銀行などの金融業者は、他の事業者から持ち込まれた手形の取り立てを代わりに行うことがあります。
持ち込まれた手形に係る消費税法上の取扱いについては、手形の金額を支払うタイミング、手形法上の遡及権の行使の有無により、取扱いの考え方が異なってくるため注意が必要です。
今回は、金融業者による手形の割引、買取、取立及び信用の保証に係る消費税の取扱いと経理処理・仕訳例について解説したいと思います。
手形の買取り等に対する課税関係
国税庁が公表している質疑応答事例『手形の買取り等に対する課税関係』において、手形の取り扱いに関して以下のような回答がされています。
【照会要旨】
金融業者が一般に行う次のような手形の割引、手形の取立て、手形の買取り及び信用の保証に対する取扱いはどのようになるのでしょうか。1 手形法上の遡求権(手形金額の支払がないか、支払の可能性が減少したときに、その所持人が前の所持人に対して一定の金額を請求する権利)を取引の相手方に行使することとされている場合における次の取引
(1) 手形の持込者に対して、持込時に、持込時から手形の支払期日(以下「支払期日」という。)までの期間に応じ、一定の割引率に基づいて計算した割引料を手形額面から控除して現金又は手形で支払う場合
(2) 手形の持込者に対して、持込手形の支払期日に取立てが完了した場合に、その取立額を現金で支払うこととし、その支払の際に手数料を収受する場合2 手形法上の遡求権を取引の相手方に行使しないこととされている場合における次の取引
(1) 手形の持込者に対して、持込時に、持込時から支払期日までの期間に応じ、一定の利率に基づいて計算した割引料又は保証料を手形額面から控除して現金又は手形で支払う場合
(2) 手形の持込者に対して、持込手形の支払期日に取立てが完了した場合に、その取立額を現金で支払うこととし、その支払の際に、保証料又は手数料を収受する場合
なお、支払期日に持込手形が不渡りとなった場合でも、額面金額から保証料又は手数料を控除した残額を現金で支払う。3 手形の所持人に対して、当該手形の支払保証をし、その特定の手形が不渡りとなった場合には、額面金額を現金で支払うことを約し、保証料を収受する取引
【回答要旨】
1の(1) 「手形の割引」に該当し、その割引料は非課税となります(令10③七)。
なお、その手形の割引時に、割引料とは別に収受する「手数料」は、課税の対象となります。
1の(2) その手数料は、手形の取立てという役務の提供に対する対価であり、課税の対象となります。
2の(1) 「金銭債権の譲受け」に該当し、割引料、保証料又は手数料等という名目の如何にかかわらず、非課税となります(令10③八)。
2の(2) 「信用の保証としての役務の提供」に該当し、非課税となります(法別表第二3)。
3 「信用の保証としての役務の提供」に該当し、非課税となります(法別表第二3)。
(注) 上記の1及び2の場合には、通常、取引の対象とする手形について裏書譲渡されます。
上記回答を、「手形法上の遡求権行使の有無」「支払いのタイミング」のそれぞれのポイントで分けて、簡潔にまとめると次のようになります。
これを踏まえて、各取引についてそれぞれ細かく見てみましょう。
手形法上の遡求権を行使する場合
持込時点で支払うとき
手形法上の遡求権を行使できる場合において、手形の所持人が金融業者等に手形を持ち込んだ時点で、手形額面から一定の割引料金を控除した金額を支払うときは「手形の割引」として考えます。
手形の割引料は、消費税法施行令10③七に規定する「手形の割引」なので、非課税売上げに該当します。当該非課税売上高は、課税売上割合の算定上分母に全額算入します。
手形代金の回収は不課税取引です。
持ち込まれた手形の手形代金が回収不能となった場合は、「受取手形」勘定から「不渡手形」勘定に振り替えます。
受取手形を譲り受けた当社がそれに対する弁済が受けられないときに、譲渡者(A社)から譲受対価の取戻しを行う際に収受する金利3万円については、「受取利息」勘定で処理し、非課税売上げとなります。
手形の額面金額とA社からの取戻額との差額5万円は「債権譲渡損」として処理し、金銭債権の譲渡差額なので非課税仕入れとなります。
