自社で使う予定の建物の建設を依頼した場合や建設業を営んでいる場合は、「建設仮勘定」や「未成工事支出金」といった勘定科目を計上することがあります。
これらの勘定科目の使い分けの違いや消費税の課税仕入れとして計上する時期については、経理担当者の頭を悩ませるところだと思います。
今回は、「建設仮勘定」と「未成工事支出金」に係る消費税の取扱いと仕訳例について解説したいと思います。
建設仮勘定と未成工事支出金の違い
「建設仮勘定」とは、建設中の建物や製作中の機械など、完成前の有形固定資産に係る支出等を資産として仮に計上しておくのための 勘定科目です。建設仮勘定は、有形固定資産が完成し事業の用に供した時点で本勘定に振り替えます。
「未成工事支出金」とは、未完成の工事に要した材料費や労務費・外注費・経費などの原価項目を集計し、棚卸資産として計上するものです。未成工事支出金は、工事が完成し引渡しを行った時点でそれぞれの原価勘定に振り替えます。
いずれも完成前の建物等を建設するための支出を資産計上しておくものになりますが、両者の間にはどのような違いがあるのでしょうか?
それは、「建設仮勘定」は自社で使用する予定の建物のうち開発途上のものについて負担した金額であり、「未成工事支出金」は販売する商品として建設中の建物について支出した製造費用であるということです。
「建設仮勘定」は建設工事の発注者が計上するものであり、「未成工事支出金」は建設工事の受注を受けた建設業者がするものとなります。
建設仮勘定の消費税の取扱いと仕訳例
建設仮勘定の消費税の取扱いについては、国税庁が公表しているタックスアンサーNo.6483『建設仮勘定の仕入税額控除の時期』において次のように記載されています(一部抜粋)。
建設仮勘定に計上されている金額であっても、原則として物の引渡しや役務の提供があった日の課税期間において課税仕入れに対する税額の控除を行うことになりますから、当該設計料に係る役務の提供や資材の購入等の課税仕入れについては、その課税仕入れを行った日の属する課税期間において仕入税額控除を行うことになります。
ただし、建設仮勘定として経理した課税仕入れについて、物の引渡しや役務の提供又は一部が完成したことにより引渡しを受けた部分をその都度課税仕入れとしないで、工事の目的物のすべての引渡しを受けた日の属する課税期間における課税仕入れとして処理する方法も認められます。
これを要約すると、建設仮勘定として計上した支出に係る消費税の取扱いは次のようになります。
原則処理を採用する場合
最初に支払う着手金については、商品の引き渡しや役務の提供の対価として支払うものではなく、単なる前払金としての性質を持つものであるため、課税仕入れとはなりません。
工事代金の一部の支払額のうち労務費以外の2,200万円については当期の課税仕入れとして計上します。
建設工事のすべてが完了し、建物の完成引渡しを受けた時点で、「建設仮勘定」を「建物」に振り替えます。
工事総額のうち課税仕入れとなる金額8,800万円から既に計上済みの課税仕入れの金額2,200万円を差し引いた残額6,600万円を課税仕入れとして計上します。
例外処理を採用する場合
最初に支払う着手金については、商品の引き渡しや役務の提供の対価として支払うものではなく、単なる前払金としての性質を持つものであるため、課税仕入れとはなりません。
これについては、原則処理を採用している場合であっても例外処理を採用している場合であっても同じです。
例外処理を採用する場合は、建物の完成引渡日に一括して課税仕入れ等を計上するため、完成引渡しを受ける前に支払う工事代金についてはすべて不課税仕入れとして計上します。
建設工事のすべてが完了し、建物の完成引渡しを受けた時点で、「建設仮勘定」を「建物」に振り替えます。
例外処理を採用する場合は、建物の完成引渡日に一括して課税仕入れ等を計上するため、工事総額のうち課税仕入れとなる金額8,800万円の全額を完成引渡日における課税仕入れとして計上します。
なお、例外処理を採用する場合は毎期継続して適用しなければなりません。
未成工事支出金の消費税の取扱いと仕訳例
未成工事支出金の消費税の取扱いについては、国税庁が公表しているタックスアンサーNo.6487『未成工事支出金の仕入税額控除の時期』において次のように記載されています(一部抜粋)。
未成工事支出金勘定に含まれる課税仕入れの額、例えば、原材料の仕入れや下請外注先からの役務提供の対価の額は、原則的にはそれぞれの取引ごとに資産の引渡しを受けた日や下請外注先が役務の提供を完了した日に仕入税額控除の対象とすることになります。
ただし、未成工事支出金として経理した金額を、請負工事による目的物の引渡しをした日の属する課税期間の課税仕入れとすることを継続して適用しているときは、その処理が認められています。
これを要約すると、未成工事支出金として計上した支出に係る消費税の取扱いは次のようになります。
基本的な考え方は、建設仮勘定の取り扱いと同じです。
原則処理を採用する場合
原則処理の場合、材料の引渡しを受けた時点で課税仕入れを計上します。
原則処理の場合、工事が完成し引渡しを行った時点で、未成工事支出金として計上していた材料仕入高や外注加工費をそれぞれの科目に振り替えます。
支払時に課税仕入れとして計上しているため、科目振替時は課税仕入に計上できないことに注意しましょう。
例外処理を採用する場合
例外処理の場合、工事が完成し目的物の引渡しを行った時点で時点で課税仕入れを計上するため、材料仕入れ時課税仕入れは計上しません。
例外処理の場合、工事が完成し目的物の完成引渡しを行った時点で当該工事のために要した支出を一括して課税仕入れ等として計上することができます。
なお、例外処理を採用する場合は毎期継続して適用しなければなりません。
消費税増税をまたいだ場合の経過措置
建物等の建設工事が、消費税率が10%に引き上げられた令和元年10月1日をまたいで行われる場合については経過措置が設けられています。
「建設仮勘定」についても「未成工事支出金」についても、いずれも例外処理(目的物の完成引渡し日に一括して課税仕入れ等を計上する方法)を採用している場合は、令和元年9月30日までの課税仕入れ等の金額について建設仮勘定または未成工事支出金として経理したものを令和元年10月1日以後に完成する日の属する課税期間において課税仕入れとする場合であっても、その課税仕入れとは令和元年9月30日以前に行なったものであるため、旧税率(8%)により仕入税額控除の計算を行うこととなります。
まとめ
「建設仮勘定」も「未成工事支出金」も、いずれも原則として物の引渡しや役務の提供があった日に課税仕入れ等を計上しますが、例外処理として、毎期継続して適用することを要件に目的物の完成引渡時に一括して課税仕入れ等を計上することもできます。
なお、でもの塔の建設工事が令和元年10月1日をまたいで行われる場合において、例外処理を採用しているときは、令和元年9月30日までの課税仕入れ等については旧税率(8%)により 仕入税額控除の計算を行うこととなります。
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問題番号 | タイトル |
989 | 建設工事の目的物の完成前に行った課税仕入れ |
1029 | 建設仮勘定の計上 |