インボイス制度の導入で税理士試験「消費税法」はどう変わる?

令和6年度(第74回)から税理士試験「消費税法」の出題範囲に「インボイス制度(適格請求書等保存方式)」が加わることとなります。

実務的には、インボイス制度の導入はかなり大きな影響がありますが、税理士試験にはどれくらいの影響があるのでしょうか。

今回は、インボイス制度の導入により税理士試験「消費税法」の出題範囲がどのように変わるのかについて考察したいと思います。

 

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インボイス制度の概要

インボイス制度の概要について、めちゃくちゃ大雑把に解説すると、令和5年10月1日以後は、課税仕入れに係る消費税額については、原則として、課税事業者である適格請求書発行事業者から適格請求書等の交付を受けたものしか仕入税額控除が認められなくなります。

適格請求書発行事業者の登録を受けた事業者は、基準期間における課税売上高が1,000万円以下となる場合等であっても、登録の取り消しを行わない限りずっと課税事業者となります。

 

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売上げ項目の課否判定への影響

商品売上げなどの売上げが課税売上げ、免税売上げ、非課税売上げ、不課税売上げのいずれに該当するかの課否判定は、インボイス制度が導入された後も従来までと全く変わりありません。

資産の譲渡等を行った相手が課税事業者であるか免税事業者であるかは関係ないため、これまでと何も変わりありません。

 

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課税仕入れの判定への影響

インボイス制度の導入後においても、課税仕入れに該当するかどうかの判定自体は従来までと変わらないだろうと思います。

インボイス制度の導入後は、おそらく、試験問題の注意事項に「課税仕入れに該当するものについては、特段の指示があるものを除いて、適格請求書等の交付を受けているものとする」といった文言が記載されるようになると思います。

したがって、令和6年度(第74回)の試験以後も、課税仕入れに該当するかどうかの判定自体は、従来までと同じになると考えられます。

例えば、社宅の借上げ料が課税仕入れか非課税仕入れか、諸会費の支払額が課税仕入れか不課税仕入れかといった判定は、従来と変わらず同じように行うことになると考えられます。

課税貨物の引き取りに係る消費税額及び特定課税仕入れに係る消費税額についてはインボイス制度の影響は受けないため、これらの取扱いも従来までと同様となります。

なお、次の論点については、インボイス制度の導入後の取扱いが変わるため注意しましょう。

インボイス制度導入後の注意点
① インボイス制度導入前は、請求書等の保存がない税込3万円未満の課税仕入れについて仕入税額控除が認められていましたが、インボイス制度導入後は、適格請求書等の保存がない課税仕入れは原則仕入税額控除が認められません。(ただし、一定規模以下の事業者は、税込1万円未満の課税仕入れについて請求書等の保存なしで仕入税額控除できる経過措置あり。)
② インボイス制度導入前は、税込3万円以上の課税仕入れであっても、請求書等の交付を受けなかったことにつきやむを得ない理由がある場合は仕入税額控除が認められていましたが、インボイス制度導入後は、この取扱いは認められなくなります。(ただし、請求書等の交付を受けることが困難な一定の取引については請求書等の保存なしで仕入税額控除できる経過措置あり。)
③ 商品券やプリペイドカードへのチャージ額などの物品切手等については、継続適用を要件に、購入時に全額仕入税額控除を行うことが認められていましたが、インボイス制度導入後は、適格請求書発行事業者により回収されることが明らかなものを除いて、この取り扱いは認められなくなります。つまり、原則として、物品切手等と引き換えに資産の譲渡等を受けた時に課税仕入れを行わなければならなくなります。

 

適格請求書等に該当するかどうかの判定

令和6年度(第74回)の試験以後、計算問題の新しい判定要素として、交付を受けた請求書等が適格請求書等に該当するかどうかの判定(+適格請求書等の交付がなくても仕入税額控除を受けられる特例・経過措置に該当するか)が加わることになると考えられます。

上述のとおり、課税仕入れに該当するものは、「特段の指示があるものを除いて」適格請求書等の交付を受けているものとして、仕入税額控除の対象になる課税仕入れとして計算を進めていく形になると考えられますが、一部の取引については、「取引の相手先からこのような請求書等を受け取りました」という形で請求書等の記載内容を見せられ、その請求書等が適格請求書等に該当するかどうかを判断して、仕入税額控除の適用があるかどうかを判定することになるのではないかと考えられます。

適格請求書に該当するかどうかは、次の記載事項のすべてを満たすかどうかにより判定を行います。

適格請求書の記載事項
① インボイス発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
② 取引年月日
③ 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
④ 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜き又は税込み)及び適用税率
⑤ 消費税額等
⑥ 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称

なお、小売業、飲食店業、タクシー業等に係る不特定多数の者に対して販売等を行う取引については、適格請求書に代えて適格簡易請求書を交付することができます。

適格請求書の記載事項は、上記①から⑤(ただし、「適用税率」「消費税額等」はいずれか一方の記載で足ります。)、上記⑥の「書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称」は記載不要となります。