この点については、国税庁の質疑応答事例『条件付金銭債権の譲受差益の取扱い』が参考になります。
取立完了後に支払う場合
手形法上の遡求権を行使できる場合において、手形の取立が完了した時点で、取立額から手数料を徴収した金額を支払う場合は「手形の取立の代行」をしているものと考えます。
手形の所持人から手形の取立依頼を受けた時は、「仕訳なし」となります。
手形代金を回収した場合は、手形所持者A社が受け取る金額を代わりに預かっているだけなので「預り金」などの負債勘定で処理します。
取立額を支払う際に徴収する手数料は、「受取手数料」などの収益の勘定科目で処理し、手形金額の取立代行に係る役務の提供の対価として「課税売上げ」となります。
取り立て依頼を受けた約束手形が回収不能となった場合は、当社においては仕訳は行いません。
この場合、A社において「受取手形」勘定を「不渡手形」勘定に振り替える処理が行われます。
手形法上の遡求権を行使しない場合
持込時点で支払うとき
手形法上の遡求権を行使しない場合において、手形の所持人が金融業者等に手形を持ち込んだ時点で、手形額面から一定の割引料金を控除した金額を支払うときは「手形の買取」として考えます。
手形法上の遡求権を行使しない場合に、持ち込まれた手形の額面金額から差し引いて徴収する手数料等は、その名目の如何にかかわらず、消費税法施行令10③八に規定する「金銭債権の譲受差益」に該当するので、非課税売上げに該当します。当該非課税売上高は、課税売上割合の算定上分母に全額算入します。
手形代金の回収は不課税取引です。
持ち込まれた手形の手形代金が回収不能となった場合、「受取手形」勘定から「不渡手形」勘定に振り替えます。
当社が遡求権を行使しないこととされているため、手形代金について「貸倒損失」を計上します。なお、当該貸倒損失は資産の譲渡等の対価として取得した金銭債権の貸倒れではないため、「貸倒れに係る消費税額の控除」の規定の適用を受けることはできません。
取立完了後に支払う場合
手形法上の遡求権を行使しない場合において、手形の取立が完了した時点で、取立額から手数料を徴収した金額を支払う場合は「信用の保証」をしているものと考えます。
手形の所持人から手形の取立依頼を受けた時は、実質的に当該手形が不渡りとなった場合でも額面金額を支払うことを担保していることになります。
この場合、手形の持ち込みを受けた時点では「仕訳なし」としても構いませんが、保証債務の存在を明らかにするために備忘的に対照勘定法により「保証債務見返」「保証債務」という貸借一対の対照勘定を用いて記帳する方法もあります。
手形代金を回収し、取立額を支払う際に徴収する手数料は、手形代金の取立代行にかかる役務の提供の対価と考えるのではなく、「信用の保証としての役務の提供」の対価として考えるため、非課税売上げに該当します。
代金の支払いが完了すれば、額面金額の支払いの保証債務は消滅するため、備忘的に計上していた「保証債務見返」「保証債務」を取り崩します。
持ち込まれた手形の手形代金が回収不能となった場合は、額面金額100万円から手数料5万円を控除した95万円を支払います。
この際計上する「受取手数料」などの収益勘定は、「信用の保証としての役務の提供」の対価であるため非課税売上げとなります。
また、額面金額100万円については「雑損失」などの費用勘定で処理し、対価性のない取引なので消費税の税区分は対象外(不課税取引)となります。
まとめ
金融業者等が手形の持込を受けた場合の経理処理・消費税の取扱いは、「手形法上の遡求権行使の有無」「支払いのタイミング」がそれぞれのポイントとなります。
手形の割引・買取、信用の保証に該当する場合に徴収する手数料等は非課税売上げとなりますが、手形の取立代行に該当する場合に徴収する手数料は課税売上げになります。
なお、本記事の仕訳は一例であり、取引の状況によっては使用する勘定科目や仕訳方法は異なる可能性があるため、個々の状況を踏まえて判断してください。
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消費税法 無敵の一問一答
問題番号 | タイトル |
286 | 遡及権を行使できる約束手形の取立手数料 |
287 | 遡及権を行使できない約束手形の取立手数料 |