最近、キャッシュレス決済が急速に普及しており、事業活動に係る費用をクレジットカードで決済している事業者も多いかと思います。
消費税の計算上、クレジットカードを利用してモノを購入したりサービスの提供を受けた場合にも仕入税額控除の適用を受けることができますが、適用を受けるための要件について勘違いをしている方が非常に多いので注意が必要です。
今回は、クレジットカードで決済した金額について仕入税額控除を受けるための要件について解説したいと思います。
仕入税額控除を受けるためには帳簿及び請求書等の保存が必要
消費税法第30条第7項において、仕入税額控除を受けるための要件として次のような規定を設けています。
第一項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等(請求書等の交付を受けることが困難である場合、特定課税仕入れに係るものである場合その他の政令で定める場合における当該課税仕入れ等の税額については、帳簿)を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れ、特定課税仕入れ又は課税貨物に係る課税仕入れ等の税額については、適用しない。ただし、災害その他やむを得ない事情により、当該保存をすることができなかつたことを当該事業者において証明した場合は、この限りでない。
したがって、仕入税額控除の適用を受けるためには、会計ソフト等に記帳した「帳簿」のほかに、領収書や納品書などの「請求書等」を保存する必要があります。
ただし、令和5年10月1日から令和 11 年9月 30日までの間は、基準期間における課税売上高が1億円以下または特定期間における課税売上高が5000万円以下である場合、購入金額が税込1万円未満であれば、帳簿に法定事項の記載があれば請求書等の保存は不要です。(少額特例)
クレジットカード会社から送られてくる請求明細書は「請求書等」に該当しない
クレジットカードを利用している場合、クレジットカード会社から一定の期間ごとに請求明細書が送られてきますが、この請求明細書は仕入税額控除を受けるために必要な「請求書等」に該当するのでしょうか?
仕入税額控除の適用を受けるために保存が必要な「請求書等」の意義については、消費税法第30条第9項において次のように規定されています。
9 第七項に規定する請求書等とは、次に掲げる書類及び電磁的記録(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律第二条第三号(定義)に規定する電磁的記録をいう。第二号において同じ。)をいう。一 事業者に対し課税資産の譲渡等(第七条第一項、第八条第一項その他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。次号及び第三号において同じ。)を行う他の事業者(適格請求書発行事業者に限る。次号及び第三号において同じ。)が、当該課税資産の譲渡等につき当該事業者に交付する適格請求書又は適格簡易請求書二 事業者に対し課税資産の譲渡等を行う他の事業者が、第五十七条の四第五項の規定により当該課税資産の譲渡等につき当該事業者に交付すべき適格請求書又は適格簡易請求書に代えて提供する電磁的記録三 事業者がその行つた課税仕入れ(他の事業者が行う課税資産の譲渡等に該当するものに限るものとし、当該課税資産の譲渡等のうち、第五十七条の四第一項ただし書又は第五十七条の六第一項本文の規定の適用を受けるものを除く。)につき作成する仕入明細書、仕入計算書その他これらに類する書類で課税仕入れの相手方の氏名又は名称その他の政令で定める事項が記載されているもの(当該書類に記載されている事項につき、当該課税仕入れの相手方の確認を受けたものに限る。)四 事業者がその行つた課税仕入れ(卸売市場においてせり売又は入札の方法により行われるものその他の媒介又は取次ぎに係る業務を行う者を介して行われる課税仕入れとして政令で定めるものに限る。)につき当該媒介又は取次ぎに係る業務を行う者から交付を受ける請求書、納品書その他これらに類する書類で政令で定める事項が記載されているもの五 課税貨物を保税地域から引き取る事業者が税関長から交付を受ける当該課税貨物の輸入の許可(関税法第六十七条(輸出又は輸入の許可)に規定する輸入の許可をいう。)があつたことを証する書類その他の政令で定める書類で次に掲げる事項が記載されているものイ 納税地を所轄する税関長ロ 課税貨物を保税地域から引き取ることができることとなつた年月日(課税貨物につき特例申告書を提出した場合には、保税地域から引き取ることができることとなつた年月日及び特例申告書を提出した日又は特例申告に関する決定の通知を受けた日)ハ 課税貨物の内容ニ 課税貨物に係る消費税の課税標準である金額並びに引取りに係る消費税額及び地方消費税額ホ 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称
