麻薬の密売や泥棒など、世の中には、悪いことをしてお金を稼いでいる人もいます。
このような違法行為により生じた収益や、そのために必要となった費用についての消費税の取扱いはどうなるのでしょうか?
今回は、違法行為により生じた収益が費用が消費税の課税対象となるかどうかについて解説したいと思います。
課税の対象の4要件
麻薬の密売や泥棒などの違法行為については、適法に行われた取引ではありません。
このような取引について消費税の課税対象となるのでしょうか?
消費税は、次の4要件を満たす取引が課税の対象となります。
違法行為に係る取引が消費税の課税対象となるかどうかは、上記の4要件を満たしているかどうかにより判断します。
取引の対象となる「資産」とは
課税の対象の4要件のうち「④ 資産の譲渡・貸付け、役務の提供であること」の「資産」とは、いったいどのようなものを指すのでしょうか?
この点について、国税庁のホームページに次のような記載があります。
(資産の意義)
法第2条第1項第8号及び第12号《資産の譲渡等の意義等》に規定する「資産」とは、取引の対象となる一切の資産をいうから、棚卸資産又は固定資産のような有形資産のほか、権利その他の無形資産が含まれることに留意する。(平27課消1-17により改正)
国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡は、消費税の課税の対象となります。
この資産とは、販売用の商品、事業等に用いている建物、機械、備品などの有形資産のほか、特許権、実用新案権、意匠権、商標権などの権利やノウハウその他の無体財産権など、およそ取引の対象となるすべてのものをいいます。
・・・(後略)
このように、「取引の対象となるすべてのもの」が消費税の課税対象に含まれることとなり、その取引が適法に行われたものであるかどうかは関係ないこととされています。
したがって、麻薬や銃器などを一般人が販売することは、「麻薬及び向精神薬取締法」「覚せい剤取締法」「大麻取締法」「銃刀法」などの法律により禁止されていますが、もし販売した場合は、消費税法上はそれが違法取引であるかどうかは関係なく、すべて課税の対象となります。
また、役務の提供についても同様に、取引対象となるすべての役務の提供が消費税の課税対象となるため、例えば、売春や暗殺代行などの違法(売春防止法違反、刑法違反)な取引を行った場合であっても消費税の課税対象となります。
公序良俗に反し無効とされる取引であっても課税対象となる
民法90条の規定により、公序良俗に反する法律行為は無効とされます。公序良俗とは、「公の秩序又は善良の風俗」の略です。
(公序良俗)
第九十条 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
公序良俗に反する法律行為とは、簡単に言うと「倫理に反する行為」です。
例えば、愛人契約やネズミ講の入会契約、大学院の博士論文などの代筆契約、賭博契約、闇金の苛烈な取立代行契約などは公序良俗に反する行為として無効とされます。
なお、公序良俗に反する契約に基づき依頼者が支払った報酬は「不法原因給付」とされ、依頼者は返還請求をすることができません。
(不法原因給付)
第七百八条 不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。
したがって、公序良俗に反する契約に基づき役務の提供等を行った場合は、その契約が無効とされたとしても、対価を得て行う役務の提供であり、依頼者に返還請求権はないため、消費税法上は課税売上げとなります。
泥棒や強盗などの対価性のない取引は課税対象外(不課税取引)
有償で行う麻薬の販売や暗殺代行などは、違法行為であるとはいえ、何かしらのモノやサービスを提供し、その対価としてお金をもらっていることになります。
これは、課税の対象の4要件のうち「③ 対価を得て行うものであること」の要件を満たすため、消費税の課税対象となります。
しかし、同じ違法行為であっても、空き巣や強盗、引ったくり、振り込め詐欺、架空請求などにより収益を得た場合は、何もモノやサービスを提供しているわけではありません。
この場合、課税の対象の4要件のうち「③ 対価を得て行うものであること」の要件を満たさないため、消費税の課税対象外(不課税取引)となります。
(参考)商品やサービスを提供すると騙る詐欺も不課税
振込みの後に、商品を発送したりサービスを提供することとしてお金をもらった場合に、その商品やサービスを提供せずに雲隠れする場合は、モノやサービスを提供した対価ではないため、課税の対象の4要件のうち「③ 対価を得て行うものであること」の要件を満たさないため、消費税の課税対象外(不課税取引)となります。
(参考)ネガティブオプションは課税対象
注文した覚えのない魚介類などの生ものや健康食品を一方的に送りつけられ、料金を請求される「ネガティブ・オプション」(「送り付け商法」とも呼ばれます。)という詐欺の手口があります。
すぐに腐ってしまうようなものなので返品することもできず、仕方ないので食べてしまったり、廃棄してしまうことが多く、返品できない以上解約はできませんと主張する悪質な手口です。
この場合に詐欺業者がだまし取った料金は、注文を受けていない一方的なものであるとはいえ、一応商品を引き渡した対価であるため、課税売上げとして消費税を納付する必要があります。
違法行為に係る費用は請求書等の交付を受けていれば課税仕入れとなる
違法行為に係る費用を課税仕入れとして計上するためには、取引の相手先から区分記載請求書等の交付を受ける必要があります。
例えば、麻薬のヘロインの仕入販売を行う事業者が、他者に転売するために麻薬の仕入れた場合に、以下のような領収書の交付を受けているときは、そのヒロインの仕入代金について課税仕入れとして計上し、仕入税額控除を行うことが認められます。(麻薬を販売したことを自ら暴露する領収書を作る人はまずいないでしょうが。。。)
ちなみに、ヘロインなどの麻薬は、「医薬品」であるため、軽減税率の適用対象となる「飲食料品」には該当せず、標準税率10%が適用されます。
なお、領収書に本当に上記のように正直に嘘偽りなく記載されているのであれば、税務上は課税仕入れとして認めざるを得ませんが、下記のように品目や税率などが偽装された領収書の交付を受けた場合は、捕まった後に「実はヘロインの仕入代金だったから課税仕入れにしてくれ」と主張しても認められないので注意しましょう。
まとめ
違法行為に係る取引であっても、消費税の課税の対象の4要件を満たす取引であれば、契約が無効にされるかどうか等関係なく、全て課税の対象となります。
麻薬の販売や暗殺代行など、何かしらのモノやサービスを提供した対価としてお金を収受する場合は消費税の課税の対象となります。
それに対し、空き巣や強盗、詐欺など、一方的に物を強奪するような違法行為については、課税の対象の4用件のうち「③ 対価を得て行うものであること」の要件を満たさないため、消費税の課税対象外(不課税取引)となります。
違法行為に係る費用については、提供を受けたモノやサービスの内容が嘘偽りなく記載されている請求書等の交付を受けているのであれば、違法なものであっても課税仕入れとなります。しかし、内容が偽装された請求書等の交付を受けた場合は、その費用については課税仕入れとはなりません。
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