前課税期間以前の費用等について課税仕入れとして計上することを失念していた場合、その分の仕入税額控除は受けていないことになります。
このような場合に、過年度の課税仕入れを当課税期間の課税仕入れとして処理することは認められるのでしょうか?
(結論)過年度の課税仕入れは当課税期間に計上できない
先に結論から申し上げますと、過年度の課税仕入れを当課税期間の課税仕入れとして計上することはできません。
そのような場合は、課税仕入れを計上し忘れた課税期間について「更正の請求」を行う必要があります。
では、なぜ過年度の課税仕入れを当課税期間の課税仕入れとして計上することができないのでしょうか?
「当たり前だろ」と言われればそれまでかもしれませんが、法的な根拠に基づいて理由を説明せよ言われると、パッと説明するのは意外と難しかったりします。
以下、なぜ過年度の課税仕入れを当課税期間に計上できないのか、理由を解説したいと思います。
課税仕入れとは
消費税法第2条第1項第12号において、以下のように課税仕入れの意義が規定されています。
十二 課税仕入れ 事業者が、事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供(所得税法第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等を対価とする役務の提供を除く。)を受けること(当該他の者が事業として当該資産を譲り渡し、若しくは貸し付け、又は当該役務の提供をしたとした場合に課税資産の譲渡等に該当することとなるもので、第七条第一項各号に掲げる資産の譲渡等に該当するもの及び第八条第一項その他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるもの以外のものに限る。)をいう。
課税事業者が、国内において課税仕入れを行った場合には、その課税仕入れを行った日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、その課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額を控除するものとされています。
これを「仕入税額控除」といいます。
仕入税額控除を受けるための要件
仕入税額控除の適用を受けるためには「帳簿」及び「請求書等」の保存が必要とされています。
「請求書等」についてちゃんと保存してあれば、それが過年度のものであっても、当課税期間にその請求書等に係る費用を帳簿に記載して保存すれば、それにより当課税期間において「帳簿」及び「請求書等」の保存の両方の要件を満たすことになるため、当課税期間において課税仕入れが認められるのではないでしょうか?
このような主張により、過年度の課税仕入れを当課税期間の課税仕入れとできるか否か争われた事例があります。
平成27年9月25日東京地裁判決「法人税更正処分等取消請求事件」(税務訴訟資料 第265号-142(順号12725))
しかしながら、裁判では上記のような主張は認められませんでした。
「帳簿」は、課税仕入れの事実があったことを明らかにするためにその保存が求められており、課税仕入れの事実に従って記載しなければなりません。
過年度の課税仕入れは、請求書等においては当課税期間以前の課税期間中の日付が記載されているはずなので、帳簿上の日付もそれに合わせて記載しなければ取引の事実が記載されているとはいえません。
事実とは異なる記載がされている帳簿の保存は、仕入税額控除の適用要件を満たすものにはなり得ません。
したがって、過年度の課税仕入れについて当課税期間の帳簿に記載して「帳簿」及び「請求書等」を保存することとした場合であっても、当課税期間において仕入税額控除の適用対象とすることはできません。
過年度の課税仕入れの計上漏れがあった場合、更正の請求ができる
過年度の課税仕入れの計上漏れがあった場合、それを当期の課税仕入れとして計上することはできませんが、原則として法定申告期限から5年以内であれば、「更正の請求」という手続きにより、税額の還付を受けることができます。
過年度の費用の計上漏れがあった場合の仕訳
過年度の費用の計上漏れがあった場合は、「過去の誤謬の訂正」を行うことになるため、「繰越利益剰余金」勘定を用いて処理します。
過年度の費用を当期の課税仕入れにすることはできないため、消費税法上の取引区分は不課税取引となります。
例えば、前課税期間の末日に500,000円の外注費の未払計上を失念していた場合は、以下のような仕訳を行います。
なお、金額が僅少で重要性が低い場合や中小企業の場合は、「中小企業の会計に関する指針(中小指針)」や「中小企業の会計に関する基本要領(中小要領)」に基づき「前期損益修正損益」を用いて処理してもかまいません。
まとめ
過年度の課税仕入れについて当課税期間の帳簿に記載して、その「帳簿」と「請求書等」を保存したとしても、その帳簿には取引の事実が記載されていないことから、当課税期間において仕入税額控除を受けることはできません。
過年度の課税仕入れの計上漏れがあった場合は、更正の請求手続きにより還付を受けるようにしましょう。