![税込1,000円の商品の消費税額・本体価格は数学的に「存在しない」!?](https://shouhizei-quiz.com/wp-content/uploads/2021/09/4471700_l-e1631025453594.jpg)
令和3年4月1日から商品価格の総額表示が義務化されたことにより、原則としてすべての商品が税込価格で表示されるようになりました。
そこで、突然ですが皆さん、税込1,000円(消費税率10%)の商品を購入した場合、消費税額はいくらになるかご存知ですか?
お昼ご飯に定食屋で税込1,000円のとんかつ定食を食べて、お腹もいっぱいになったし、消費税もしっかり納税して国民の三大義務の一つを果たしたと満足した気になっているそこのあなた、その1,000円のうちいくらを消費税として支払ったのかちゃんと把握していますか?
「え?1,000円を1.1で割ったら909.09…円になるから、90円か91円…?」と、戸惑いながら答えているあなた、チコちゃんに「ボーっと生きてんじゃねーよ!」と叱られてしまいますよ。
今回は、税込1,000円の商品に含まれる消費税額・本体価格の計算を例に、数学的に消費税額・本体価格が整数値として存在しないことになる税込金額があるということについて及びそのような税込価格の商品の価格表示の方法について解説したいと思います。
消費税額の計算方法
商品価格の内訳として表示する消費税額の計算方法には、以下の3種類の方法があります。
商品価格の内訳として表示する消費税額は、その金額がそのまま税務署への納付税額になるわけではなく、あくまでも消費者に対して商品価格のうち消費税額がいくらぐらいなのかを示すためのものです。
したがって、どの方法で計算するかは法律等で特に決まっておらず、商品を販売する事業者の選択に委ねられています。
実際のところ、ほとんどの事業者が①小数点未満切捨の方法により消費税の表示額を計算しているため、この記事では消費税額の計算はすべて税抜本体価格に消費税率を乗じて小数点未満切捨して求めるという前提で話を進めていきます。
例えば、税抜本体価格532円の商品(税率10%)の消費税額は、532円×10%=53.2円→53円(小数点未満切捨)と求めます。
消費税額も税抜本体価格も存在しない税込金額とは
今回の記事では、先に結論から書いてしまいます。
消費税額を小数点未満切捨で求める場合、以下の条件に該当する税込商品価格については、消費税額も本体価格も数学的に「存在しない」ことになるのです。
記事タイトルの税込価格1,000円(税率10%)についても、11で割ると
1,000÷11=90・・・10
となり、余りが10になるため、消費税額も税抜本体価格も数学的に「存在しない」ことになります。
(注)「・・・」は「余り」の意味です。小学生のときに使ってた表記です。
なぜこのようなことが起きるのか、以下、詳しく解説したいと思います。
税抜本体価格の求め方
まず、消費税額を小数点未満切捨で計算する前提で、税込金額から税抜本体価格を求める方法を解説します。
税込金額は既知の値としてわかっていいるため、税込金額をaとおきます。(aは正の整数)
税抜本体価格は未知の値なのでxとおきます。(xは正の整数)
消費税額は税抜本体価格に消費税率をかけて、小数点未満切捨てをした金額となります。
ここで、消費税率をrとした場合、消費税額は「ガウス記号」を用いて、[rx]と表すことができます。
ガウス記号とは、以下のような性質を持つ関数で、床関数、フロアー関数、整数部分などと呼ばれることもあります。
ガウス記号
[ ]で表される関数。ある値を越えない最大の整数値を表す。X を実数,n を整数としたとき、n ≦ X < n+1 ならば,[X]=n である。例えば,[2.34]=2,[-3.54]=-4。
税抜本体価格xと消費税額[rx]の合計額が税込金額aとなるため、以下のような方程式を立てることができます。
ガウス記号を用いた関数の、以下の性質を用いて、rxの範囲を求めます。
上記の不等式からxの範囲を求めると、次のようになります。
上記不等式の左辺に注目すると、xは、a÷(1+r)以上の整数値になることから、税抜本体価格xは、税込金額を(1+消費税率)で割った金額を小数点未満切り上げした値になると結論付けることができます。
この計算方法を用いた消費税額の具体的な求め方については、詳しくは次の記事をご覧ください。
税抜金額xが整数の値を取らない場合の条件(標準税率10%の場合)
先ほど求めた不等式では、xが整数の値を取らず、税抜本体価格を求められないことがあります。
ここで、記事タイトルの「税込1,000円」の商品価格を例に考えてみましょう。
税込金額a=1,000、消費税率r=0.1を代入すると
