オール電化の採用により支払われる電化手数料は消費税の課税対象?

この記事の内容は、2025年1月現在の最新の税制に対応しています。

近年、IHクッキングヒーターやエコキュートなどの機器を導入することで調理・給湯・冷暖房などに用いるエネルギーをすべて電気によってまかなうシステムを備えた「オール電化住宅」が普及しています。

オール電化を採用したマンション等を建設すると、電力会社から「電化手数料」という名目で金員の支払いを受けることがあります。

今回は、この「電化手数料」が消費税の課税対象となる資産の譲渡等の対価に該当するのかについて解説したいと思います。

 

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電化手数料とは

電化手数料とは、電力会社が、マンションなどの住宅において給湯、厨房及び空調設備等のすべての熱源を電気とすること(オール電化)の普及・促進のために、オール電化が採用された一定の物件の事業主や設計事務所等に対して支払う金員です。

電化手数料のイメージイラスト

この電化手数料の受け取りが「資産の譲渡等の対価」に該当するのか否か、平成21年11月12日に大阪地方裁判所で争われたことがあります。

マンションを発注した不動産会社は、マンションの引渡しを受けた期間中は電化手数料しか収入がなかったため、居住用賃貸マンションの建設請負代金の全額を仕入税額控除の対象として還付申告をしたところ、税務署から更正処分を受けて裁判となりました。

(注)令和元年10月1日以後に取得した居住用賃貸建物のうち高額特定資産(=税抜支払対価1,000万円以上)に該当するものについては仕入税額控除は認められません。

 

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課税の対象の4要件

消費税は、次の4要件を満たす取引が課税の対象となります。

課税の対象の4要件
① 国内において行うものであること
② 事業者が事業として行うものであること
③ 対価を得て行うものであること
④ 資産の譲渡・貸付け、役務の提供であること

電化手数料の受け取りは課税の対象の4要件のうち「③ 対価を得て行うものであること」の要件を満たすのでしょうか?

 

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電力会社と不動産会社との間で交わされた覚書

電力会社と不動産会社(甲社)との間で交わされた覚書の要旨は次のとおりです。

(イ) オール電化設備の具体的種類(電化温水器等)
(ロ) 業務委託内容
電力会社は、甲社に対し、「対象物件の建設に関する情報の提供、並びに全電化等の採用に関する勧奨活動の実施」(「覚書役務①」とする)及び「ユーザーに対する電化設備機器の使用方法等に関するコンサルティングの実施」(「覚書役務②」とする)の業務を委託する。
(ハ) 本件電化手数料の支払い
電力会社は、甲社に対し電化手数料を上記の役務提供の対価として支払う。
本件電化手数料は、甲社が、電化手数料請求書を提出するとともに、対象物件のオール電化設備採用を証する設計図面を提出し、電力会社が対象物件にオール電化が採用されていること及び所定の電気需給契約が締結されていることを確認した場合に支払われる。

このように、電力会社と不動産会社が交わした覚書には、オール電化の勧奨活動やコンサルティング等の業務を行うことが本件電化手数料支払の対価であると明記されており、不動産会社は実際に覚書に定められた業務を実行しています。

不動産会社が受け取った電化手数料は、覚書に記載された役務の提供の対価として受け取ったものとして「資産の譲渡等の対価」に該当するようにも見えます。

これに対し、大阪地裁はどのような判断を下したのでしょうか?

 

大阪地裁の判断

大阪地裁の判決では、電化手数料の性質について、覚書の文言ではなくその実質的な性質に沿った判断が下されました。

本件の電化手数料の算定方法は、役務の履行回数や、履行期間に応じているのではなく、単に、給湯器の種類や契約電力による区分で定まる基本単価に、採用した戸数を乗じて算出していることから、本件の電化手数料は、オール電化の採用それ自体に対する謝礼又は報償金としての性質を有するものと判断されました。

また、「対象物件の建設に関する情報の提供、並びに全電化等の採用に関する勧奨活動の実施」(=覚書役務①)については、対象物件の建設に関する情報の提供として設計図面が提出されてはいるものの、それは電気工事や電化設備を設置するに当たっての準備行為にすぎないため、本件の電化手数料が覚書役務①の対価ということはできません。

「ユーザーに対する電化設備機器の使用方法等に関するコンサルティングの実施」(=覚書役務②)についても、その具体的内容として、電気機器等の経済的な使用方法の入居者への説明、電気料金についてオール電化の割引料金が適用されていることの入居者への説明、オール電化設備機器の使用方法に関する電力会社主催の講習会の案内文を入居者へ配布することが挙げられているが、これらはいずれもマンションの賃貸人が、賃借人に対して入居時に行う一般的な説明の範疇を出るものではないのであって、対価を支払ってその履行を義務付けるような性質の役務とはいい難い側面があります。

したがって、電力会社から収受する電化手数料は、電力会社に対する役務の提供の対価とはいえず、オール電化を採用したことに対する謝礼又は報償金としての性質を有するため「資産の譲渡等の対価」には該当しないという判決が下されました。

これにより、不動産会社のオール電化を採用したマンションに係る建設請負代金の仕入税額控除は認められないことになりました。

 

まとめ

この判決では、電力会社と不動産会社の間で交わされた覚書の文言ではなく、取引の実質的な性質に沿って判断されたことが大きなポイントです。

本件の電化手数料のように、金員の授受が行われた当事者間で明確な役務の提供があったと認められない場合は、契約書や覚書などに記載された文言の内容にかかわらず、取引の実質的な性質に着目した判断が行われ、「資産の譲渡等の対価」として認められない可能性があります。

実務にあたっては、契約書や覚書に記載したからといって、どんな取引でも対価性が認められるというわけではないということを意識しておく必要がります。

 

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消費税法 無敵の一問一答

問題番号 タイトル
292 オール電化を採用して収受する電化手数料

 

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