建物を賃貸する場合は、契約において賃貸借の期間が定められます。
何らかの理由で契約期間が守られなかった場合には、貸主は借主から違約金を収受することがあります。
賃貸借契約の違約金には、消費税の課税の対象になるものとならないものがあるということをご存知でしょうか?
今回は、賃貸借契約の違約金に係る消費税の取扱いについて説明したいと思います。
課税の対象の4要件
消費税は、次の4要件を満たす取引が課税の対象となります。
消費税の課税の対象の4要件のひとつに「③ 対価を得て行うものであること」とあります。
一般的に、違約金は資産の譲渡等の対価として収受するものではなく、損失の補てんのために収受するものであるため、「③ 対価を得て行うものであること」の要件を満たしません。
しかし、賃貸借契約の違約金については、その性質上、実質的にみて「③ 対価を得て行うものであること」に該当するものがあります。
消費税法では、「違約金」という形式的な要素から不課税取引と判断するのではなく、実質的な取引内容から課否判定を行います。
したがって、違約金であっても、実質的に対価性を有するものであれば、「③ 対価を得て行うものであること」の要件を満たし課税の対象に含まれることになります。
賃貸借契約の中途解約に係る違約金
賃貸借契約の契約期間終了前の解約に伴い貸主に違約金が支払われた場合はどうなるでしょうか?
この場合については、国税庁のタックスアンサーNo.6261に次のような記載があります。
建物の賃貸人は建物の賃貸借の契約期間の終了以前に入居者から解約の申入れにより中途解約の違約金として数か月分の家賃相当額を受け取る場合があります。この違約金は、賃貸人が賃借人から中途解約されたことに伴い生じる逸失利益を補てんするために受け取るものですから、損害賠償金として課税の対象とはなりません。
・・・(後略)
中途解約に伴って支払われる違約金は、本来なら(借主が中途解約をせずに契約期間終了時まで賃借していれば)得られたはずの利益(逸失利益)を補てんするためのものであるため、資産の譲渡等の対価に該当せず、不課税取引となります。
明渡遅滞に伴う違約金
では、契約期間を過ぎても建物の明け渡しが行われなかった場合に貸主に支払われた違約金の扱いはどうなるでしょうか?
この場合については、国税庁の消費税法基本通達5-2-5に次のような記載があります。
(損害賠償金)
損害賠償金のうち、心身又は資産につき加えられた損害の発生に伴い受けるものは、資産の譲渡等の対価に該当しないが、例えば、次に掲げる損害賠償金のように、その実質が資産の譲渡等の対価に該当すると認められるものは資産の譲渡等の対価に該当することに留意する。・・・(中略)・・・
(3) 不動産等の明渡しの遅滞により加害者から賃貸人が収受する損害賠償金
明渡遅滞に伴って支払われる違約金は、逸失利益の補てんとして支払われるものではなく、実質的に契約期間を延長して建物を借り受けた対価として支払われるものであるため、課税の対象の4要件の「③ 対価を得て行うものであること」に該当し、消費税の課税の対象となります。
したがって、当該違約金の支払いは、建物が住宅として貸し付けられていた場合は非課税取引、事務所として貸し付けられていた場合は課税取引となります。
(参考)違約入居者から受け取る割増賃貸料
賃貸借契約において、入居者が期限までに退去しなかった場合に通常の家賃の2倍や3倍などの高額な違約金の支払いを規程することがあります。
このような場合でも、違約金の全額が課税の対象に含まれるのでしょうか?
この点については、国税庁の質疑応答事例『違約入居者から受け取る割増賃貸料』において、次のように記載されています、
【照会要旨】
賃貸事務所の入居者が契約条件に従わない場合等には退去を求め、期限までに退去しない場合には規定の賃貸料の3倍に相当する額の賃貸料を徴収することとしていますが、この規定の賃貸料を超える部分の金額は損害賠償金又は違約金的なものとして、事務所の貸付けの対価には該当しないと考えてよいでしょうか。【回答要旨】
規定の賃貸料の3倍に相当する額の賃貸料は、事務所の賃貸借契約に基づき賃貸期間に応じて徴収されるものであり、契約条件に違反した場合等、一定の要件に該当する場合における割増料金としての性格を有するものと認められます。したがって、その全額が事務所の貸付けの対価に該当することとなります(基通5-2-5)。
したがって、明渡遅延に伴う違約金が通常の賃貸料より高額であったとしても、その全額が建物の貸付けの対価に該当し、課税の対象に含まれることとなります。
まとめ
建物の賃貸借契約に係る違約金の消費税の取扱いをまとめると、次のようになります。
明渡遅延に係る違約金 → 課税
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