本の執筆をしたことがある人は、出版社から印税や原稿料を貰ったことがあるかと思います。
今回は、出版物の印税や原稿料を収受した場合の消費税の取扱いについて解説したいと思います。
印税と原稿料の違い
「印税」とは、単行本など著作物の発行部数に応じて、出版社が著作者に対して支払う対価のことを指します。印税には「税」という文字が入っていますが、税金ではありません。
それに対し、「原稿料」は原稿を執筆した対価として支払われる報酬です。
「印税」は書籍の重版が決まる度に何度でも支払われますが、「原稿料」は原稿の執筆が完了した時点で1回限り支払われます。
事業と無関係な原稿料は消費税の課税対象外
消費税は、次の4要件を満たす取引が課税の対象となります。
法人が行う取引はすべて「② 事業者が事業として行うものであること」の要件を満たしているものとされます。
しかし、個人の場合は、事業者としての側面と消費者としての側面の両方があるため、個人が行う取引については「② 事業者が事業として行うものであること」の要件を満たす場合と満たさない場合とがあります。
「事業」とは、「同種の行為を反復、継続かつ独立して遂行すること」をいうため、これに照らして「② 事業者が事業として行うものであること」の要件を満たすかどうかを判断します。
ここで、印税と原稿料について考えてみると、印税は書籍の重版が決まる度に何度でも支払われるもであるため、「反復・継続・独立」して収入が発生することになるため、その内容にかかわらず「② 事業者が事業として行うものであること」の要件を満たすことになります。
一方、原稿料については、著述家として継続的に原稿を執筆している場合や、執筆が1回限りであっても普段営んでいる事業に関連する内容(例えば税理士が節税に関する本を執筆した場合など)は、「事業として」に該当するため消費税の課税対象となります。一方、普段の事業とは全く関係ない趣味の内容について原稿を執筆して原稿料を収受した場合は「② 事業者が事業として行うものであること」の要件に該当しないため消費税の課税対象外(不課税取引)となります。
消費税の納税義務の有無
消費税を納める義務があるかどうかは、個人の場合は前々年の「課税売上高」が1,000万円を超えているかどうかで判定します。
法人の場合は、原則として前々事業年度の「課税売上高」が1,000万円を超えているかどうかで判定します。
「課税売上高」には、消費税の課税対象外とされる収入(給料や配当金など)や消費税が非課税とされる収入(土地の売却・貸付けに係る収入や有価証券の売却収入など)は含みません。
前々年(前々事業年度)から印税や原稿料を得ている場合はそれらの金額、それら以外にも事業を行っている場合はその事業の収入も含むすべての課税売上高を合計した金額が1,000万円を超えているかどうか判定します。
前々年(前々事業年度)の「課税売上高」が1,000万円以下の場合は、消費税を納める義務はありませんが、1,000万円を超えている場合は消費税を納める義務があります。
(納税義務の有無の判定には、基準期間(前々年、前々事業年度)における課税売上高による判定の他にも様々な特例がありますが、それらをすべて触れるとあまりにも長くなりすぎるので、納税義務の免除の特例について詳しく網羅的に知りたい方は拙著『パーフェクトマスター 消費税の納税義務と簡易課税の適用判定の手引』をご参照ください。)
消費税法上の取扱い
消費税法上、印税は「無形固定資産(著作権)の貸付けの対価」として取り扱われます。
一方、原稿料は「役務の提供の対価」として取り扱われます。
なお、印税や原稿料は、軽減税率の適用対象にはならず、標準税率10%が課されます。
ちなみに、軽減税率8%が適用される取引は、以下の2つです。
・定期購読契約に基づき配送される新聞(週2回以上発行されるもの)の譲渡
新聞社から依頼を受けて新聞に掲載される記事を執筆して原稿料を収受したとしても、それ自体は軽減税率の適用対象となる取引ではないため、標準税率10%が課されます。
これを踏まえて、それぞれの消費税の取扱いを考えてみましょう。
印税の消費税の取扱い
国内の出版社から印税を受け取る場合
国内の出版社から印税を受け取る場合は、その印税の受取額は無形固定資産(著作権)の貸付けの対価として課税売上げとなります。
国外の出版社から印税を受け取る場合
国外の出版社から印税を受け取る場合は、そもそも国内取引に該当するのでしょうか?
著作権の貸付けに係る国内取引の判定は、その著作権等の譲渡又は貸付けを行う者の住所地が国内にあるかどうかにより行うため、印税の支払いを受ける者の住所地が日本国内であれば国内取引に該当します。(もし住所地が国外である場合は課税対象外(不課税取引)となります。)
ただし、国外の出版社に対する著作権の貸付けは、消費税法上、免税取引とされている「非居住者に対する無形固定資産の貸付け」に該当するため、国外の出版社から受け取った印税は免税売上げとなります。
なお、Kindle電子書籍を自費出版している場合は、Amazonから電子書籍の販売収入やKindle Unlimitedのロイヤリティを受け取ることになりますが、これらはいずれも「非居住者に対する無形固定資産の貸付け」となるため、免税売上げとなります。
原稿料の消費税の取扱い
原稿料については、「② 事業者が事業として行うものであること」の要件を満たす場合について考えます。趣味の原稿や記事に係る原稿料は課税対象外(不課税取引)です。
国内の出版社から原稿料を受け取る場合
国内の出版社から原稿料を受け取る場合は、その原稿料の受取額は原稿の執筆に係る役務の提供の対価として課税売上げとなります。
国外の出版社から原稿料を受け取る場合
国外の出版社から原稿料を受け取る場合は、消費税法施行令第17条第7項に規定する「非居住者に対する役務の提供で、国内において直接便益を享受するもの以外のもの」に該当するため、その原稿料は免税売上げとなります。
まとめ
法人が原稿料や印税を収受する場合は、すべて課税の対象となります。
個人の場合は、印税はすべて課税の対象となりますが、原稿料は著述家として継続的に原稿を執筆している場合や普段営んでいる事業と関連のある内容の原稿である場合のみ課税の対象となり、事業と無関係な趣味に関する内容の記事や原稿である場合は課税対象外(不課税取引)となります。
また、印税と原稿料については、支払者が国内の出版社か国外の出版社かにより、以下のように区分します。(結論は同じになりますが、考え方のプロセスは異なります。)
内容 | 支払者が国内の出版社 | 支払者が国外の出版社 |
印税 | 課税売上げ | 免税売上げ |
原稿料 | 課税売上げ | 免税売上げ |
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