不動産を購入、相続などにより取得し、所有権が自分に移ったときは「所有権移転登記」を行う必要があります。
しかし、登記をうっかり忘れたまま不動産の賃貸を始めてしまうことも現実問題としてあり得ることかと思います。
今回は、登記の変更を失念した不動産に係る賃貸料収入は誰の売上げになるのかについて解説したいと思います。
所有権移転登記とは
所有権移転登記とは、不動産の購入や相続などにより所有者が変わった時に、新たな所有者に関する情報を登記する手続きです。
所有権移転登記の手続きが完了するまでの期間は、登記申請から1~2週間ほどです。
不動産登記が完了すると、「土地や建物が誰のものなのか」という情報を誰でも法務局で閲覧できるようになります。
民法上は、不動産の所有権は登記をしなければ、取引の当事者間を除き、その土地や建物が自分のものであることを第三者に主張することができないこととなっています。
では、所有権移転登記を失念したまま不動産の賃貸を始めた場合、税務上、賃貸料収入は誰の売り上げとして申告をすべきなのでしょうか?
実質課税の原則
消費税法第13条において、名義人のいかんにかかわらず、資産の譲渡等の対価の実質的な帰属者又は特定仕入れに係る対価の実質的な負担者に対して課税することとされています。
(資産の譲渡等又は特定仕入れを行つた者の実質判定)
第十三条 法律上資産の譲渡等を行つたとみられる者が単なる名義人であつて、その資産の譲渡等に係る対価を享受せず、その者以外の者がその資産の譲渡等に係る対価を享受する場合には、当該資産の譲渡等は、当該対価を享受する者が行つたものとして、この法律の規定を適用する。
「資産の譲渡等の対価を享受する者」が誰であるかについては、国税庁の消費税法基本通達4-1-1に以下のような記載があります。
(資産の譲渡等に係る対価を享受する者の判定)
事業に係る事業者がだれであるかは、資産の譲渡等に係る対価を実質的に享受している者がだれであるかにより判定する。
したがって、消費税では、資産の譲渡等の対価の帰属は、「誰が資産の譲渡等を行ったのか」という形式的な基準ではなく、「誰が資産の譲渡等に係る対価を収受するのか」という実質的な基準で判定することとなりす。
この考え方を「実質課税の原則」または「実質主義」といいます。
実質課税の原則については、次の記事でも詳しく解説しています。
登記変更を失念していても、実質的に賃貸料収入を享受する者の売上げになる
上記の「実質主義の原則」の考え方により、登記変更の失念により名目上の所有者が元の所有者のままであっても、実際に対価を収受しているのは不動産の譲受人(上記イラストのB社)であるため、名目ではなく実質で判断し、実質的に賃貸料収入を享受している譲受人(B社)の売上げとして税務上申告することになります。
なお、不動産の賃貸収入は、消費税の計算上、事務所用として事業者に貸し付けている場合は課税売上げ、契約期間1月以上で住宅として貸し付けている場合は非課税売上げとなります。
まとめ
不動産を購入や相続により取得した場合において、本来ならしなければいけない所有権移転登記の手続きを失念していたまま、当該不動産の賃貸を開始してしまうことも、現実問題としてはあり得るかと思います。
この場合は、「実質課税の原則」に基づき、名目上の所有者が誰であるかではなく取引の実質で判断し、実質的に賃貸料収入を享受する者の売上げとして税務上申告を行います。
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問題番号 | タイトル |
133 | 登記の変更を失念した事務所用建物の賃貸収入 |