軽減税率制度の導入に伴う中小事業者の税額の計算の特例の具体例
この記事で解説している特例の適用期間は、令和5年9月30日までです。
2025年1月現在、これらの特例の適用期間は過ぎていることにご注意ください。

今月からいよいよ軽減税率制度がスタートしました!

消費者にとっては飲食料品などが安く買えるため嬉しい制度かもしれませんが、事業者にとってはすべての商品を8%と10%に区分する必要があるためとても大変な制度です。

日本で軽減税率制度が導入されるのは初めてのことなので、複数税率に対応したレジの導入が間に合わなかったりなど、すべての課税資産の譲渡等につき標準税率と軽減税率に区分して経理することが困難である場合も考えられます。

そこで、基準期間における課税売上高が5,000万円以下である中小事業者については、中小事業者の売上税額の計算の特例(中小事業者の申告に係る経過措置)により、簡便な方法で税額計算を行うことができることとされました。

今回は、中小事業者の税額計算の特例(中小事業者の申告に係る経過措置)のうち、売上税額に係る具体的な計算方法について解説したいと思います。

 

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売上税額の計算方法は3種類ある

令和元年10月1日からの軽減税率の導入に伴い、基準期間における課税売上高が5,000万円以下である中小事業者は、国内において行う課税資産の譲渡等を税率の異なるごとに区分して経理することにつき困難な事情があるときは、売上税額の計算の特例を適用して、その期間の軽減対象資産の譲渡等の対価の額の合計額を計算することができます。

特例による売上税額の計算方法には、以下の3種類があります。

軽減売上割合の特例

通常の事業を行う連続する10営業日について軽減対象資産の譲渡等を区分して計算した「軽減売上割合」を用いて、その期間の軽減対象資産の譲渡等の対価の額の合計額を計算することができます。

なお、「通常の事業を行う連続する10営業日」は、同項に規定する適用対象期間における通常の事業を行う連続する10営業日であれば、いつであるかを問わないこととされています。

ただし、特別な営業により、ある10日間について飲食料品の譲渡のみを行うといった営業日は「通常の事業」を行う営業日に含まれません。このような「通常の事業」でない営業日を除いた前後の連続する期間の合計10営業日については、「通常の事業を行う連続する10営業日」として取り扱います。(軽減通達22)

小売等軽減仕入割合の特例

卸売業及び小売業に係る軽減対象資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ等を区分して計算した「小売等軽減仕入割合」を用いて、卸売業及び小売業に係る軽減対象資産の譲渡等の対価の額の合計額を計算することができます。

50%特例

主として軽減対象資産の譲渡等を行う事業者は、軽減売上割合又は小売等軽減仕入割合の計算につき困難な事情があるときは、その割合を50%とすることができます。

主として軽減対象資産の譲渡等を行う事業者とは、国内において行った課税資産の譲渡等の対価の額のうち、軽減対象資産の譲渡等の対価の額の占める割合がおおむね50%以上である事業者をいいます。(軽減通達23)

 

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中小事業者の税額計算の特例の適用要件である「困難な事情」とは

中小事業者の税額計算の特例の適用要件である「困難な事情」については、軽減通達21において、以下のように規定されています。

(困難な事情があるときの意義)
・・・(前略)・・・「困難な事情があるとき」とは、例えば、事業者が同項に規定する適用対象期間中に国内において行った課税資産の譲渡等につき、税率の異なるごとの管理が行えないことなどにより、当該適用対象期間中の当該課税資産の譲渡等の税込価額を税率の異なるごとに区分して合計することが困難である場合をいい、そのような場合には、その困難の度合いを問わず、同項に規定する経過措置を適用することができることに留意する。

「困難な事情があるとき」という要件については、その困難の度合いは問われないため、事業者自身が困難な事情があると判断していれば、その適用を制限されることはありません。

したがって、基準期間における課税売上高が5,000万円以下である中小事業者であれば、実質的に、特例により計算した税額と有利判定を行えることになります。

 

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特例の適用期間

売上税額の計算の特例を適用することができる期間は、令和元年10月1日から令和5年9月30日までの期間です。

注意点

軽減税率導入に伴う似たような特例である「仕入税額の計算の特例」については、適用期間が令和元年10月1日から令和2年9月30日までであることに注意しましょう。

 

具体例

レジの故障
⑴ 当社は、飲食料品及び日用品の仕入販売を行っているが、当課税期間の中途において複数税率に対応したレジが故障したことにより、売上げを税率の異なるごとに区分することにつき困難な事情がある。
⑵ 当社の当課税期間に係る基準期間における課税売上高は5,000万円以下である。
⑶ 当社の当課税期間における取引の状況は次のとおりである。
 ① 飲食料品及び日用品の売上高の合計額 44,680,200円
 ② 飲食料品の仕入高 24,513,400円
 ③ 日用品の仕入高 11,486,200円
⑷ 当課税期間中における売上げを税率の異なるごとに区分することが可能な期間内の通常の事業を行う任意の連続する10営業日について軽減対象資産の譲渡等を区分して計算した軽減売上割合で最も大きいものは65%である。
⑸ 当課税期間は原則課税方式により消費税の申告を行うものとする。

飲食料品は軽減税率6.24%、日用品は標準税率7.8%が適用されます。

当社は中小事業者(基準期間における課税売上高が5,000万円以下)であり、レジの故障により課税期間の中途より区分計算ができなくなってしまったことから「困難な事情」があるものとして、売上税額の計算の特例により、6.24%課税売上高と7.8%課税売上高の金額を計算します。

6.24%課税売上高となる金額が大きくなる方が納付税額の計算上有利となるため、6.24%課税売上高が最大となる計算方法を採用します。

軽減売上割合の特例

連続した10営業日の軽減税売上割合のうち最も大きい割合は65%であるため、全体の売上高に65%をかけた金額を6.24%課税売上高として計算します。

6.24%課税売上高:44,680,200円×65% = 29,042,130円

7.8%課税売上高:44,680,200円 ー 29,042,130円 = 15,638,070円

課税標準額に対する消費税額:29,042,130円×100/108(千円未満切捨)×6.24% + 15,638,070円×100/110(千円未満切捨)×7.8%  = 2,786,784円

小売等軽減仕入割合の特例

全体の売上高に小売等軽減仕入割合(全体の課税仕入れのうち飲食料品の課税仕入れの占める割合)をかけた金額を6.24%課税売上高として計算します。

6.24%課税売上高:44,680,200円×24,513,400円÷(24,513,400円+11,486,200円)= 30,424,327円

7.8%課税売上高:44,680,200円 - 30,424,327円 = 14,255,873円

課税標準額に対する消費税額:30,424,327円×100/108(千円未満切捨)×6.24% + 14,255,873円×100/110(千円未満切捨)×7.8%  = 2,768,610円

50%特例

全体の売上高に50%をかけた金額を6.24%課税売上高として計算します。

6.24%課税売上高:44,680,200円×50% = 22,340,100円

7.8%課税売上高:44,680,200円 - 22,340,100円 = 22,340,100円

課税標準額に対する消費税額:22,340,100円×100/108(千円未満切捨)×6.24% + 22,340,100円×100/110(千円未満切捨)×7.8%  = 2,874,846円

有利判定

上記3種類の計算方法のうち、課税標準額に対する消費税額が最小となるのは、6.24%課税売上高が最も大きくなる小売等軽減仕入割合の特例(2,768,610円)です。

したがって、本設例の場合、当期は小売等軽減仕入割合の特例を採用するのが納付税額の計算上最も有利となります。

 

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