農林水産業の簡易課税の事業区分の改正による損益分岐点は仕入率40%

この記事の内容は、2025年1月現在の最新の税制に対応しています。

簡易課税制度を適用している場合は、納付税額の計算上、仕入れに係る消費税額を考慮しないため、軽減税率の導入により納付税額が従来よりも有利になる業種と不利になる業種があります。

そこで、平成30年度の税制改正において、簡易課税制度のみなし仕入率の見直しが行われました。

今回は、どのような改正が行われたのかについて解説します。

 

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飲食料品を販売する業種は従来より不利になる

簡易課税制度を適用している場合、売上げに適用される税率をもとに仕入税額を計算します。

軽減税率の導入により、飲食料品の製造販売業や小売業などは、簡易課税制度を適用している場合の納付税額が従来よりも不利になります。

中でも特に不利になってしまうのは飲食料品を販売する農林水産業です。

飲食料品の製造販売業や小売業などは、原材料や仕入商品には軽減税率が適用されます。

しかし、農林水産業に係る仕入れはほぼすべて軽減税率の対象外です。肥料や種苗などはその購入時点で食べることができないため軽減税率は適用されません。

そのため、農林水産業を行う事業者は10%で仕入れを行っても、その仕入れに係る税額を控除できないため、納付税額の計算上不利になってしまうのです。

 

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飲食料品の譲渡を行う農林水産業は第2種事業に

平成30年度税制改正において、消費税の軽減税率が適用される飲食料品の譲渡を行う農林水産業の事業区分を第2種事業とし、そのみなし仕入率を80%とすることとされました。

事業区分が変更されるのは、令和元年(2019年)10月1日からです。

[令和元年(2019年)9月30日まで]
農業、林業、漁業はすべて第3種事業(みなし仕入率70%)
        ↓
[令和元年(2019年)10月1日から]
農業、林業、漁業のうち飲食料品の譲渡を行う事業は第2種事業(みなし仕入率80%)

なお、農林水産業であっても、例えば、木材となる杉や檜を販売している場合や宝飾品の真珠の養殖業を行っている場合など、飲食料品以外の作物を譲渡する場合は引き続き第3種事業(みなし仕入率70%)となるので注意しましょう。

 

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税制改正による影響

例えば、ある農家が、種苗や肥料を700万円(税抜)で仕入れて、農作物(飲食料品)を1,000万円(税抜)で販売しているケースについて考えてみましょう。

令和元年(2019年)9月30日までは、売上げも仕入れも旧税率8%が適用されていたため、納付税額及び利益は次のように計算されます。

令和元年9月30日まで

令和元年(2019年)10月1日からは、売上げには軽減税率8%が適用される一方で、仕入れには標準税率10%が適用されます。簡易課税の場合は仕入れに係る消費税額は考慮されないため、もし改正がなかったら、仕入れの金額が高くなった分だけ従来よりも損をすることになります。

令和元年10月1日から(もし改正がなかったら)

そこで、税制改正により飲食料品の譲渡を行う農林水産業のみなし仕入率が80%に引き上げられることになったため、消費税の納付額が少なくなります。

令和元年10月1日から(改正後)

この改正により、農林水産業を営む事業者の被る損失は多少抑えられることとなりました。しかし、上記の例では従来(令和元年9月30日まで)の利益は300万円であるのに対し、改正後(令和元年10月1日から)の利益は294万円であることを鑑みると、それでもやはり従来よりは不利になってしまいます。

(注)実際の仕入率が40%未満である場合は、改正後の方が有利となります。詳しくは下記参照。

 

従来よりも有利になる場合について考えてみた

みなし仕入率が引き上げられたということは、控除できる消費税額が大きくなるということです。

これにより、場合によっては改正後(令和元年10月1日から)の方が納付税額が少なくなる分、利益が大きくなり有利になる場合も考えられます。

そこで、どのような場合に従来(令和元年9月30日まで)よりも利益額の計算上有利になるか考えてみたいと思います。

まず、前提条件として、仕入高はすべて標準税率10%が適用される課税仕入れ、売上高は軽減税率8%が適用される課税売上げとして考えます。(給与などの不課税取引の金額は税額計算に影響を与えない埋没費用となるため考慮しません。)

税抜の課税売上高をX、税抜の課税仕入高をYとすると、従来(令和元年9月30日まで)の利益額と改正後(令和元年10月1日から)の利益額はそれぞれ次のように求められます。

従来(令和元年9月30日まで)の利益額
売上高 = 1.08 X
仕入高 = 1.08 Y
消費税額 = 0.08 X ー 0.08 X × 70%
     = 0.024 X
利益額 = 1.08 X ー 1.08 Y - 0.024 X
    = 1.056 X - 1.08 Y
改正後(令和元年10月1日から)の利益額
売上高 = 1.08 X
仕入高 = 1.1 Y
消費税額 = 0.08 X ー 0.08 X × 80%
     = 0.016 X
利益額 = 1.08 X ー 1.1 Y - 0.016 X
    = 1.064 X - 1.1 Y

従来(令和元年9月30日まで)の利益額よりも改正後(令和元年10月1日から)の利益額の方が大きくなるのは、次の不等式を満たす場合です。

1.056 X - 1.08 Y < 1.064 X - 1.1 Y

これをYについて解くと、 Y < 0.4 X となります。

したがって、実際の仕入率(売上高に対する仕入高の割合)が40%未満となる場合は、従来(令和元年9月30日まで)の利益額よりも改正後(令和元年10月1日から)の利益額の方が大きくなります。

逆に言えば、実際の仕入率(売上高に対する仕入高の割合)が40%より大きい場合は、従来よりも利益額の計算上不利になるということです。

現実的に考えて、農林水産業において仕入率が40%未満になることなんてほぼあり得ないため、軽減税率の導入により農林水産業の利益は圧迫されることになったと結論付けることができます。

 

まとめ

令和元年(2019年)10月1日から、農業、林業、漁業のうち飲食料品の譲渡を行う事業は第2種事業(みなし仕入率80%)に変更となります。ただし、飲食料品以外の作物を譲渡する場合は引き続き第3種事業(みなし仕入率70%)となります。

実際の仕入率が40%より大きい場合は、従来よりも利益が圧迫されてしまうことになります。

 

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