取引
消費税は、次の4要件を満たす取引が課税の対象となります。
外貨建金銭債権を決済した時や、期末に時価評価した時に為替差損益が生じたとしても、それは単に為替相場の変動に伴う損益を計上しただけであり、上記の課税の対象の4要件のうち「④ 資産の譲渡・貸付け、役務の提供であること」の要件を満たさないため課税対象外(不課税取引)となります。
数値例
外貨建てで取引を行った場合は、消費税の課税標準はその資産の譲渡等を行った日の電信売買相場の仲値(T.T.M)により換算します。
売上=1,000ドル×130ドル/円=130,000円
為替差益=1,000ドル×(135円/ドル-130ドル/円)=5,000円
外貨建金銭債権の決済に伴い生じた為替差損益は、資産の譲渡等の対価ではなく、単なる為替相場の変動に伴う損益を計上しているにすぎないため、資産の譲渡等に該当せず、不課税取引となります。
為替差益=1,000ドル×(145円/ドル-135ドル/円)=10,000円
まとめ
外貨建てで取引を行った場合は、消費税の課税標準はその資産の譲渡等を行った日において、主たる取引金融機関(メインバンク)が公表している電信売買相場の仲値(T.T.M)により換算します。
なお、毎期継続適用を要件に、課税売上げ(免税売上げ)については電信買相場(T.T.B)で、課税仕入れについては電信売相場(T.T.S)で換算した金額をもって計上することができます。
課税売上げ(免税売上げ)も課税仕入れも資産の譲渡等を行った日の電信売買相場の仲値(T.T.M)で換算
貨建金銭債権を決済した時や、期末に時価評価した時に為替差損益が生じたとしても、それは単に為替相場の変動に伴う損益を計上しているだけなので課税対象外(不課税取引)となります。
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