税抜経理方式で仮受消費税と仮払消費税の差額が納税額と一致する条件

この記事の内容は、2025年1月現在の最新の税制に対応しています。

消費税の経理方式には「税込経理方式」と「税抜経理方式」の2種類があります。

今回は「税抜経理方式」を採用している場合に、「仮受消費税等」勘定と「仮払消費税等」勘定の差額がぴったり納付税額と一致するための条件について解説したいと思います。

 

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たいていの場合、仮受消費税と仮払消費税の差額は納税額と一致しない

税抜経理方式を採用している場合、個別対応方式により区分経理を行っている場合や簡易課税制度を採用している場合は「仮受消費税等」勘定と「仮払消費税等」勘定の差額は納付税額と一致しません。

また、全額控除の場合でも、税額計算時の端数処理の関係上、ほとんどの場合「仮受消費税等」勘定と「仮払消費税等」勘定の差額は納付税額と一致しません。

一致しなかった端数は「雑損失」又は「雑収入」として計上することになります。

例えば、次の数値例で「仮受消費税等」勘定と「仮払消費税等」勘定の差額と実際の納税額を比較してみましょう。

数値例
当社の当課税期間中の課税売上高及び課税仕入高の状況は次のとおりである。なお、当社は原則課税の課税事業者であり、仕入税額は全額控除している。
売上げの区分

税抜価格の合計

消費税等の合計
10%課税売上高 773,850 77,385(仮受消費税等)
8%課税売上高 845,250 67,620(仮受消費税等)
10%課税仕入高 482,100 48,210(仮払消費税等)
8%課税仕入高 593,875 47,510(仮払消費税等)

「仮受消費税等」勘定と「仮払消費税等」勘定の差額

仮受消費税等 = 77,385円 + 67,620円 = 145,005円

仮払消費税等 = 48,210円 + 47,510円 = 95,720円

差額 = 145,005円 - 95,720円 = 49,285円

実際の納付税額

[課税標準額に対する消費税額]

① 7.8%

(773,850円+77,385円)×100/110=773,850円 → 773,000円(千円未満切捨)

773,000円×7.8%=60,294円

② 6.24%

(845,250円+67,620円)×100/108=845,250円 → 845,000円(千円未満切捨)

845,000円×6.24%=52,728円

③ ① + ② = 113,022円

[控除対象仕入税額]

① 7.8%

(482,100円+48,210円)×7.8/110=37,603円

② 6.24%

(593,875円+47,510円)×6.24/108=37,057円

③ ① + ② = 74,660円

[納付税額(国税)]

113,022円 - 74,660円 =38,362円 → 38,300円(百円未満切捨)

[納付税額(地方消費税)]

38,300円 × 22/78 = 10,802円 → 10,800円(百円未満切捨)

[合計]

38,300円 + 10,800円 = 49,100円

仕訳

「仮受消費税等」勘定と「仮払消費税等」勘定の差額は49,285円ですが、実際の納付税額は49,100円となり、ぴったり一致しませんでした。

両者の差額は「雑収入」勘定で処理します。

仮受消費税と仮払消費税の差額は納税額と一致しない場合の仕訳

 

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仮受消費税と仮払消費税の差額は納税額と一致するための条件

実は、数学的に「仮受消費税等」勘定と「仮払消費税等」勘定の差額は納付税額と必ず一致する条件があります。

次の条件をすべて満たす場合は、「仮受消費税等」勘定と「仮払消費税等」勘定の差額は納付税額と必ず一致します。

① 仕入税額につき全額控除していること
② 標準税率10%が適用される取引はすべて「10円」の倍数の税抜単価で取引していること
③ 軽減税率8%が適用される取引はすべて「25円」の倍数の税抜単価で取引していること
④ 10%課税売上高(税抜金額)の合計金額が1,000の倍数であること
⑤ 8%課税売上高(税抜金額)の合計金額が5,000の倍数であること
⑥ 10%課税仕入高(税抜金額)の合計金額が500の倍数であること
⑦ 8%課税仕入高(税抜金額)の合計金額が625の倍数であること
⑧ 国税の消費税額が3,900の倍数であること(=10%課税売上高(税抜金額)と10%課税仕入高(税抜金額)の差額が50,000の倍数、かつ、8%課税売上高(税抜金額)と8%課税仕入高(税抜金額)の差額が62,500の倍数であること)

これを踏まえて、上記の条件をすべて満たす取引について考えてみましょう。

 

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仮受消費税と仮払消費税の差額が納税額と一致する場合の具体例

