今年10月から軽減税率が導入されることとなりました。導入初日からインターネット上で「イートイン脱税」という言葉が生まれる事態となり物議を醸していますが、世の中には「イートイン脱税」を行う人を監視して店員に告げ口をする正義の味方がいるのをご存知でしょうか?
その名も「正義マン」です。
店員にとっては、「正義マン」が現れた場合、どのように対応すればいいのかわからないという方も多いかと思います。
今回は、店員の立場で「正義マン」と呼ばれているお客さんに対する接客対応マニュアルを解説したいと思います。
イートイン脱税とは
「イートイン脱税」とは、テイクアウトとして消費税8%で購入した飲食物をひっそりとイートインで食べていく行為をいいます。
これはインターネット上で生まれた用語であり、「脱税」という名前がついていますが、法律的には「脱税」とはなりません。モラルに欠ける行為ではありますが、違法行為とはならないのです。この点については、詳しくは以下の記事をご覧ください。
正義マンとは
「正義マン」とは、テイクアウトとして消費税8%で購入した飲食物をひっそりとイートインで食べている人を見つけては店員に告げ口をする正義のヒーローを意味します。
これもインターネット上で生まれたワードです。告げ口した人が女性の場合は「正義ウーマン」と呼ぶ方が適切かもしれません。
(参考①)正義マンという言葉は軽減税率導入前からあった
僕はてっきり「正義マン」という言葉は、軽減税率制度が始まってから生まれた言葉なのかと思っていましたが、調べてみたところ軽減税率導入前から存在していたようです。
倫理上問題がある行為などに対して過剰に反応し、正義感を振りかざして騒ぐ人を指すインターネットスラング。2019年10月の消費税増税と軽減税率制度の実施に伴って「イートイン脱税」が発生した際、これを店員に告げ口するなどして取り締まろうとする「正義マン」が現れるのではないかとの予想が広がったことから、テレビでも取り上げられて話題を呼んだ。
(2019-10-8)
軽減税率導入前から、例えば、電車内で優先席に座っている人を過剰に厳しく注意したりする人も「正義マン」と呼ばれていたそうです。
(参考②)外国にも似たような用語がある
日本だけでなく、外国にも似たような用語があります。その名も「Social Justice Warrior(SJW)」といい、ネガティブな意味合いで使われることが多いようです。
ソーシャル・ジャスティス・ウォリアー (Social justice warrior、SJW) は、フェミニズム、人権(市民権)、文化的多様性[1][2]、アイディンティティ・ポリティクスなど様々な社会進歩的な考え方を広めようとする人を指して言う言葉で、軽蔑的なニュアンスが色濃い[3]。誰かをソーシャル・ジャスティス・ウォリアーと名指すことは、その人が深く社会に根差した信念体系よりも個人的な物差しを優先し[4]、不誠実な議論をしているという意味合いがある[5]。
税率を変更する必要はない
「テイクアウトで」とウソをついて消費税8%でお会計し、その後イートインコーナーで食べていたことが発覚した場合、税率を10%に変更してお会計をし直す必要はあるのでしょうか?
この点については、国税庁の消費税の軽減税率制度に関するQ&A (制度概要編問)に次のような記載があります。
「店内飲食」と「持ち帰り販売」のいずれも行っている飲食店等において飲食料品を提供する場合に、どちらに該当するかは、事業者が飲食料品の譲渡等を行う時に判断することとなります。例えば、注文等の時点で「店内飲食」か「持ち帰り」か顧客の意思確認を行うなどの方法により適用税率の判定を行うこととなります。
したがって、注文時点(お会計の時点)で「店内飲食」か「持ち帰り」かを判断すれば、その後、お客さんが予定を変更したとしても適用税率を訂正する必要はないこととされています。
店員はどう接客すればいいのか
「イートイン脱税」を行っているお客さんがいたとしても、お店側としてはそのお客さんに注意したり、2%分の徴収を求める必要はありません。
接客対応の例文を考えましたので、「正義マン」が現れた場合は、店員さんは次のように対応しましょう。
ポイント① 報告してくれたことに感謝する
「正義マン」は、不公平を是正することや、お店に損害が生じるかもしれないことを心配して、善意に基づいて報告をしてくれているのです。まずは報告してくれたことに対し感謝の意を示すようにしましょう。
ポイント② 意向に沿えないことについて謝罪する
「正義マン」は、店員がイートイン脱税をしているお客さんに注意したり、お会計のし直しを求めることを期待して報告してる可能性があります。その意向には沿えないことについて、先に謝罪の意を伝えておきます。
ポイント③ 国税庁のQ&Aの内容について簡潔に説明する
上述のとおり、適用税率はお会計の時点でのお客さんからの意思表示により決定されることを簡潔に説明します。
ポイント④ 「ウソをついて」という表現は避ける
テイクアウトでお会計をしたお客さんがイートインコーナーで食べていたとしても、初めからウソをつくつもりだったのか、本当は持ち帰る予定だったけどお会計の後に予定が変わったのかは、店員の立場からはわかりません。更なるトラブルが生じるのを避けるために、「ウソをついて」といった表現ではなく、「予定を変更」という表現にしましょう。
ポイント⑤ お会計のし直しはしないことを伝える
「正義マン」は、イートイン脱税をしているお客さんがきっちり2%分追加で支払うことを望んでいる可能性がありです。そのようなお会計のし直しはしないことを明確に伝えましょう。
ポイント⑥ 注意もしないことを伝える
「正義マン」は、お会計のし直しをしないとしても、注意くらいはすべきだと思っているかもしれません。しかし、制度上その必要もないことから、お客様へのお声かけは行っていませんとしっかり伝えましょう。
ポイント⑦ 理解を求める
軽減税率制度は「正直者がバカを見る」ような制度であり、制度自体に問題点があるのは間違いありません。特に倫理観の高い人からしたら納得のいかないところも多々あるかと思います。しかし、現行の制度がそうなっている以上、お店側もそれに合わせて経営しているということについて、失礼のないように理解を求めるようにしましょう。
(脱線話)「正義マン」はなぜ叩かれているのか?
