2019年(令和元年)10月から、消費税率が10%に引き上げられました。
2019年9月から10月をまたいで行われる取引にはさまざまな経過措置が設けられており、8%か10%のどちらの税率を適用すればいいのか、なかなか判断が難しいものが多数あります。
今回は税率10%への引き上げに伴う経過措置のうち、2019年10月分の家賃を9月中に支払った場合、及び、9月分の家賃を10月中に支払った場合の消費税率の考え方について解説したい思います。
なお、この記事は、資産の貸付けの税率等に関する経過措置は適用されない場合(2019年4月1日以後に賃貸借契約を締結した場合など)を前提としてとして記載しています。
また、非課税とされる住宅の家賃ではなく、事務所用の家賃等の取扱いについての解説となります。
不動産家賃に係る資産の譲渡等の時期
不動産の家賃については、いつ課税取引があったこととされるのでしょうか?
10月分の家賃を支払ったのであれば、実際に使用していた期間である10月が取引のあった時期になるのか?それとも、9月中に前払いで払っている場合はその払った日に取引があったことになるのでしょうか?
その答えは、消費税法基本通達9-1-20に以下のように記載されています。
(賃貸借契約に基づく使用料等を対価とする資産の譲渡等の時期)
資産の賃貸借契約に基づいて支払を受ける使用料等の額(前受けに係る額を除く。)を対価とする資産の譲渡等の時期は、当該契約又は慣習によりその支払を受けるべき日とする。
したがって、契約や慣習によって家賃の支払いを受けるべき日に取引があったものとされます。10月分の家賃について9月中に支払った場合は、その支払った日が資産の譲渡等の時期となります。
この考え方によれば、2019年10月分の家賃を2019年9月中に支払った場合は2019年9月の適用税率である旧税率8%となり、2019年9月分の家賃を2019年10月以後に支払った場合は新税率10%になるはずです。
しかし、そうは問屋が卸さないのであります。
税率の引き上げに伴う経過措置として、以下のように考える必要があるのです。
税率引き上げに伴う経過措置
国税庁の「平成 31 年(2019 年)10 月1日以後に行われる資産の譲渡等に適用される消費税率等に関する経過措置の取扱いQ&A【具体的事例編】」の問4には、次のように記載されています。
(不動産賃貸の賃借料に係る適用税率)
問4 当社は、不動産賃貸業を営む会社ですが、平成31年4月1日以後に契約する賃貸借契約(資産の貸付けの税率等に関する経過措置は適用されないもの)における次の賃貸料に係る消費税の適用税率について教えてください。
① 当月分(1日から末日まで)の賃貸料の支払期日を前月○日としている賃貸借契約で、平成31年10月分の賃貸料を平成31年9月に受領する場合
② 当月分の賃貸料の支払期日を翌月○日としている賃貸借契約で、平成31年9月分の賃貸料を平成31年10月に受領する場合
【答】
31年新消費税法は、経過措置が適用される場合を除き、31年施行日(平成31年10月1日)以後に行われる資産の譲渡等及び課税仕入れ等について適用されます(改正法附則15)。
照会①は、平成31年10月分の賃貸料であり、31年施行日以後である平成31年10月分の資産の貸付けの対価として受領するものですから、10月末日における税率(10%)が適用されます。
照会②は、平成31年9月分の賃貸料であり、31年施行日前である平成31年9月分の資産の貸付けの対価として受領するものですから、支払期日を10月としている場合であっても、9月末日における税率(8%)が適用されます。
つまり、10月分の賃料であれば、9月中に支払う契約であっても新税率10%が適用されることとなります。
この逆も然りで、9月分の賃料であれば、10月中に支払う契約であっても新税率8%が適用されることとなります。
10月分の家賃を9月中に支払う場合の仕訳
税抜10万円の家賃を前月25日に支払っている場合の仕訳について考えてみましょう。
10月分の家賃を9月中に支払う場合は、新税率10%(国税7.8%)が適用されることとされています。
しかし、2019年(令和元年)9月30日以前はまだ新税率10%(国税7.8%)が施行されておらず、申告書に10%の欄はなく、会計ソフトでも旧税率8%(国税6.3%)しか選択できないため、地代家賃を7.8%課税仕入れとして処理することができません。
そのため、9月中の支払額は6.3%課税仕入れとして処理し、10月になってから7.8%課税仕入れに修正したり、差額2%分を仮払金などで計上して翌月に繰り越すなどの工夫が必要となります。
税込経理方式の場合(原則的方法)
税込経理方式の場合は、9月25日の家賃支払日にいったん全額を6.3%課税仕入れとして処理しておき、10月になってから当該金額を「仕入返還等」とするとともに同額を7.8%課税仕入れに振り替える相殺仕訳を切ります。
税抜経理方式の場合(原則的方法)
税抜経理方式の場合は、8%分だけを「仮払消費税等」として計上し、差額2%分を「仮払金」などの勘定科目で翌月に繰り越します。10月になったら、その「仮払金」を「仮払消費税等」に振り替えます。
前払金として処理する場合
上記2つの方法は、地代家賃についての原則的な資産の譲渡等の時期である「家賃支払日」に課税仕入れを計上する方法です。
消費税法の規定に照らして考えれば、これらの方法が原則的な方法となりますが、「10月分の家賃に係る費用を9月に計上する」というのは、企業会計上の発生主義の原則に照らして考えると必ずしも適切とはいえません。
期間対応の観点で考えると、9月中の支払額は「前払金」などで経理し、10月になってから費用に振り替える方法で経理処理を行うべきです。
そこで、消費税法基本通達9-6-2では、資産の譲渡等の時期に関して、次のように規定しています。
(資産の譲渡等の時期の別段の定め)
資産の譲渡等の時期について、所得税又は法人税の課税所得金額の計算における総収入金額又は益金の額に算入すべき時期に関し、別に定めがある場合には、それによることができるものとする。
課税仕入れの時期についても、資産の譲渡等の時期に準じて取り扱うこととされているため、確定した債務の額について一般に公正妥当と認められる会計処理の慣行に従った方法で費用計上した時期を課税仕入れの時期とすることができます。
この場合の、家賃の支払いに関する仕訳は以下のようになります。
この方法が最もシンプルであり、発生主義の原則の観点からも最適な方法だと思います。
9月分の家賃を10月中に支払う場合の仕訳
税抜10万円の家賃を翌月10日に支払っている場合の仕訳について考えてみましょう。
9月分の家賃を10月中に支払う場合は、新税率8%(国税6.3%)が適用されることとされています。
10月以後の支払額については7.8%課税仕入れも6.3%課税仕入れもいずれも選択できるため、このケースについては、家賃を前月に前払いしている場合ほどややこしくはなりません。
原則的方法
支払日である10月10日に地代家賃を計上している場合の仕訳は以下のようになります。
未払金として処理する場合
前述のケースと同様、家賃を翌月に後払いしている場合についても、対応する期間に係る家賃を未払計上する方法が認められます。
この方法が、最もシンプルであり、発生主義の原則の観点からも最適な方法だと思います。
まとめ
不動産家賃について適用される税率は、まとめると以下のようになります。