上記太字部分で示したように、「請求書等」は、原則として課税資産の譲渡等を行った事業者が交付したものでなければなりません。
したがって、クレジットカード会社から送られてくる請求明細書は、課税資産の譲渡等を行った事業者が交付するものではないため、「請求書等」に該当しません。
仕入税額控除を受けるためには、課税資産の譲渡等を行った事業者が作成した「ご利用明細」が必要
クレジットカード決済を行った場合の仕入税額控除については、国税庁の質疑応答事例に以下のような記載があります。
【照会要旨】
法人カードを利用している場合には、カード会社から一定期間ごとに請求明細書が交付されますが、この請求明細書は消費税法第30条第9項《仕入税額控除に係る請求書等》に規定する請求書等に該当するのでしょうか。また、この請求明細書を保存することで仕入税額控除を適用することができますか。【回答要旨】
クレジットカード会社がそのカードの利用者に交付する請求明細書等は、そのカード利用者である事業者に対して課税資産の譲渡等を行った他の事業者(カード加盟店)が作成・交付する書類ではなく、当該他の事業者(カード加盟店)の氏名又は名称及び登録番号が記載された書類にも該当しないため、消費税法第30条第9項に規定する請求書等には該当しません。
したがって、クレジットカード会社の作成した請求明細書を保存することにより仕入税額控除の適用を受けることはできません。この場合、課税資産の譲渡等を行った他の事業者(カード加盟店)から受領した適格請求書等を保存することで、仕入税額控除の適用が認められます。
お店でクレジットカードで決済をした場合、通常、利用者に対して適格請求書等の記載事項が満たされた「ご利用明細」などの名称の書類が発行されます。
クレジット決済をした場合に仕入税額控除の適用を受けるためには、課税資産の譲渡等を行った事業者から受領した適格請求書等を保存する必要があります。
ETCを利用した高速道路料金の取扱い
ETCを利用して高速道路料金を支払った場合は、仕入税額控除を受けるためにはETC利用明細サービスから「ETCの利用明細書」を発行し、それを保存する必要があります。
しかし、ETCカードごとにそれぞれ「ETCの利用明細書」を発行する必要があり、何台もの車両を保有している場合はいちいち「ETCの利用明細書」を発行するのは膨大な手間と時間がかかります。
そこで、国税庁は、インボイス制度が始まる直前の時期に、ETCを利用した高速道路料金に関するインボイスの保存要件について、柔軟な取り扱いを認める資料を公表しました。(詳しくは『高速道路利用に係るインボイス対応(ETCクレジットカード)』を参照。)
この資料によると、利用した高速道路会社等ごとに、任意の一取引の「利用明細書」をダウンロードして保存すれば、クレジットカード会社から送られてくる「クレジットカード利用明細書」を保存することでインボイスの保存があるものとされ、仕入れ税額控除が認められるということになります。
(画像引用元:国税庁作成資料 高速道路利用に係るインボイス対応(ETCクレジットカード))
高速道路の利用明細は、令和5年10月1日以後、一回のみ取得・保存すれば良いそうです。「毎月1回」とか「課税期間ごとに1回」でもなく、「1回」で良いのです。
なぜこのような簡便な処理が認められるのか、国税庁の資料では明言はされていませんが、インボイス制度の趣旨に鑑みれば、納得のいく措置だと思います。
そもそも、インボイス制度の下において、仕入税額控除の要件として適格請求書等の保存を要するのは、その課税仕入れの相手方が消費税を納付しているかどうか、つまり課税事業者であるかどうかがわからないので、適格請求書等を保存することでその相手が課税事業者であることを証明する必要があるからです。
では、高速道路会社が免税事業者であることって、あり得るでしょうか?