となるため、xは整数の値をとらないことになります。
これは、税抜本体価格は整数の値として存在しないということになり、税抜本体価格から求められる消費税額も同様に整数の値として存在しないということを意味します。
仮に、税込1,000円の税抜本体価格を909円とした場合、消費税額は909円×10%=90.9円→90円(小数点未満切捨)、税込金額=909円+90円=999円となり矛盾します。
一方、税込1,000円の税抜本体価格を910円とした場合、消費税額は910円×10%=91円、税込金額=910円+91円=1,001円となり、これまた矛盾します。
このように、税抜本体価格と消費税額が整数値として存在しないこととなる場合の条件について詳しく見ていきましょう。
まず、税抜本体価格・消費税額の求め方を整数論の問題として考えるため、剰余類による場合分けを考えます。
税込価格を(1+消費税率)で割った式は、次のような整数同士の割り算の形で表すことができます。
したがって、税込価格をAと表記し直した場合、以下の数式で表される11を法とする剰余類として考えることができます。(n:n≧0となる整数、m:0≦m≦10となる整数)
A=11n+m
これを上記で求めたxの不等式に当てはめて考えると、m≠0(m=0の場合割り切れて整数値となるため)、かつ、以下のとおりAを(1+r)で割った整数部分と(A+1)を(1+r)で割った数値の差が1以下となる場合には、xが整数値をとらないことになります。
すなわち、以下の条件式で表せます。
これにr=0.1を代入して整理すると、次のように表せます。
上記不等式の左辺は、税込価格Aを1.1で割った場合の小数部分を意味します。
したがって、A=11n+mと、11を法とする剰余類で分類しているため、剰余mに1から10までの各値を代入して1.1で割った10パターンの小数部分を見て、0.090909…以下となっているものがあれば、それが整数値の税抜本体価格を持たない剰余類となります。
エクセルの力を借りて、それぞれ計算すると以下のようになります。
m=10の場合、小数部分が0.090909…以下となるため、税抜本体価格xは整数値を取らないことになります。
つまり、標準税率10%が適用される場合、税込金額を11で割って余りが10になるときは、税抜本体価格及び消費税額は整数値として存在しないということになります。
税抜金額xが整数の値を取らない場合の条件(軽減税率8%の場合)
今度は、軽減税率8%が適用される場合について考えてみましょう。
考え方は先ほどと同じで、剰余類による場合分けを行います。
税込価格を(1+消費税率)で割った式は、素因数分解をして次のような整数同士の割り算の形で表すことができます。
したがって、税込価格をAと表記し直した場合、以下の数式で表される27を法とする剰余類として考えることができます。(n:n≧0となる整数、m:0≦m≦26となる整数)
A=27n+m
これを上記で求めたxの不等式に当てはめて考えると、m≠0(m=0の場合割り切れて整数値となるため)、かつ、以下のとおりAを(1+r)で割った整数部分と(A+1)を(1+r)で割った数値の差が1以下となる場合には、xが整数値をとらないことになります。
すなわち、以下の条件式で表せます。
これにr=0.08を代入して整理すると、次のように表せます。
上記不等式の左辺は、税込価格Aを1.08で割った場合の小数部分を意味します。
したがって、先ほどと同様、A=27n+mと、27を法とする剰余類で分類しているため、剰余mに1から26までの各値を代入して1.08で割った26パターンの小数部分を見て、0.074074…以下となっているものがあれば、それが整数値の税抜本体価格を持たない剰余類となります。
またまたエクセルの力を借りて、それぞれ計算すると以下のようになります。
m=13または26の場合、小数部分が0.074074…以下となるため、税抜金額xは整数値を取らないことになります。
つまり、軽減税率8%が適用される場合、税込金額を27で割って余りが13または26となるときは、税抜本体価格及び消費税額は整数値として存在しないということになります。
実際に、具体例としてn=2021(今年の西暦)、m=13として税込金額A=2021×27+13=54,580円の場合の税抜本体価格について考えてみましょう。
税込金額a=54,580、消費税率r=0.08を代入すると
となるため、xは整数の値をとらないことになり、すなわち、税抜本体価格及び消費税額は整数値として存在しないということになります。
税抜本体価格が存在しない場合、どう表示すればいいのか
上記の条件に該当し、税抜本体価格が整数値として存在しない場合は、商品価格の税抜本体価格と消費税額の内訳はどのように表示すればいいのでしょうか?