税理士である僕からすると、いわゆる「正義マン」と呼ばれている方の行いは、公平な税負担の観点から考えると倫理的に正しいことだと思います。「イートイン脱税」という行為が行われるようになったことについて本来叩かれるべき対象は、「会計時に嘘をついた客」と「抜け穴だらけの制度を作った官僚と政治家」です。
しかし、「正義マン」というワードで検索をかけてみると、否定的な書かれ方の方が多いように見受けられます。
これには、色々な理由が考えられます。
その人の「正義感」があまりに独善的だから叩かれていたり、単に注意された人が腹いせで叩いているということもあるようですが、一番の理由は正義感を盾に過剰な制裁を加える人が多いからではないかと思います。
例えば、僕の昔話になりますが、僕が小学校低学年のころ、掃除の時間に友達と箒で野球をして遊んでいたら、同じ掃除の班の女子に帰りの会で「先生~!今日の掃除の時間に中庭の〇班の男子たちが野球をして遊んでました~。」と告げ口され、先生にお説教をされたことがあります。
確かに、掃除の時間に野球をして遊んでいたのは悪いことですし、先生に叱られるという罰を受けるのも致し方のないことです。でもですよ?教室の全クラスメイトに暴露されるような形で言う必要があるのでしょうか?わざわざ帰りの会で言わなくても、先生に直接言いつけるだけでも良かったんじゃないか?と思うわけであります。
そのときの女子こそまさに正義感を盾に過剰な制裁を加えてきた「正義マン」(女子なので「正義ウーマン」?)だったといえます。その告げ口のおかげで僕はクラスメイトに「あいつ中庭の掃除という職務に専念すべき時間において野球をするなどという背信行為を働いたんだってさ~。」「彼の任務懈怠責任は極めて大きいと断ぜざるを得ないよね~。」などと陰口を叩かれるようになり、僕のクラス内の名誉及び信用は著しく毀損されることとなりました。
現代のネット社会においても、ネットで炎上した人物や犯罪者を過剰なまでに誹謗中傷し、住所や実名まで特定して拡散する行為がよく見られますが、これも僕と同じ掃除の班だった女子の行動に近いものがあると思います。
このように、制裁が過剰になってしまうのは、非がある方の言い分が通りにくいからだと思います。
例えば、僕は先程の掃除の例で「教室の全クラスメイトに暴露されるような形で言う必要があるのでしょうか?」と書きましたが、「悪いことしたやつが何言ってんだ」「そもそもお前が掃除中に野球なんかやらなきゃ帰りの会で告げ口されることもなかったんだろ」「先生に叱られるくらいじゃ生ぬるい。クラスメイトにさらされて社会的制裁も受けるべき。」などと言われたらもう何も言い返せません。肩をすぼめてしゅんとなることしかできません。
先に悪事を働いた方の立場は非常に不利になるのです。そこにつけこんで、一部の「正義マン」は過剰な制裁を加えてきます。
ドストエフスキーではありませんが、「罪と罰」の観点で考えてみると、「正義マン」は「罪」の重さに対して過剰な「罰」を求めようとする人が多いところが、ネット上で叩かれている一つの要因かもしれません。
「正義感」というものは非常に暴走しやすく、歯止めがきかないものです。しかし、「罪悪感」は心のブレーキとなります。
「行き過ぎた正義は悪に変わり得る」ということを頭の隅っこに入れておくと、暴走事故は防げるんじゃないかと思います。
まとめ
「イートイン脱税」は、モラルに欠ける行為であることは間違いありませんが、違法行為ではありません。
いわゆる「正義マン」とよばれている方が、「イートイン脱税」をしているお客さんがいることについて報告をしてきたとしても、店員の立場としては、そのお客さんに注意したりお会計のし直しを求める必要はありません。
色々納得のいかないところはあるかもしれませんが、現行の制度がそうなっていることについて、失礼のないように理解を求めるようにしましょう。
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CV084 | 正義マンにイートイン脱税をチクられた場合 |