交付を受けた請求書等が適格請求書等に該当しない場合であっても、従前の区分記載請求書等保存方式の記載事項を満たすものであれば、経過措置により、次の割合で仕入税額控除ができることとされています。これにより、免税事業者などの適格請求書発行事業者でない者から行った課税仕入れについても、80%(又は50%)分は仕入税額控除を行うことができます。

区分記載請求書の記載事項
① 書類作成者の氏名又は名称
② 取引年月日
③ 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
④ 税率ごとに区分して合計した対価の額(税込み)
⑤ 書類の交付を受ける者の氏名又は名称
令和5年(2023年)10月1日から令和8年(2026年)9月30日まで・・・80%
令和8年(2026年)10月1日から令和11年(2029年)9月30日まで・・・50%

また、令和5年10月1日以降、次に掲げる「請求書等の交付を受けることが困難な取引」については、適格請求書等の保存を要せず、一定の事項が記載された帳簿のみの保存により仕入税額控除ができることとされます。

① 適格請求書の交付義務が免除される一般旅客定期航路事業等の旅客の運送に係る課税仕入れ(3万円未満のものに限る。)
② 適格簡易請求書の要件を満たす入場券等が使用の際に回収される課税仕入れ
③ 古物営業を営む事業者が適格請求書発行事業者でない者から買い受ける古物等に係る課税仕入れ
④ 質屋を営む事業者が適格請求書発行事業者でない者から所有権を取得する質物に係る課税仕入れ
⑤ 宅地建物取引業を営む事業者が適格請求書発行事業者でない者から買い受ける建物に係る課税仕入れ
⑥ 再生資源卸売業等を営む事業者が適格請求書発行事業者でない者から買い受ける再生資源又は再生部品に係る課税仕入れ
⑦ その他適格請求書等の交付を受けることが困難な一定の課税仕入れ

さらに、経過措置(少額特例)により、令和5年10月1日から令和 11 年9月 30日までの間は、基準期間における課税売上高が1億円以下又は特定期間における課税売上高が5千万円以下の事業者は、課税仕入れに係る支払対価の額(税込み)が1万円未満である場合には、適格請求書等の保存がなくても、一定の事項を記載した帳簿の保存のみで、仕入税額控除を受けることができます。

以上の取扱いをフローチャートにまとめると、次のようになります。

令和5年10月1日以後の課税仕入れに係る仕入税額控除の判定フローチャート

なお、このフローチャートのPDFデータも用意しました↓。印刷するなどしてご自由にご利用ください。

令和5年10月1日以後の課税仕入れに係る仕入税額控除の判定フローチャート

 

納税義務判定への影響

適格請求書発行事業者の登録を受けた事業者は、基準期間における課税売上高が1,000万円以下である場合等であってもずっと課税事業者でいなければならないこととなります。

したがって、適格請求書発行事業者が主人公の問題については、納税義務の判定を行う必要がなく課税事業者であると判断されることになるため、むしろ納税義務判定は従前よりも楽になる可能性もあります。

ただし、問題の作り方によっては、「当社は適格請求書発行事業者でない」という前提のもとで、従前と同様複雑な納税義務判定の問題を出題することも不可能ではないため、納税義務の判定の勉強をおろそかにしていいというわけではありません。

また、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間については、課税事業者選択届出書の提出を不要とし、課税期間の途中からでもインボイス発行事業者の登録ができる経過措置が設けられているため、課税期間の途中から課税事業者となる問題も想定されます。

 

税額計算の方法への影響

インボイス制度の導入前までは、売上税額も仕入税額も「割戻し計算」が前提とされていました。

しかし、インボイス制度導入後は、売上税額については原則として「割戻し計算」、仕入税額については原則として「積上計算」により行うこととされました。(施行令の規定により売上税額について「積上計算」、仕入税額について「割戻し計算」を採用することもできます。ただし、売上税額について「積上計算」を採用する場合は、仕入税額についても「積上計算」の採用が強制されます。)

「積上計算」は、適格請求書等に記載された消費税額等の金額を集計して課税仕入れに係る消費税額を求める方式ですが、本試験での出題可能性を考えた場合、積上計算が出題される可能性は低いのではないかと考えられます。

その理由として、資料の与え方が困難になる点が挙げられます。課税仕入れにかかる取引全ての請求書を印刷してゴリ押しで集計させるというスタイルはとてもじゃないけど考えにくいです。

また、「請求書等に記載された消費税額等の金額は〇〇円であった」と問題文に書いてある場合は、各取引が課税仕入れに該当するかどうかの判断や適用税率の判断が不要となってしまい、それでは消費税法の知識を問うことが難しくなってしまいます。

そのため、出題者の立場に立った場合、売上税額も仕入税額も両方とも「割戻し計算」で出題する方が問題を作りやすいため、インボイス制度導入後も税額計算の方法はインボイス制度導入前と変わらないだろうと考えられます。