この数値例↓は、上記の①~⑧の条件のすべてを満たしています。

数値例
当社の当課税期間中の課税売上高及び課税仕入高の状況は次のとおりである。なお、当社は原則課税の課税事業者であり、仕入税額は全額控除している。また、標準税率10%が適用される取引はすべて「10円」の倍数、軽減税率8%が適用される取引はすべて「25円」の倍数の単価で取引している。
売上げの区分

税抜価格の合計

消費税等の合計
10%課税売上高 771,000 77,100(仮受消費税等)
8%課税売上高 845,000 67,600(仮受消費税等)
10%課税仕入高 471,000 47,100(仮払消費税等)
8%課税仕入高 595,000 47,600(仮払消費税等)

「仮受消費税等」勘定と「仮払消費税等」勘定の差額

仮受消費税等 = 77,100円 + 67,600円 = 144,700円

仮払消費税等 = 47,100円 + 47,600円 = 94,700円

差額 = 144,700円 - 94,700円 = 50,000円

実際の納付税額

[課税標準額に対する消費税額]

① 7.8%

(771,000円+77,100円)×100/110=771,000円 → 771,000円(千円未満切捨)

771,000円×7.8%=60,138円

② 6.24%

(845,000円+67,600円)×100/108=845,000円 → 845,000円(千円未満切捨)

845,000円×6.24%=52,728円

③ ① + ② = 112,866円

[控除対象仕入税額]

① 7.8%

(471,000円+47,100円)×7.8/110=36,738円

② 6.24%

(595,000円+47,600円)×6.24/108=37,128円

③ ① + ② = 73,866円

[納付税額(国税)]

112,866円 - 73,866円 =39,000円 → 39,000円(百円未満切捨)

[納付税額(地方消費税)]

39,000円 × 22/78 = 11,000円 → 11,000円(百円未満切捨)

[合計]

39,000円 + 11,000円 = 50,000円

仕訳

「仮受消費税等」勘定と「仮払消費税等」勘定の差額と実際の納付税額はいずれも50,000円となり、ぴったり一致しました。

この場合、「雑収入」や「雑損失」は計上する必要はなく、仕訳は次のようになります。

仮受消費税と仮払消費税の差額は納税額と一致する場合の仕訳

 

条件に当てはまる場合に仮受消費税と仮払消費税の差額が納税額と一致する理由

上記の条件に当てはまる場合に、「仮受消費税等」勘定と「仮払消費税等」勘定の差額は納付税額がぴったり一致する理由について、各条件ごとに解説します。

① 仕入税額につき全額控除していること

個別対応方式により区分経理している場合や簡易課税制度を採用している場合は課税売上割合やみなし仕入率をかけることにより、控除対象仕入税額が仮払消費税等の金額と一致しなくなります。

どんな場合でも「仮受消費税等」勘定と「仮払消費税等」勘定の差額が納付税額一致する条件を設定するためには、仕入税額は全額控除している必要があります。

なお、全額控除の場合、税額計算において円未満の端数が一切生じなければ「仮受消費税等」勘定と「仮払消費税等」勘定の差額が納付税額一致することになるため、これ以外の条件についてはすべて円未満の端数が生じないようにするための条件について考えます。

② 標準税率10%が適用される取引はすべて「10円」の倍数の税抜単価で取引していること

「仮受消費税等」勘定と「仮払消費税等」勘定を計上する際に、税抜金額に標準税率10%をかけて小数点未満の端数が生じないようにするためには、税抜金額をP円とした場合

0.1P = 1/10×P

が整数となる必要があります。

したがって、すべて10円の倍数の税抜単価で取引をしていれば、小数点未満の端数は生じないことになります。

③ 軽減税率8%が適用される取引はすべて「25円」の倍数の税抜単価で取引していること

先ほどと同様、「仮受消費税等」勘定と「仮払消費税等」勘定を計上する際に、税抜金額に軽減税率8%をかけて小数点未満の端数が生じないようにするためには、税抜金額をP円とした場合

0.08P = 8/100×P = 2/25×P

が整数となる必要があります。

したがって、すべて25円の倍数の税抜単価で取引をしていれば、小数点未満の端数は生じないことになります。

④ 10%課税売上高(税抜金額)の合計金額が1,000の倍数であること

課税標準額は千円未満切り捨てされてしまうため、10%課税売上高(税抜金額)の合計金額が1,000の倍数である必要があります。

なお、標準税率10%が適用される場合は、国税の税率7.8%を乗じても円未満の端数が生じることはないため、1000の倍数であれば十分です。

⑤ 8%課税売上高(税抜金額)の合計金額が5,000の倍数であること

先ほどと同様に、課税標準額は千円未満切り捨てされてしまうため、8%課税売上高(税抜金額)の合計金額についても1,000の倍数である必要があります。

なお、軽減税率8%が適用される場合は、国税の税率6.24%を乗じた場合に円未満の端数が生じるおそれがあります。

6.24% = 624/10000 = 39/625

であるため、8%課税売上高(税抜金額)の合計金額は、1,000と625の最小公倍数である5,000の倍数であれば、千円未満切捨て及び税率6.24%を乗じても円未満の端数が生じないことになります。