そんなことはまずあり得ませんよね。
基準期間の課税売上高が1,000万円以下の高速道路会社なんてあったら、バイク乗りの自分としてはその会社の高速道路は怖くて絶対に使いたくありません。
つまり、高速道路料金については、支払った相手(高速道路会社)が免税事業者であるということは現実的に考えてまずあり得ないので、事務負担の煩雑さに考慮して、上述のような、ある種超法規的といえるような柔軟な取り扱いを認めることとしたのだと考えられます。
なお、この取扱いは、「高速道路の利用頻度が高く、利用証明書のダウンロードが困難なとき」における取扱いです。利用明細書をダウンロードするのが特に困難でもないような場合は、利用明細書の保存がないと税務調査等で仕入税額控除が認められない可能性があります。利用明細書を取得するのに特に大きな手間がかからないのであれば、できるだけダウンロードしておくようにしましょう。
少額特例の適用を受ける場合
令和5年9月30日までは、税込3万円未満の課税仕入れについて帳簿の保存のみで仕入れ税額控除ができることとされていました。
インボイス制度がスタートする令和5年10月1日以後は、原則としてこの取り扱いは認められなくなります。ただし、令和5年10月1日から令和 11 年9月 30日までの間は、経過措置として、基準期間(個人事業者の場合は前々年、法人の場合は原則として前々事業年度)における課税売上高が1億円以下又は特定期間(個人事業者の場合は前年1月1日~6月30日、法人の場合は原則として前事業年度上半期)における課税売上高が5千万円以下の事業者は、課税仕入れに係る支払対価の額(税込み)が1万円未満である場合には、適格請求書等の保存がなくても、一定の事項を記載した帳簿の保存のみで、仕入税額控除を受けることができます。(少額特例)
したがって、基準期間における課税売上高が1億円以下又は特定期間における課税売上高が5千万円以下の事業者が、令和5年10月1日から令和 11 年9月 30日までの間は、クレジットカードで税込1万円未満の経費の支払いをした場合は、利用店舗から交付を受けた領収書などの保存がなくても、次の事項を記載した帳簿を保存することにより仕入税額控除を行うことができます。
② 取引年月日
③ 取引内容(軽減税率対象の場合、その旨)
④ 課税仕入れに係る支払対価の額
クレジット会社も媒介者交付特例を使えるには使えるけど…
インボイス制度の下においては、商品の販売等の媒介または取次を行う者が、受託者の氏名または名称および登録番号を記載したインボイスを委託者に代わって顧客に交付することができる「媒介者交付特例」という特例が認められています。
媒介者交付特例は、物品の販売等を受託者に委託しているような場合だけでなく、請求書の発行事務や集金事務といった商品の販売等に付随する行為のみを委託しているような場合も対象となります。(インボイスQ&A問48)
これによると、クレジットカード会社が、適格請求書発行事業者である加盟店のインボイスを顧客に交付することも可能となります。すなわち、クレジットカード会社から送られてくる利用明細書に適格請求書等の要件となる所定の事項を記載すれば、その利用明細書を保存することにより仕入税額控除を行うことが可能となります。
しかし、理論上「可能ではある」ものの、クレジット会社が実際にそのような対応をするのは多大な負担となります。
媒介者交付特例の適用によりクレジットカード会社から送られてくる利用明細書をインボイスとして扱えるようにするためには、下記の事項を全て記載しなければなりません。
② 取引年月日
③ 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
④ 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜き又は税込み)及び適用税率
⑤ 税率ごとに区分した消費税額等
⑥ 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称
通常、利用明細書には、1行分のスペースに取引年月日、税込対価の額(税率ごとの区分なし)、取引内容(軽減税率の対象品目である旨の記載はなし)くらいしか記載されていないため、インボイスとしての要件を満たすためには不足している部分がたくさんあり、足りていない情報を追加で記載する必要が生じます。そのためには、結構大きなシステム回収が必要になるんじゃないかと思われます。
また、媒介者交付特例を受けるためには加盟店が適格請求書発行事業者である必要があるため、加盟店の登録情報の有無を逐一確認する手間が生じることになります。
適格請求書発行事業者でない加盟店でクレジットカードを利用した場合については上記の取り扱いはないため、フォーマットをまた別に用意する必要があります。
このように、クレジットカード会社が作成する利用明細書を媒介者交付特例の適用によりインボイスとして取り扱うためには、クレジットカード会社の負担がものすごく大きくなってしまいます。そのため、当記事更新時点(2023年10月時点)においていくつかのクレジットカード会社の対応を調べてみましたが、媒介者交付特例を適用して利用明細書をインボイスとして扱えることとしている会社は見当たりませんでした。
しかし、もしかしたら、今後クレジットカード会社の利用明細書がインボイスとして使えるサービスが登場するかもしれません。もしそうなれば、利用者にとっては非常に魅力的であるため、他のクレジットカード会社と差別化を図るための強みになると思います。
まとめ
現時点(2023年10月時点)では、利用明細書をインボイスとして扱えるクレジットカード会社は見当たらないようなので、仕入税額控除を行うためには加盟店が発行した「ご利用明細」を保存する必要があります。
しかし、今後は、クレジットカード会社から送られてくる利用明細書を媒介者交付特例を適用によりインボイスとして扱えるサービスが登場するかもしれません。気長に待ちましょう。