税理士試験の各科目の担当試験委員の違いによる出題傾向の特徴

この記事の内容は、2025年1月現在の最新の税制に対応しています。

税理士試験の問題を制作する試験委員には「学者」「官僚」「実務家」のいずれかあり、科目ごとに担当が決まっています。

試験委員の違いにより、「学者」の場合、「官僚」の場合、「実務家」の場合とでそれぞれ出題傾向に違いがあることに気づいたのでご紹介したいと思います。

 

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各科目の試験委員

税理士試験の試験委員は、大学教授などの学識者(=学者)、現役の税理士や公認会計士(=実務家)又は国税庁・総務省のキャリア官僚(=官僚)が担当します。

試験委員は毎年1月頃に官報に告示されます。

例えば、2020年度(令和2年度)第70回税理士試験の試験委員は以下の通りでした。

肩書のうち赤色は「学者」青色は「実務家」、緑色は「官僚」です。

科目 氏名(敬称略) 肩書
簿記論
工藤 栄一郎
原 敏雄
豊 憲一郎
大田 章裕
西南学院大学商学部教授
横浜国立大学大学院国際社会科学研究院教授
公認会計士・税理士
公認会計士・税理士
財務諸表論
角ヶ谷 典幸
勝尾 裕子
外山 卓夫
末川 修
名古屋大学大学院経済学研究科教授
学習院大学経済学部教授
公認会計士・税理士
公認会計士・税理士
法人税法
鈴木 孝直
末吉 幹久
国税庁課税部法人課税課長
税理士
所得税法
猪野 茂
鶴田 泰三
国税庁課税部個人課税課長
公認会計士・税理士
相続税法
茂木 善樹
山田 京子
東京高等検察庁検事兼国税庁課税部資産課税課長
税理士
消費税法 田島 伸二
前川 武政
国税庁課税部課税総括課消費税室長
税理士
酒税法 杉山 真 国税庁課税部酒税課長
国税徴収法 山上 淳一 国税庁徴収部徴収課長
固定資産税 福田 毅 総務省自治税務局固定資産税課長
事業税 田辺 康彦 総務省自治税務局都道府県税課長
住民税 恩田 馨 総務省自治税務局市町村税課長

簿記論と財務諸表論については、前半の第1問と第2問を学者が作成し、後半第3問の総合計算問題を実務家が作成しています。

なお、法人税法、所得税法、相続税法、消費税法については、実務家と官僚が試験委員になっていますが、実質的に実務家が1人で作成していると言われています。

試験委員のタイプごとの担当科目をまとめると以下のようになります。

学者が制作する問題 簿記論の第1~2問、財務諸表論の第1~2問
実務家が制作する問題 簿記論の第3問、財務諸表論の第3問、法人税法、所得税法、相続税法、消費税法
官僚が制作する問題 酒税法、国税徴収法、固定資産税、事業税、住民税

 

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試験委員のタイプごとの出題傾向の違い

試験委員が「学者」か「実務家」か「官僚」かの違いにより、それぞれ出題傾向に違いがあります。

イメージとしては、次のイラストのような感じです。

試験委員のタイプごとの出題傾向の違いのイメージ

学者の作る問題は理由や背景、制度趣旨を問う問題が多い

大学教授などの学者が試験委員を担当するのは簿記論と財務諸表論の会計学の問題です。

学者の先生は会計を「学問」として捉え、真理を追究することを目的として普段から研究をしています。

そのため、学者の先生が作る問題は、会計基準そのものをどれくらい覚えているかという問題や具体的な取引に当てはめるという実務的な応用力を問う問題よりも、「なぜこのような会計基準が設けられたのか?」「この会計基準の制度趣旨や背景をしっかり理解しているか?」という制度の制定理由や背景・制度趣旨を問う問題が多く出題される傾向にあります。

財務諸表論の理論問題はまさに学問的な立場で会計の真理・制度趣旨を問う問題が多く出題されます。それに対し、財務諸表論の後半の計算問題は実務家が作るため、会社法の規定に従って財務諸表をしっかり作れるかを問う実務的な問題となっています。

簿記論の前半の個別計算問題も、どちらかといえば簿記の原理や仕組みをしっかり理解しているかを問う問題が多く、膨大な量の取引を素早く処理する計算力を試される後半の総合計算問題とは問題の性質が異なります。

実務家の作る問題は具体的な取引事例への応用力や実践的な計算力が試される問題が多い

簿記論の第3問、財務諸表論の第3問、法人税法、所得税法、相続税法、消費税法は、現役の税理士や公認会計士などの実務家が試験委員を務めています。

実務家の先生は普段から個別具体的な取引事例に多く携わっているため、「なぜこのような規定が設けられたのか?」という制度趣旨や背景よりも、「具体的な取引事例に対して法律の規定をきちんと当てはめて考えられる?」という応用力をという問題が多く出題されます。

また、計算問題でも、計算体系の原理や仕組みの理解を問う問題よりも、実際にありそうな膨大な量の取引事例に対し素早く正確に処理できるかという実践的な計算力が試される問題が多く出題されます。

自分の事務所の職員の採用試験のような感覚で、即戦力になれる人材に合格してほしいと思って作問しているのかもしれません。

官僚の作る問題は法律の規定そのものをいかに深く知っているかを問う問題が多い

酒税法、国税徴収法、固定資産税、事業税、住民税のいわゆる「ミニ税法」と呼ばれる科目は、国税庁や総務省のキャリア官僚が試験委員を務めています。

日本の法律はほとんどが官僚主導で法案を制作しており、句読点の位置や「てにをは」などの細かい言葉遣いまで気を配ってすごく丁寧に制作をしています。

そのため、官僚の先生が作る問題は、「私たちが苦労して作った法律の規定についてどれくらい深く理解していますか?」という、法律の規定そのものについての深い理解や暗記力を問う問題が多く出題されます。

理論問題の出題の形式としては、いわゆるベタ書きの問題が多く、実質的に各資格学校の理論暗記用教材で覚えた内容をいかに早く書けるかという速記大会のようになっている科目が多いです。

また、計算問題については、「事なかれ主義」といったら失礼かもしれませんが、奇をてらった問題を出したり出題形式を大幅に転換することはなく、過去の出題形式を踏襲した問題が多く出題される傾向にあります。

 

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(注意)あくまでも傾向なので例外もありえる

上記のように、出題者が「学者」か「実務家」か「官僚」かにより出題傾向の違いはありますが、必ずしも絶対そうであるとは限りません。

試験委員を務める先生の性格等にもよるため、実務家の試験委員でも「制度趣旨や規定が制定された背景を問いたい」という先生もいるかもしれませんし、学者の試験委員でも「具体的な取引事例への応用力を問いたい」という先生だっているかもしれません。また、官僚の試験委員でも、従来の出題形式の型をぶっ壊す最高にロックな試験問題を作る先生がいる可能性だってあります。

あくまでも、そういう傾向があるという参考にしてください。

 

まとめ

税理士試験の問題を制作する試験委員には「学者」「官僚」「実務家」の3タイプがあり、それぞれ以下のような問題をよく出題する傾向があります。

「学者」の試験委員:「なぜこの会計基準が設けられたのか」という理由や背景・制度趣旨を問う問題
「実務家」の試験委員:具体的な取引事例への応用力や実践的な計算力を試す問題
「官僚」の試験委員:法律の規定そのものをいかに深く知っているかを問う問題

試験委員の性格等によっては上記の例外もありえますが、こういった傾向があるということを意識しておくと効率的に学習が進められると思います。

 

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