仮に「積上計算」の問題が出るとしても、総合問題で出題されることは考えにくいため、配点5~10点くらいの個別の小問で出題されるんじゃないかと思います。

 

その他の経過措置

上記以外のインボイス制度導入に伴う経過措置として、試験に影響する可能性のあるものは「2割特例」と「簡易課税制度の事後選択」の2つが考えられます。

2割特例は、令和5年 10 月1日から令和8年9月 30 日までの日の属する各課税期間までに新たに課税事業者となる場合等の一定の場合には、納付税額を当該課税標準額に対する消費税額の2割にできるという経過措置です。

新たに適格請求書発行事業者となる事業者のうちかなり多くの割合がこの特例を受けることになると考えられるため、この特例は実務上は最大級の重要度であるといえますが、税理士試験においてはそれほどの重要度ではないと思います。

仮に出題されるとしても、原則的な方法で税額計算を行った上で、「特別控除税額」として課税標準額に対する消費税額の80%相当額の計算式を記載した場合に、そこに2点ぐらいの配点が振られる可能性があるかどうかというくらいだと思います。

また、そもそもこの経過措置は出題されない可能性もあります。その理由としては、令和元年10月1日から導入された「中小事業者に対する税額計算の特例」の経過措置は、実務色が強すぎるため、学校ではほとんど取り扱っておらず、実際に本試験でも結局この4年間で一度も出題されませんでした。

「2割特例」も「中小事業者に対する税額計算の特例」と同様に、実務色が強いため出題されない可能性もあります。

なお、「簡易課税制度の事後選択」については、出題される可能性はあり得ると思います。

これは、令和5年 10 月1日から令和11年9月 30 日までの日の属する各課税期間までに、登録開始日から課税事業者となる経過措置の適用を受ける事業者が、登録日の属する課税期間中に、その課税期間から簡易課税制度の適用を受ける旨を記載した簡易課税制度選択届出書を提出した場合は、その課税期間の初日の前日に簡易課税制度選択届出書を提出したものとみなされる経過措置です。

事業を開始した日の属する課税期間中に簡易課税制度選択届出書提出すれば、その課税期間から簡易課税制度の適用を受けることができる措置がありますが、それと似たような感じの経過措置です。「免税事業者が新たに適格請求書発行事業者となる場合は、その課税期間から簡易課税制度の適用を受けられますよ」という内容です。

 

上記以外にも、インボイス制度導入に伴う経過措置はあるにはあるのですが、試験での重要度や出題可能性を考えたら、これくらいのことを抑えておけば十分かと思います。

 

理論への影響

仕入税額控除の要件として適格請求書等の保存が必要となるため、請求書等の記載事項については変更がありますが、従前の内容が一部変わるだけで、それほど大きな変更とはなりません。

ただし、インボイス制度の導入により、これまでなかった適格請求書発行事業者の登録に関する手続規定や、適格請求書や適格返還請求書の交付義務などの規定が新しく設けられることになります。(令和5年10月1日以後施行分の消費税法第57条の2~57条の6あたり)

また、軽減税率については、令和元年10月1日に施行されて以降は、しばらくずっと附則の経過措置扱いとされていましたが、令和5年10月1日以後、正式に本法に格上げとなるため、それに伴い新しく用語が定義されたり(「軽減対象課税資産の譲渡等」など)、軽減対象資産が別表第一で記載されることになり、非課税取引に係る項目が別表第一から別表第二に変更されるなど、若干のマイナーチェンジがあります。

 

まとめ

インボイス制度が試験範囲に加わる令和6年度(第74回)以後の税理士試験「消費税法」の影響は、次のようになると考えられます。(あくまで当サイト運営者の所感です。)

売上げの課否判定 → 変化なし
課税仕入れの判定 → 変化なし(ただし、請求書等の記載内容等について特段の指示がある場合は、適格請求書等の要件を満たすか、特例・経過措置の適用があるか判断が必要。また、一定の物品切手等や3万円未満の課税仕入れの取扱いが変わることに注意。)
納税義務判定への影響 → 適格請求書発行事業者は常に課税事業者となるため、複雑な納税義務判定問題の出題可能性はむしろ減る可能性あり(ただし、問題の作り方によっては従前と同じように難しい納税義務判定を出すことは可能なので油断は禁物。また、課税期間の途中から適格請求書発行事業者となる場合の経過措置にも留意が必要。)
税額計算の方法 → 変化なし。インボイス制度導入後も従前と同様、売上税額も仕入税額も「割戻し計算」で出題される可能性が高いと思います。
その他の経過措置 → 「2割特例」がもしかしたら少し出るかも?あとは、新しく適格請求書発行事業者となった課税期間は、簡易課税制度をその課税期間から選択できるという経過措置を頭の片隅で知ってるくらいでおそらく大丈夫だと思われます。
理論への影響 →軽減税率が本法に格上げすることに伴うマイナーチェンジの他、仕入税額控除の要件の理論や適格請求書発行事業者の登録に関する手続規定やインボイスの交付義務の規定などが追加される。

 

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