昨今、急速な円安が進み、日銀によるドル売り円買いの市場介入が行われることとなりました。
連日の為替相場の激変のニュースを見て、FX取引に興味を持った方も多いのではないでしょうか。
今回は、FX取引に伴い発生した利益や損失、手数料に消費税はかかるのかについて解説したいと思います。
課税の対象の4要件
消費税は、次の4要件を満たす取引が課税の対象となります。
法人が行う取引はすべて「② 事業者が事業として行うものであること」の要件を満たしているものとされます。
しかし、個人事業者については、事業者としての側面と消費者としての側面の両方があるため、個人事業者が行う取引については「② 事業者が事業として行うものであること」の要件を満たす場合と満たさない場合とがあります。
個人事業者が行うFX取引については、一般的に、仕事の片手間で行う「趣味」か、もしくは事業活動ではなく、あくまでも財務活動でしかないものとされ、事業に関連して行うものとは言えず、また、反復・継続的に行うものではないため、「事業として」に該当せず、消費税の課税対象外となります。
FX取引により生じる損益に消費税はかからない
FX取引により生じる損益は、次の2つから構成されます。
② スワップポイント(スワップ金利)
為替相場の変動により生じる為替差損益は不課税
為替相場の変動により生じる為替差損益は、何かしらの資産やサービスを提供した対価ではなく、単に保有している通貨を為替相場の変動に合わせて評価替えを行ったことにより生じたものです。
したがって、為替相場の変動により生じる為替差損益は、上述の課税の対象の4要件のうち「③ 対価を得て行うものであること」「④ 資産の譲渡・貸付け、役務の提供であること」の要件を満たさないため、消費税の課税対象外(不課税取引)となります。
スワップポイント(スワップ金利)は非課税
スワップポイント(スワップ金利)とは、2つの通貨間の金利差により日々受け払いが行われる金額のことです。
例えば、ニュージーランドドル円(NZD/JPY)の通貨ペアを買った場合は、「低金利通貨である円を売り、高金利通貨であるニュージーランドドルを買う」ことになります。
このスワップポイント(スワップ金利)による損益は、円やニュージーランドドルなどの「通貨」を売買することにより生じるものなので、先ほどの為替差損益とは異なり、「③ 対価を得て行うものであること」の要件を満たすことになります。
しかし、消費税法第6条の規定により、通貨などの「支払手段」の譲渡は非課税取引とされています。
(支払手段の範囲)
6-2-3 法別表第二第2号《有価証券等の譲渡》に規定する「外国為替及び外国貿易法第6条第1項第7号《定義》に規定する支払手段」とは、次のものをいうのであるから留意する。(1) 銀行券、政府紙幣及び硬貨
(2) 小切手(旅行小切手を含む。)、為替手形、郵便為替及び信用状
(3) 約束手形
(4) (1)~(3)に掲げるもののいずれかに類するもので、支払のために使用することができるもの
(5) 証票、電子機器その他の物に電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によって認識することができない方法をいう。)により入力されている財産的価値であって、不特定又は多数の者相互間でその支払のために使用することができるもの(その使用の状況が通貨のそれと近似しているものに限る。)(注)
1 これらの支払手段であっても、収集品及び販売用のものは、課税の対象となる。
2 (5)の具体的範囲については、外国為替令において定めることとされている。
したがって、スワップポイント(スワップ金利)による損益には消費税がかからない(非課税取引)ことになります。
なお、課税売上割合の計算上、支払手段等の譲渡対価は課税売上割合の分母に算入しないこととされているため、FX取引をどれだけたくさん行ったとしても課税売上割合の計算に影響はなく、消費税の計算上不利になることはありません。
消費税法上の取引分類は一応非課税取引とされていますが、課税売上割合の分母に全額算入されないため、実質的に不課税取引と同じです。
手数料は消費税がかかる場合とかからない場合がある
FX取引に伴い発生する手数料については、消費税がかかる場合とかからない場合とがあります。
消費税法基本通達6-5-3では、非課税とされる外国為替業務に係る役務の提供の範囲について次のように記載しています。
(非課税とされる外国為替業務に係る役務の提供の範囲)
6-5-3 法別表第二第5号ニ《外国為替業務等》の規定により非課税とされる外国為替業務に係る役務の提供は、次に掲げる業務に係るもの(当該業務の周辺業務として行われる役務の提供を除く。)が該当するのであるから留意する。(1) 外国為替取引
(2) 対外支払手段の発行
(3) 対外支払手段の売買又は債権の売買(本邦通貨をもって支払われる債権の居住者間の売買を除く。)なお、居住者による非居住者からの証券(外国為替及び外国貿易法第6条第1項第11号に規定する「証券」をいう。以下6-5-3において同じ。)の取得又は居住者による非居住者に対する証券の譲渡に係る媒介、取次ぎ又は代理については、非課税とされる外国為替業務に係る役務の提供から除かれていることに留意する。
外国為替業務に係る役務の提供は基本的に消費税は非課税とされています。しかし、その周辺業務として行われる役務の提供は非課税とされません。
つまり、通常のFX口座サービスで取引を行った場合に発生する各種手数料は「外国為替業務に係る役務の提供」に該当するため、消費税はかかりません(非課税取引)。
しかし、通貨の自動売買ツールや分析ツールの提供サービス、取引所の仲介業務サービスなどは「外国為替業務の周辺業務として行われる役務の提供」に該当するため、非課税とされず消費税がかかります(課税取引)。この手数料は、課税仕入れとなるため、仕入税額控除を行うことができます。
まとめ
FX取引に伴い発生する損益・手数料に係る消費税の取扱いをまとめると次のようになります。
FX取引に伴い発生する損益・手数料の内容 | 消費税の区分 | |
為替相場の変動により生じる為替差損益 | 不課税取引 | |
スワップポイント(スワップ金利) | 非課税取引 | |
手数料 | 外国為替業務に係る役務の提供(通常のFX口座の各種手数料) | 非課税取引 |
上記の周辺業務として行われる役務の提供(自動売買ツールや分析ツールの提供サービス、取引所の仲介業務サービスなど) | 課税取引 |
スワップポイント(スワップ金利)により生じる非課税売上げは、支払手段等の譲渡に係るものなので、課税売上割合の算定上を分母に算入する必要はありません。(実質的に不課税取引と同じです。)
なお、個人事業者がFX取引を行う場合は基本的に「事業として」の要件を満たさないため、外国為替業務の周辺業務として行われる役務の提供(自動売買ツールや分析ツールの提供サービス、取引所の仲介業務サービスなど)に係る費用について課税仕入れとして仕入税額控除することはできないことに注意しましょう。
一般的なFX取引であれば、消費税はかからない(考慮する必要なし)思っておけば大丈夫です。
また、FX取引はどれだけたくさん行っても課税売上割合の計算に影響は与えないため、消費税の税額計算上不利になることはありません。