在日米軍基地内の取引は別表第一に掲げられていなくても非課税になる?

この記事の内容は、2025年1月現在の最新の税制に対応しています。

消費税法上非課税取引とされるのは、消費税法別表第二に限定列挙されている17項目に限られます。

しかし、「法律」よりも優先される「条約」の存在により、別表第二に限定列挙されていない取引であっても「非課税取引」として扱われることがあります。

今回は、別表第二に掲げられていなくても非課税取引になることがあるということについて、在日米軍基地内取引を例に解説したいと思います。

 

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条約は法律に優先する

まず、法律には上下関係があることをご存知でしょうか?

日本国における法律の序列関係は、次のようになっています。

法律の序列関係
憲法 > 条約 > 法律 > 政令 > 府省令

このように、条約は法律に優先するという優劣関係があるのです。

これを踏まえて、消費税の課税関係への影響について考えてみましょう。

 

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消費税法では非課税取引は別表第二に限定列挙されてる

消費税法の規定では、国内で行われるモノやサービスの提供のうち、消費税法別表第二に限定列挙されている次の17項目の取引には消費税を課さないこととされています。

消費税の非課税取引
(1) 土地の譲渡及び貸付け
(2) 有価証券等の譲渡
(3) 支払手段の譲渡
(4) 預貯金の利子及び保険料を対価とする役務の提供等
(5) 日本郵便株式会社などが行う郵便切手類の譲渡、印紙の売渡し場所における印紙の譲渡及び地方公共団体などが行う証紙の譲渡
(6) 商品券、プリペイドカードなどの物品切手等の譲渡
(7) 国等が行う一定の事務に係る役務の提供
(8) 外国為替業務に係る役務の提供
(9) 社会保険医療の給付等
(10) 介護保険サービスの提供
(11) 社会福祉事業等によるサービスの提供
(12) 助産
(13) 火葬料や埋葬料を対価とする役務の提供
(14) 一定の身体障害者用物品の譲渡や貸付け
(15) 学校教育
(16) 教科用図書の譲渡
(17) 住宅の貸付け

消費税法上、上記に列挙されていない取引については、非課税取引には該当しません。

しかし、法律に優先する条約の存在により、消費税法別表第二に限定列挙されていない取引でも非課税取引とされることがあるのです。

(注)国内取引の非課税項目は、従来まで消費税法別表第一に掲載されていましたが、令和5年10月1日以後は別表第二において掲載されることとなりました。

 

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在日米軍基地内で商品を販売した場合は日米地位協定に基づき非課税とされる

平成26年5月8日国税不服審判所裁決事例で、在日米軍基地内の営業店舗における商品販売の対価が免税売上高となるか非課税売上高となるか争われた事例があります。

在日米軍基地内の営業店舗で販売している商品は非課税資産ではく、消費税法別表第一に限定列挙されている項目のいずれにも該当しないことから、消費税法の規定に沿って考えれば、非課税取引には該当しないことになります。

しかし、在日米軍基地内における取引に関しては「日米地位協定」という条約が適用されます。

日米地位協定第15条第2項は、その前段において「これらの諸機関による商品及び役務の販売には、(中略)日本の租税を課さず」と規定しており、また、その後段において「これらの諸機関による商品及び需品の日本国内における購入には、日本の租税を課する」としています。

日米地位協定 第十五条
1(a) 合衆国の軍当局が公認し、かつ、規制する海軍販売所、ピー・エックス、食堂、社交クラブ、劇場、新聞その他の歳出外資金による諸機関は、合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族の利用に供するため、合衆国軍隊が使用している施設及び区域内に設置することができる。これらの諸機関は、この協定に別段の定めがある場合を除くほか、日本の規制、免許、手数料、租税又は類似の管理に服さない。
(b) 合衆国の軍当局が公認し、かつ、規制する新聞が一般の公衆に販売されるときは、当該新聞は、その頒布に関する限り、日本の規制、免許、手数料、租税又は類似の管理に服する。
これらの諸機関による商品及び役務の販売には、1(b)に定める場合を除くほか、日本の租税を課さず、これらの諸機関による商品及び需品の日本国内における購入には、日本の租税を課する。
3 これらの諸機関が販売する物品は、日本国及び合衆国の当局が相互間で合意する条件に従つて処分を認める場合を除くほか、これらの諸機関から購入することを認められない者に対して日本国内で処分してはならない。
4 この条に掲げる諸機関