⑥ 10%課税仕入高(税抜金額)の合計金額が500の倍数であること

10%課税仕入高については、税込金額に7.8/110を乗じて控除対象仕入税額を求めます。

税抜金額をP円とした場合

1.1P×7.8/110 = 7.8/100×P = 39/500×P

となるため、10%課税仕入高(税抜金額)の合計金額が500の倍数であれば円未満の端数は生じません。

⑦ 8%課税仕入高(税抜金額)の合計金額が625の倍数であること

8%課税仕入高については、税込金額に6.24/108を乗じて控除対象仕入税額を求めます。

税抜金額をP円とした場合

1.08P×6.24/108 = 6.24/100×P = 39/625×P

となるため、8%課税仕入高(税抜金額)の合計金額が625の倍数であれば円未満の端数は生じません。

⑧ 国税の消費税額が3,900の倍数であること(=10%課税売上高(税抜金額)と10%課税仕入高(税抜金額)の差額が50,000の倍数、かつ、8%課税売上高(税抜金額)と8%課税仕入高(税抜金額)の差額が62,500の倍数であること)

国税の消費税額を求めた後、22/78を乗じて地方消費税額を求めます。

この際、百円未満切り捨てするため、国税の消費税額をTとした場合、地方消費税額は次のように求められます。([]はガウス記号です。)

[T×22/78×1/100]×100 = [T×11/3900]×100

したがって、国税の消費税額が3,900の倍数であれば百円未満切捨てによる端数は生じません。

なお、10%課税売上高(税抜金額)と10%課税仕入高(税抜金額)の差額が50,000の倍数であり、かつ、8%課税売上高(税抜金額)と8%課税仕入高(税抜金額)の差額が62,500の倍数である場合は、国税の消費税額が3,900の倍数となります。

 

上記条件を満たさない場合でも「仮受消費税等」勘定と「仮払消費税等」勘定の差額と納付税額が一致することもある

上記条件を満たさない場合でも「仮受消費税等」勘定と「仮払消費税等」勘定の差額と納付税額が一致することがあります。

全額控除方式の場合に「仮受消費税等」勘定と「仮払消費税等」勘定の差額と納付税額が一致しない原因は、税額計算の際の切り捨てによる端数によるものです。

しかし、切り捨てが行われても、税額がプラスになる端数と税額がマイナスになる端数がたまたま一致した場合は、結果的に「仮受消費税等」勘定と「仮払消費税等」勘定の差額と納付税額が一致することがあります。

ただ、それは偶然によるものであり、上記の条件を満たす場合は必ず「仮受消費税等」勘定と「仮払消費税等」勘定の差額と納付税額が一致することになります。

 

まとめ

以下の条件を全て満たす場合は、「仮受消費税等」勘定と「仮払消費税等」勘定の差額と納付税額は必ず一致します。

① 仕入税額につき全額控除していること
② 標準税率10%が適用される取引はすべて「10円」の倍数の税抜単価で取引していること
③ 軽減税率8%が適用される取引はすべて「25円」の倍数の税抜単価で取引していること
④ 10%課税売上高(税抜金額)の合計金額が1,000の倍数であること
⑤ 8%課税売上高(税抜金額)の合計金額が5,000の倍数であること
⑥ 10%課税仕入高(税抜金額)の合計金額が500の倍数であること
⑦ 8%課税仕入高(税抜金額)の合計金額が625の倍数であること
⑧ 国税の消費税額が3,900の倍数であること(=10%課税売上高(税抜金額)と10%課税仕入高(税抜金額)の差額が50,000の倍数、かつ、8%課税売上高(税抜金額)と8%課税仕入高(税抜金額)の差額が62,500の倍数であること)

実務等で役に立つのかと言われれば、正直そんなに役に立つ話ではないかもしれません。(確定申告期限ギリギリで、消費税額を申告書ベースで計算している時間がない場合に、試算表の金額を見て上記要件を満たしている場合は、仮払消費税等と仮受消費税等の差額がそのまま納付税額になると判断できるため、少しは役に立つかもしれません。。。)

学問的(?)には、税抜経理方式による場合の「仮受消費税等」勘定と「仮払消費税等」勘定の差額と実際の納付税額の金額の関係性について、税額計算の構造に照らし合わせて数学的に解明したという点において、ほんの少し何かの役に立ったんじゃないのかと思います。

 

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