マンションなどの区分所有の不動産を保有している場合は、マンション管理組合に対して管理費や修繕積立金を支払います。
これらの支払いは、消費税の計算をするうえで課税仕入れとなるのでしょうか?
マンションの管理組合とは
マンションの管理組合とは、マンションを維持・管理するための組織です。
管理組合は、建物の区分所有等に関する法律の規定により「区分所有者全員で構成されること」が明記されているため、分譲マンションの購入者は全員、マンション管理組合の当事者となります。
なお、分譲賃貸マンションの賃借人は区分所有者には該当しないため、原則として管理組合には加入しません。
マンション管理組合の具体的な活動内容は、日常的に行う共用スペースの清掃や設備の保守点検、管理員の窓口業務のほか、運営上の会計処理や大規模修繕の計画など多岐にわたります。
一般的には、管理組合がマンションの維持管理を専門的に行う「管理会社」に管理業務を委託することにより管理業務を行っています。
管理費の支払いは不課税取引
区分所有者が、マンション管理組合に管理費を支払った場合は、課税仕入れになるのでしょうか?
この点については、国税庁の質疑応答事例『マンション管理組合の課税関係』において、次のように記載されています。
【照会要旨】
マンション管理組合の課税関係はどうなるのでしょうか。【回答要旨】
マンション管理組合は、その居住者である区分所有者を構成員とする組合であり、その組合員との間で行う取引は営業に該当しません。
したがって、マンション管理組合が収受する金銭に対する消費税の課税関係は次のとおりとなります。イ 駐車場の貸付け………組合員である区分所有者に対する貸付けに係るものは不課税となりますが、組合員以外の者に対する貸付けに係るものは消費税の課税対象となります。
ロ 管理費等の収受………不課税となります。
管理費の支払いについては不課税取引とされています。
駐車場の使用料についても、区分所有者が支払うものは管理費と同様に不課税取引とされていますが、分譲賃貸マンションの賃借人などの区分所有者以外の者が支払う場合は課税仕入れとなります。
なお、区分所有者である組合員が事業者ではなく、普通の住人である場合は「事業として」に該当しないため、当然に不課税取引となります。
管理費を巡る裁判例
区分所有者がマンション管理組合に支払う管理費が課税対象となるかどうかを巡って、裁判で争われたことがあります。
平成24年9月26日の大阪地裁判決では、管理費の支払いと管理組合から受ける役務の提供等の間に対価関係がないとして、管理費の仕入税額控除を否認しました。
判決文では、その理由について次のように述べています。
本件各管理費が課税仕入れに係る対価であるというためには、本件各管理費が、本件各管理組合からの役務の提供に対する反対給付として支払われたものであることが必要である。
そこで検討するに、本件各管理費は、本件各管理組合が行う本件各ビルの共用部分の管理等に要する費用であるところ、原告の負担額は、本件各ビルの共用部分の使用収益の態様や管理業務による利益の享受の程度と直接関係なく、団体内部において定めた分担割合に従い定まるのである。
そして、原告は、本件各管理組合に対して共用部分の管理を現実に委託したか否かに関係なく、また本件各管理組合が行った具体的な管理行為の内容如何にかかわらず、本件各管理費の支払義務を負うものであり、本件各管理組合の管理行為と引換えに本件各管理費を支払っているものでもない。
そうすると、原告は、本件各管理組合に対して本件各ビルの管理業務を委託したことを根拠に本件各管理費を支払っているのではなく、本件各管理組合の構成員の義務として、本件各管理費を支払っているものというべきである。
したがって、本件各管理費は、管理組合が行う管理業務と対応関係にある金員であるとはいえず、役務の提供に対する対価であるとは認められない。
・・・(中略)・・・
資産の譲渡等に対する反対給付であるか否かは、個別具体的な資産の譲渡等と特定の給付との間に対応関係が認められるか否かを、当該支払自体の性質から判断すべきである。
本件において、第三者と区分所有者との間に独立した納税義務の主体である管理組合が介在している以上、管理組合の第三者への支払を考慮して、ビル一棟の所有者が第三者に対して支払う費用と実質的に同一であると評価することはできない。平成24年9月26日大阪地裁判決
少しわかりにくい判決ですが、要点をまとめると次のようになります。
管理会社が行う清掃や設備点検などの管理業務は、マンション管理組合に対する役務の提供であって、区分所有者に対する役務の提供ではありません。
また、管理費は組合員から一定の分担割合で徴収されるものなので、対価性が認められません。
したがって、マンション管理組合に対する管理費の支払いは課税対象外(不課税取引)とされます。
なお、平成24年大阪地裁判決以外にも、平成24年11月29日国税不服審判所裁決でも同様の趣旨の審判が下されています。
(私見)管理費の支払いを不課税とするのは税負担の累積が生じるため不適切
ここからはあくまでも僕個人の私見となりますが、このように管理費の支払いを不課税として取扱うのは、税負担の累積を生じさせることになるため不適切だと思っています。
消費税は、商品やサービスの流通の過程で二重・三重に課税されることがないよう取引の各段階で仕入税額控除を認めるという「多段階累積控除」という仕組みが採用されています。
しかし、マンションの管理費の取扱いについて見ると、裁判所の見解はどうあれ、区分所有者は実質的には清掃や設備点検等のマンションの維持管理のために管理費を支払っているにもかかわらず、取引の間に管理組合が介在することにより、区分所有者側では仕入税額控除ができず、管理会社においては課税売上げが生じるという不均衡が起き、税負担の累積が生じてしまいます。
これを是正するために、マンション管理組合を民法上の任意組合と同様に取扱い、共同事業体(ジョイント・ベンチャー)のようなパススルー課税を適用すべきだと考えます。
修繕積立金の支払いも不課税取引
区分所有者がマンション管理組合に対して支払う修繕積立金についても管理費と同様に考えます。
修繕工事を行ったとしても、その役務の提供に係る利益を享受するのは管理組合であり区分所有者ではないため、修繕積立金の支払いは対価性のない取引として課税対象外(不課税取引)となります。
なお、マンション管理組合が工事業者に積み立てた修繕積立金から支払う修繕費については、対価性があるため課税仕入れとなります。
(参考)法人税・所得税の取扱い
法人税・所得税においては、マンション管理組合に対して支払った管理費は、マンションの維持管理に必要な費用のため、支払った事業年度の経費として費用になります。
修繕積立金については、原則として実際に修繕が行われたときに経費として費用になりますが、次の要件をすべて満たす場合には、支払った事業年度の経費とすることができます。
① 区分所有者となった者は、管理組合に対して修繕積立金の支払義務を負うことになること
② 管理組合は、支払を受けた修繕積立金について、区分所有者への返還義務を有しないこと
③ 修繕積立金は、将来の修繕等のためにのみ使用され、他へ流用されるものでないこと
④ 修繕積立金の額は、長期修繕計画に基づき各区分所有者の共有持分に応じて、合理的な方法により算出されていること
まとめ
マンションの区分所有者である事業者が、マンション管理組合に対して支払う管理費・修繕積立金については、いずれも対価性のない取引として課税対象外(不課税取引)となります。
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問題番号 | タイトル |
810 | マンション管理組合に支払う管理費等 |