これはつまり、日米地位協定第15条第2項は、米軍施設内の売上げについては消費税を預からず、その売上げに係る米軍施設外での仕入れについては消費税を支払う(仕入税額控除をしない)ことを求めていると解する事ができます。

日米地位協定の規定が優先して適用されることを踏まえて、この要請を消費税法の規定に沿って仕入税額控除の適用関係を判断すると、在日米軍基地内での商品売上げを非課税売上げとして取り扱うこととすれば、米軍施設外での仕入れは非課税売上対応課税仕入れとなり、その対価の額に対応する課税仕入れに係る消費税については仕入税額控除の対象とすることができないことになるため、「米軍施設外での仕入れには消費税を課し、米軍施設内の売上げについては消費税を課さない」という要請に合致することになります。

仮に、米軍施設内の商品売上げを免税売上げとした場合は、米軍施設外での仕入れは課税売上対応課税仕入れとなり仕入税額控除ができることになるため、「米軍施設外での仕入れには消費税を課す」という日米地位協定の要請に合致しないことになります。

したがって、米軍施設内の商品売上げは免税売上げではなく非課税売上げとして取り扱うこととされます。

 

(参考)合衆国軍隊等・海軍販売所等との取引は免税取引

合衆国軍隊等との取引

事業者が、合衆国軍隊又は合衆国軍隊の公認調達機関等に対して合衆国軍隊の用に供する商品の販売や役務の提供を行った場合は、「日米地位協定」及び「所得臨特法第7条第1項《消費税法の特例》」の規定により、免税取引とされます。

この場合、合衆国軍隊等に対して資産の譲渡等を行う事業者は、合衆国軍隊の権限ある官憲が発給した「免税証明書」を7年間保存する必要があります。

なお、米軍施設外の仕入先が米軍基地内の営業店舗に商品(軍人さん等が個人的に消費する食料品など)を販売した場合は「合衆国軍隊の用に供するもの」ではないため、免税取引とはならず、課税取引となります。

海軍販売所等との取引

事業者が、上述の日米地位協定第15条第1項(a)に規定する海軍販売所又はピー・エックスに対し、合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにこれらの家族(合衆国軍隊の構成員等)が国外に輸出する目的で購入される商品を販売した場合は、租税特別措置法第86条の2の規定により、免税取引とされます。

この場合、合衆国軍隊の構成員等が商品を購入する際に海軍販売所等に提出した「購入証明書」(=その商品を購入後に輸出することを記載した書類)を7年間保存する必要があります。

免税対象となる物品は、通常生活の用に供する物品で、消費税法施行令第18条第1項第2号に規定する消耗品は除かれます。また、金又は白金の地金その他通常生活の用に供しないものも免税対象となりません。

 

まとめ

条約は法律に優先することとされているため、在日米軍基地内での商品販売は、消費税法別表第二に限定列挙されている項目に該当するかどうかにかかわらず、日米地位協定の規定により非課税取引とされます。

なお、合衆国軍隊等や海軍販売所等との取引については免税取引となります。

在日米軍施設に関連する取引をイラストにまとめると、次のようになります。

在日米軍基地関連の取引の消費税の課税関係まとめ

今回の記事は実務や試験勉強向きの話というよりは、法律の適用関係に関する研究記事となりました。

ただ、沖縄県などの米軍施設が多く所在する地域では実務でも役に立つことがあるかもしれませんので、「米軍基地内の商品販売は非課税になる」ということだけでも頭の片隅に入れておいていただけたら幸いです。

 

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消費税法 無敵の一問一答

問題番号 タイトル
33 海軍販売所に対する物品の譲渡
56 在日米軍基地内での商品の販売代金
81 米軍基地の受注工事
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