このような場合は、仕方がないので、税抜本体価格は以下の不等式で計算した右辺か左辺のいずれか好きな方に近い整数金額とし、消費税額は税込金額と税抜本体価格の差額として求めるしかありません。
例えば、標準税率10%、税込金額1,000円の場合、税込金額a=1,000、消費税率r=0.1を代入すると
となるため、909円か910円いずれか好きな方を税抜金額とします。
消費税額は、税込金額と税抜本体価格との差額(税抜金額を909円とする場合は1,000円-909円=91円、税抜金額を910円とする場合は1,000円-910円=90円)によって求めます。
数学的にはおかしいですが、実務ではそんなこと言っていられないため我慢しましょう。
個人的には、税抜本体価格は上記不等式の右辺の金額(上記例の場合910円)とする方が、先ほどご紹介した「税抜本体価格は税込金額を(1+消費税率)で割った金額を小数点未満切り上げて求める」というルールで統一できるためオススメです。
(参考)適格請求書に記載する消費税額は、90円でも91円でもどちらでもOK
令和5年10月1日からスタートする適格請求書等保存方式(インボイス制度)のもとでは、適格請求書等に消費税額を記載する必要があります。
この記事のように、数学的に本体価格が存在しない場合であっても、消費税額は記載しなければなりません。
適格請求書等保存方式のもとにおける積上計算の基礎となる消費税額等については、税込価格に110分の10(または108分の8)を乗じて1円未満の端数が生じた時は、端数を切り捨てまたは四捨五入することを認めています。
六 第四十九条第一項第一号イからニまでに掲げる課税仕入れ 課税仕入れに係る支払対価の額(法第三十条第八項第一号ニに規定する課税仕入れに係る支払対価の額をいう。以下この章において同じ。)に百十分の十(当該課税仕入れが他の者から受けた軽減対象課税資産の譲渡等に係るものである場合には、百八分の八)を乗じて算出した金額(当該金額に一円未満の端数が生じたときは、当該端数を切り捨て、又は四捨五入した後の金額)
したがって、適格請求書等に記載する消費税額は、数学的に本体価格が存在しない場合であっても税込価格に110分の10(または108分の8)を乗じて生じた1円未満の端数は、切り捨てまたは四捨五入して記載すれば大丈夫です。
10%税込価格が1,000円である場合は
1,000円×10/110=90.9090…
となるため、切捨てして「90円」としても、四捨五入して「91円」としても、どちらでも構いません。
まとめ
消費税額を小数点未満切捨で求める場合、以下の条件に該当する税込商品価格については、消費税額も税抜本体価格も、整数値は数学的に「存在しない」こととなります。
上記の条件に該当する金額で商品を販売する場合は、仕方がないので、数学的には矛盾することになりますが、税抜本体価格は税込金額を(1+消費税率)で割った値の近傍のいずれかの整数金額を採用し、消費税額は税込金額と税抜本体価格との差額から求めるようにしましょう。