年末にかけて寒さが一層厳しくなってきました。
インフルエンザも流行し始め、体調管理に気をつけなければならない季節となりました。
特に税理士は冬の寒い時期と繁忙期が重なることが多く、風邪を引いてしまったら業務に大きな支障が生じてしまうため、体調管理は万全にしておく必要があります。
しかし、税理士も生身の人間である以上、いくら気を付けていたとしても風邪を引いてしまうことはあります。
そこで、もし会社の顧問税理士が急病となり、消費税の届出書を期限までに提出できなかった場合、「やむを得ない事情」に該当し、宥恕規定の適用を受けることはできるのでしょうか?
今回は、宥恕規定における「やむを得ない事情」について説明したいと思います。
届出書の提出期限
消費税には「課税事業者選択届出書」や「簡易課税制度選択届出書」などの様々な届出書があります。
これらの届出書は、提出期限を1日でも過ぎてしまったら届出の効力は生じません。
例えば、×2年4月1日~×3年3月31日の課税期間から課税事業者の選択をしようと思ったら、絶対に×2年3月31日までに課税事業者選択届出書を提出しなければなりません。
もし1日でも過ぎてしまったら、たとえ土下座しても×2年4月1日~×3年3月31日の課税期間は課税事業者になれません。
宥恕規定
とはいえ、税務署もそこまで鬼ではありません。
「やむを得ない事情」によりどうしても届出書を提出期限までに提出することができなかった場合には、税務署長の承認があれば特別に提出期限に間に合ったことにしてもらえることがあります。
このような寛大な措置のことを宥恕(ゆうじょ)規定といいます。
宥恕規定については、国税庁のタックスアンサーNo.6630に次のように規定されています。
事業者が、その課税期間開始前に「消費税課税事業者選択届出書」、「消費税課税事業者選択不適用届出書」、「消費税簡易課税制度選択届出書」又は「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出することができなかったことについてやむを得ない事情があるため、これらの届出書の提出ができなかった場合には、所轄税務署長の承認を受けることにより、その課税期間前にこれらの届出書を提出したものとみなされます。
なお、「やむを得ない事情」とは次のような場合をいいます。
(1) 震災、風水害、雪害、凍害、落雷、雪崩、がけ崩れ、地滑り、火山の噴火等の天災又は火災その他人的災害で自己の責任によらないものに基因する災害が発生したことにより、届出書の提出ができない状態になったと認められる場合
(2) (1)の災害に準ずるような状況又は、その事業者の責めに帰することができない状態にあることにより、届出書の提出ができない状態になったと認められる場合
(3) その課税期間の末日前おおむね1月以内に相続があったことにより、その相続に係る相続人が新たに課税事業者選択届出書などを提出できる個人事業者となった場合
(4) 以上に準ずる事情がある場合で、税務署長がやむを得ないと認めた場合
顧問税理士の急病は「やむを得ない事情」に該当するのか
では、会社の顧問税理士が急病になってしまい、届出書の提出が間に合わなかった場合は「やむを得ない事情」に該当するのでしょうか?
この点については、平成26年に国税不服審判所で争われたことがあります。
事例の概要をまとめると次のようになります。
① 平成X年4月1日開始の課税期間から簡易課税制度の適用を受けるために、平成X年3月31日までに間に合うように顧問税理士に簡易課税制度選択届出書を郵送したが、当該税理士が急な発熱により仕事を休んでおり、郵便物を開封できなかった
② 税理士の体調の回復後、郵便物を開封した時点で提出期限(平成X年3月31日)は過ぎていた
この場合、税理士は簡易課税制度選択届出書が送付されていたことを知らなかったことになるため、「やむを得ない事情」に該当するような気もします。
しかし、国税不服審判所は、次のような裁決を行いました。
・・・(前略)・・・
請求人は、自らの意思と責任において、本件税理士に関与税理士として税務代理等を委任し、本件選択届出書等の提出など、請求人が簡易課税制度の適用を受けるための手続をするように依頼した以上、本件選択届出書が本件初日の前日までに提出されなかったことについても、受任者である税理士の行為は、委任者である請求人の責任の範囲内の行為であると解され、消費税法第37条第7項に規定するやむを得ない事情の存否については、基本的に本件税理士を基準に判断するべきである。そして、本件税理士は、医師の指導に基づき感冒薬を服用し自宅で安静にしていたという程度のものであり、他人を介して本件選択届出書を提出する手配ができないようなものではないことからも、消費税法第37条第7項及び消費税法施行令第57条の2第1項に規定する「やむを得ない事情」があるとはいえない。(平26. 7.11 大裁(諸)平26-2)
会社は、自らの意思と責任において税理士に税務代理等を依頼しているため、受任者の税理士の行為も委任者である会社の責任の範囲内の行為と解されます。
もし会社が税理士に届出書を郵送したと連絡を入れ、家族や従業員に代わりに税務署に届出書を提出しに行ってもらうように手配をしていれば期限内に提出することができたため、「やむを得ない事情」があったとはいえないと判断されました。
急病への対策
上記の事例のようにならないためには、何よりも体調管理を万全にするために、予防接種を受けたり、うがいや手洗いを徹底することが重要です。
しかし、税理士も生身の人間である以上、それでも急病に罹ってしまうこともあります。
そのため、顧問先の経営状況を見て届出書等の税務書類を提出すべきかどうか日ごろから相談しておくとともに、不測の事態にも対応できるように、顧客との連絡体制を万全にしておくことが大切です。
(追記)新型コロナウイルスに感染した場合
新型コロナウイルス感染症等の影響を受けた事業者が、通常の業務体制の維持が難しく事務処理能力が低下したため簡易課税に変更したい場合や感染拡大防止のために緊急な課税仕入れが生じたため原則課税に変更したい場合は、消費税法第37条の2《災害 その他やむを得ない理由が生じたことにより被害を受けた場合の特例》の規定により、所轄税務署長の承認を受けることにより、課税期間開始後であっても簡易課税制度を選択する(または選択をやめる)ことができます。
「新型コロナウイルス感染症等の影響」の範囲は幅が広く、顧問税理士が新型コロナウイルスに感染してしまった場合もこの規定が適用されるものと考えられます。
この場合、新型コロナウイルス感染症等の影響による被害がやんだ日から2ヶ月以内に「災害等による消費税簡易課税制度選択(不適用)届出書」を納税地の所轄税務署長に提出する必要があります。
(参考)発熱があった場合、確定申告の個別延長が認められる
税理士や経理担当者に発熱があり、期限内に申告書を提出することが困難な場合は、申告期限の個別延長が認められる可能性があります。
この点については、詳しくは次の記事をご覧ください。
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消費税法 無敵の一問一答
問題番号 | タイトル |
1194 | 税理士の急な発熱のため簡易課税制度選択届出書を提出できなかった場合 |