所得税第56条の規定により、事業主と生計を一にする親族が事業から対価の支払いを受ける場合には、その対価の額は、原則としてその事業主の事業所得の金額の計算上必要経費に算入しないこととされています。
しかし、消費税法においては、上記のような取扱いは設けられていないため、実際に事業者が親族に対価を支払っている場合は注意が必要となります。
今回は、所得税法第56条の適用を受ける場合の消費税の取扱いの注意点について解説します。
所得税法第56条とは
所得税法第56条の規定は、次のようになっています。
(事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例)
第五十六条 居住者と生計を一にする配偶者その他の親族がその居住者の営む不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合には、その対価に相当する金額は、その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入しないものとし、かつ、その親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入する。この場合において、その親族が支払を受けた対価の額及びその親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、当該各種所得の金額の計算上ないものとみなす。
非常に難解な条文ですが、ポイントは以下のようになります。
・親族において事業主から対価を受けるために生じた費用は、事業主の必要経費に算入する。
例えば、事業主である夫が、妻が所有するマンションの一室を事務所として賃借している場合において、夫が妻に事務所家賃を支払ったときは、所得税法第56条の規定により、その事務所家賃は夫の必要経費に算入されず、また、妻の収入金額にもなりません。
また、妻が夫からの事務所家賃収入を得るために生じた費用(減価償却費や固定資産税、管理会社に支払う業務委託費など)は、夫の必要経費に算入することになります。
消費税法には、所得税法第56条に見合う規定はない
消費税は、次の4要件を満たす取引が課税の対象となります。
消費税法上は、所得税法第56条のように、親族間で対価の授受があった場合に、それにより生じた課税仕入れ・課税売上げをないものとするといった取扱いは設けられていません。
事業者が国内において行う課税仕入れは、その相手方が誰であるかにかかわらず仕入税額控除の対象となり、両者で合意し実際にやり取りが行われた金額が支払対価の額となります。
したがって、上記の課税の対象の4要件を満たす限り、取引の相手方が生計を一にする親族であっても、実際に支払った対価の額が課税仕入れとなり仕入税額控除が認められるとともに、その支払いを受けた金額は課税資産の譲渡等の対価の額として課税標準額に算入されることとなります。
先ほどと同様の例で、事業主である夫が、妻が所有するマンションの一室を事務所として賃借している場合において、夫が妻に事務所家賃を支払ったときは、その事務所家賃は夫の課税仕入れとなるとともに、妻の課税売上げとなります。
また、外部の管理会社などに支払った業務委託費用は、妻の課税仕入れとなります。(減価償却費や固定資産税については課税対象外(不課税)なので考慮する必要はありません。)
まとめ
所得税の計算上は、所得税法第56条の規定により、事業主が親族に支払った対価はないものとされ、また、親族において事業主から対価を受けるために生じた費用は事業主の必要経費に算入されることとされます。
しかし、消費税法には所得税法第56条に見合う規定はないため、事業主が親族に支払った対価は課税仕入れ・課税売上げとなるとともに、親族において事業主から対価を受けるために生じた費用は親族の課税仕入れとなります。
取引の内容 | 所得税法 | 消費税法 | |
事業主が親族に支払った対価 | 事業主の取扱い | ないものとみなす | 課税仕入れ |
親族の取扱い | ないものとみなす | 課税売上げ | |
事業主から対価を受けるために生じた費用 | 事業主の取扱い | 必要経費 | なし |
親族の取扱い | ないものとみなす | 課税仕入れ(※) |
(※)減価償却費や固定資産税など、課税仕入れにならないものは考慮不要