個人事業主や法人が事業と無関係なものを買った場合の税務・経理処理

この記事の内容は、2025年1月現在の最新の税制に対応しています。

この記事では、個人事業主や法人が事業と無関係なものを買った場合の経理処理や税務上の取扱いについて正しく解説したいと思います。

 

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事業と無関係なものは経費にできない

「なぜこんな当たり前のことをわざわざ書かないといけないのか・・・」とため息をつきながら見出しを書いています。

一応言っておきますが、事業と無関係なものは経費にすることはできません。なぜなら、事業とは関係がないからです。

これは個人事業者であっても法人であっても結論は同じなのですが、経理の考え方が少し変わってきます。

どのように経理処理を行うのか、後程詳しく解説していきます。

 

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消費税の課税の対象の4要件

消費税は、次の4要件を満たす取引が課税の対象となります。

課税の対象の4要件
① 国内において行うものであること
② 事業者が事業として行うものであること
③ 対価を得て行うものであること
④ 資産の譲渡・貸付け、役務の提供であること

これを踏まえて、個人事業者と法人が事業とは無関係なものを買った場合のそれぞれの経理処理と消費税の取扱いについて考えてみましょう。

 

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個人事業者が事業と無関係なものを買った場合

個人事業者が事業と無関係なもの(例えば娯楽のために読む漫画や趣味のゴルフの道具など)を買った場合は、その購入額は「事業主貸」という勘定科目で処理します。

この場合、所得税の計算上必要経費にはなりませんし、消費税においても課税の対象の4要件のうち「② 事業者が事業として行うものであること」の要件を満たさないため、不課税取引となります。

数値例
個人事業者が釣具屋で趣味の魚釣りのために釣り竿を購入し、購入金額 30,000円を支払った。

個人事業者が事業と無関係なものを買った場合の仕訳

事業用のものと家事用のものを一緒に買ったとき

個人事業者が、事業に必要なものと家事用のプライベートなものを同時に買った場合は、レシートの内訳から事業に必要な分だけを「消耗品費」などの費用勘定で処理し、家事用のプライベートな支出は「事業主貸」勘定で処理します。

数値例
個人事業者がスーパーで家事用の洗剤500円及び事業用の文房具500円を購入し、代金1,000円を支払った。

事業用のものと家事用のものを一緒に買ったときの仕訳

⚠︎ 注意 ⚠︎
某節税サイト(いわゆる「脱税ラボ」)で記載されているように、事業用のものと家事用のものを同時に買った場合に、領収書の品書きを「お品代として」と記載してもらい、内訳の記載されたレシートは切り離して廃棄し、購入額の全額を経費計上する行為は「節税」ではなく、完全な「脱税」です。というかもはや「犯罪」です。
税務調査官は、品書きに「お品代として」と記載され、わざわざホッチキスを切り離した形跡がある怪しい領収書を見つけたら、一発で不正の匂いを嗅ぎつけます。
金額の大小や回数にかかわらず、このような手法で税務調査官の目を欺こうとする行為は「悪質」であると判断される可能性があり、その場合、全額経費として認められず重加算税が課されることになり、青色申告の承認も取り消され、金額や回数次第では所得税法第238条に規定する「偽りその他不正の行為」に該当するものとして十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処される可能性もあるため注意しましょう。
プロの税務調査官が、税理士でもない素人のアホが考えたチープな脱税手口を見抜けないわけがないので、悪質な「節税対策サイト」(自称)にだまされないように気をつけましょう。

 

法人が事業と無関係なものを買った場合

法人が事業と無関係なものを買った場合はどうなるのでしょうか?

例えば、会社の社長が事業とは一切無関係なものを会社で購入した場合は、「役員報酬」勘定を計上します。つまり、現物給与として取り扱われることになるため、その社長は所得税の計算において給与所得として計上しなければなりません。

なお、法人税法上は、現物給与のうち、毎月継続的に発生し、かつ一定と認められる経済的利益については、定期同額給与に含めて考えることになるため損金算入されますが、そうでない場合は損金不算入となります。

では消費税についてはどうなるでしょうか?

実は、法人が行う取引はすべて課税の対象の4要件のうち「② 事業者が事業として行うものであること」の要件を満たすこととされるため、会社が事業とは一切無関係なものを買ったとしても課税仕入れとなります。

ただ、その直後に役員に対する「みなし譲渡」があったものとされるため、同額の課税売上げを計上しなければなりません。

数値例(消耗品費になる場合)
会社の社長が、会社として20万円のテレビ(社長の自宅に置くためのもので、会社業務では一切使用しない)を購入した。なお、中小企業者等の少額減価償却資産の特例を適用し、全額購入時に費用処理する。

購入額をいったん「消耗品費」勘定(損金算入・課税仕入れ)として計上します。

それと同時に、みなし譲渡があったものとして貸方に「雑収入」などの収益勘定(益金算入・課税売上げ)を計上し、借方は「役員報酬」勘定(損金不算入・不課税仕入れ)として計上します。

消耗品費になる場合の仕訳

この場合、法人税の課税所得の計算に与える影響も消費税の納付税額の計算に与える影響もいずれもプラスマイナスゼロとなりますが、社長においては給与所得課税されることになります。

数値例(固定資産になる場合)
会社の社長が、会社として300万円の自動車(社長の妻が専属的に使用するもので、会社業務では一切使用しない)を購入した。

購入額をいったん「車両運搬具」勘定(課税仕入れ)として計上します。

それと同時に、借方は「役員報酬」勘定(損金不算入・不課税仕入れ)として計上し、貸方の「車両運搬具」の消費税の税区分は、みなし譲渡があったものとされるため課税売上げとして処理します。

固定資産になる場合の仕訳

この場合も、法人税の課税所得の計算に与える影響も消費税の納付税額の計算に与える影響もいずれもプラスマイナスゼロとなります、社長においては給与所得課税されることになります。

立替金として処理する場合

法人が事業と無関係なものを買ったとしても、そもそも会社として買ったのではなく社長が支払うべき費用を立て替え払いしたと考え、「立替金」として計上し後日精算する場合は、社長において給与所得課税されることはありません。

この場合、法人税の課税所得の計算に与える影響はありません。

ただし、消費税法上は、買った資産の所有者の名義が初めから社長である場合やそもそも所有するのに名義なんて要らない資産を買った場合は不課税取引となります。

しかし、自動車や不動産など、名義が必要な資産の名義人を会社としている場合は、法的形式に照らして考えると、はじめから社長が買ったのだと見ることは難しいため、会社から社長に売却したものとして課税仕入れと課税売上げの両建てが必要になります。

数値例(名義が不要な資産の場合)
会社の社長が、会社として20万円のテレビ(社長の自宅に置くためのもので、会社業務では一切使用しない)を購入した。なお、当該購入費は後日社長から精算を受けることとしている。

テレビは名義が必要なものではないため、そもそも会社が買ったのではなく、社長が個人的に買ったものの支払いを会社が立て替えただけと考えることができるため、取引の経済的な実質に則って、次の仕訳のように不課税取引と考えることができます。

立替金として処理する場合の仕訳

数値例(会社名義の資産の場合)
会社の社長が、会社の名義で 300万円の自動車(社長の妻が専属的に使用するもので、会社業務では一切使用しない)を購入した。なお、当該購入費は後日社長から精算を受けることとしている。

自動車や不動産のように、所有者の名義が必要になる資産を会社名義で買った場合は、法的形式に照らして考えると、会社が取得した資産を社長に現金で売却していることになるため、次の仕訳のように課税仕入れと課税売上げの両建てが必要になります。

会社名義の資産の場合の仕訳(立替金)

役員借入金の返済に充てる場合

役員借入金がある場合は、事業と無関係なものの購入費を役員借入金の返済に充てていれば、社長において給与所得課税されることはありません。

この場合、法人税の課税所得の計算に与える影響はありません。

消費税においては、先ほどと同様、買った資産の所有者の名義が初めから社長である場合やそもそも所有するのに名義なんて要らない資産を買った場合は、買う直前に購入費と同額の借入金の返済を行い、その後社長が個人的に買ったのだと考えることができるため、不課税取引となります。

一方、自動車や不動産など、名義が必要な資産の名義人を会社としている場合は、法的形式に照らして考えると、買う直前に購入費と同額だけ借入金の返済を行ったと見ることは難しいため、いったん会社が資産を取得し、それをもって役員借入金の返済(代物弁済)を行ったと考え、取得時に課税仕入れを計上するとともに、代物弁済時に課税売上げを計上します。

数値例(名義が不要な資産の場合)
会社の社長が、会社として20万円のテレビ(社長の自宅に置くためのもので、会社業務では一切使用しない)を購入した。なお、当該購入費は役員借入金の返済に充てるものとする。

テレビは名義が必要なものではないため、買う直前に購入費と同額の借入金の返済を行い、その後社長が個人的に買ったのだと考えることができるため、取引の経済的な実質に則って、次の仕訳のように不課税取引と考えることができます。

名義が不要な資産の場合(役員借入金)

数値例(役員借入金の返済に充てる場合)
会社の社長が、会社として300万円の自動車(社長の妻が専属的に使用するもので、会社業務では一切使用しない)を購入した。なお、当該購入費は役員借入金の返済に充てるものとする。

自動車や不動産のように、所有者の名義が必要になる資産を会社名義で買った場合は、法的形式に照らして考えると、会社が取得した資産をもって役員借入金の返済に充てた(代物弁済)と考えられるため、次の仕訳のように課税仕入れと課税売上げの両建てが必要になります。

役員借入金の返済に充てる場合の仕訳

 

まとめ

個人事業者が事業と無関係なものを買った場合は経費にすることはできず、「事業主貸」として計上します。

法人が事業と無関係なものを買った場合、役員に対する現物給与と認定され、役員において給与所得として課税されることになります。

消費税においては課税売上げと課税仕入れを両建てしなければならないことがあり、全額控除している場合は影響はありませんが、個別対応方式を採用している場合(事業と無関係なものの課税仕入れ区分は対応する売上げがないため「共通対応」)や一括比例配分方式を採用している場合、簡易課税制度を採用している場合は納付税額の計算上不利となってしまいます。

また、会社が名義の要らない資産を購入したとしても、会社のクレジットカードで支払っていたり、荷物の届け先が会社であるような場合などは、取引の実態次第ではいったんは会社が取得してから現物支給・現金売却・代物弁済のいずれかをしたと捉えられ、税務調査で課税仕入れと課税売上げの両建て処理を求められることも考えられます。

このような事態にならないためにも、事業用のクレジットカードと家事用のクレジットカードを分けておく、事業用の買い物と家事用の買い物は区別して別々に行うなどの工夫をしっかりとしておく必要があります。

ましてや、事業用のものと家事用のものを一緒に買って、レシートは廃棄して「お品代」とだけ書かれた領収書で全額経費にするなんてことは「脱税」であり「犯罪」なので、何があっても絶対にやらないようにしましょう。

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