令和元年(2019年)10月から消費税が10%に増税され、我々国民の負担はさらに重くなりました。
軽減税率制度が導入されたものの、10%と8%ではあまり差が大きくないため、あまり恩恵を感じていない人も多いかと思います。
「消費税は何のために使われているの?」「どうして増税が必要なの?」と疑問に感じたことはないでしょうか?
今回は、消費税の使われ方と増税の理由について説明します。
消費税の使われ方は消費税法で定められている
消費税の使われ方は、実は消費税について定めた法律である「消費税法」の一番最初の第1条で明確に規定されています。
(趣旨等)
第一条 この法律は、消費税について、課税の対象、納税義務者、税額の計算の方法、申告、納付及び還付の手続並びにその納税義務の適正な履行を確保するため必要な事項を定めるものとする。
2 消費税の収入については、地方交付税法(昭和二十五年法律第二百十一号)に定めるところによるほか、毎年度、制度として確立された年金、医療及び介護の社会保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する経費に充てるものとする。
つまり、消費税の収入はすべて国や地方の社会保障財源に充てることとされているのです。
具体的には「育児」「教育」「医療」「介護」「年金」
「社会保障のために使われている」と一口に言っても、いまいちイメージが沸きづらいかと思います。
もう少し具体的に言うと、消費税は主に「育児」「教育」「医療」「介護」「年金」を充実させるために必要な財源として使われています。
なぜ増税が必要なのか
平成30年度(2018年度)の日本の一般会計税収は、大きい順に所得税、消費税、法人税となっており、その内訳は次のとおりです。
税目 | 税収 |
所得税 | 19.9兆円 |
消費税 | 17.7兆円 |
法人税 | 12.3兆円 |
令和元年(2019年)以後は、所得税と消費税の順位が逆転し、税収に占める割合は消費税が最も多くなる見込みです。
なぜ今、増税をする必要があるのでしょうか?
その理由としては、以下の2つが挙げられます。
① 少子高齢化対策のため
② 将来世代へのつけ回しを改善するため
① 少子高齢化対策のため
日本では、少子高齢化が急速に進んでおり、社会保障費は増え続けています。国の予算は毎年社会保障費用に最も多くの財源が充てられており、その額は1990年の11.5兆円から2018年の33兆円と約3倍にまで膨れ上がっています。
増税を行うのは、今後ますます膨らんでいく社会保障費を賄うために、高齢者自身も含めた国民各世代に負担増を求める必要があるからです。
② 将来世代へのつけ回しを改善するため
「社会保障と税の一体改革」という言葉を聞いたことはないでしょうか?
これは、社会保障の充実・安定化と、そのための安定財源確保と財政健全化の同時達成を目指すもので、将来世代への負担をつけ回している現状を改善するためのものです。
以下の図は、2015年度一般会計予算の図です。
公共事業や防衛、科学技術などの政策的経費を税収及び税外収入でどれだけ 賄えているかを示す指標のことを基礎的財政収支(プライマリー・バランス)といいます。
基礎的財政収支(プライマリー・バランス)の赤字分は国債などの借金で賄われており、見方を変えれば、将来世代へ負担をつけ回しているということになります。
こうした状況を改善するためには、税収を増やす必要があるということになります。
なぜ消費税を増税するのか
では、なぜ消費税を増税する必要があるのでしょうか?
「法人税や所得税、相続税などの他の税金の税率を上げればいいじゃないか!」と疑問に感じる方も多いかと思います。
消費税の増税には、次のようなメリットがあります。
① 景気に大きく左右されず、安定した税収を得やすい
所得税や法人税は景気が悪いと税収が減少するため安定性は高くありません。
特に、法人税については、繰越欠損金という赤字を翌期以後に繰り越せる制度などがあるため、黒字申告割合(法人税を納付している会社の割合)は約25%で、毎年3割にも満たないほどです。日本には約400万の会社がありますが、そのうち300万社は法人税を払っていないのです。
一方、消費税は、消費者から預かった消費税額から仕入先などに支払った消費税額を差し引いて計算するため、会計上の利益が赤字であったとしても、差引税額がプラスであれば納付する必要があります。
そのため、消費税の方が所得税や法人税などの他の税目よりも安定性が高いといえます。
② 特定の世代に負担が集中することがなく、国民各世代が負担することになるため公平的
法人税や所得税は、現役で働いている世代に税負担を強いることになります。また、現役世代は税金の他にも社会保険料の負担も大きいため公平性に欠けます。
一方、消費税はモノやサービスを買った人が支払うため、高齢者自身も含めた国民各世代が広く負担することになるため、公平性が確保できます。
消費税増税の判断は本当に正しいのか
これまで、増税の必要性と消費税を増税した理由について説明してきました。
しかし、消費税を増税するという判断は本当に正しいと言えるのでしょうか?
消費税の増税には、以下のようなデメリットもあるため、必ずしも消費税増税は正しい判断であったと断言することはできません。
① 消費税の増税は消費を減速させ景気後退を招くおそれがある
消費税が増税されると、その分モノやサービスの値段は高くなります。
モノやサービスの値段が高くなれば消費は減速するため、企業の収入も減ります。
企業の収入が減れば従業員の給料も減り、その分さらに消費は減速するため悪循環となってしまいます。
景気が悪くなれば法人税や所得税の税収も減り、モノやサービスを買うという消費が行われなければその分消費税の税収も減るため、むしろ増税前よりも税収が減ってしまうという最悪のパターンになってしまう可能性もゼロではありません。
② 「逆進性」の問題がある
高所得者ほど可処分所得に占める消費支出の割合は低くなります。
消費支出に課税すると、可処分所得に対する税の割合は所得が上昇するほど低下することになってしまうため、消費税は所得が高い人ほど税率が低くなる逆進的なものだという批判があります。
この逆進性の問題を回避するために「軽減税率制度」が導入されました。
しかしながら、軽減税率制度は中小事業者の事務負担を増加させること、2%の差だけではあまり恩恵がないこと、高所得者も軽減税率の恩恵を受けることが可能であり逆進性緩和の効果が薄いといった批判もあります。
今後の課題
新型コロナウイルス感染症の拡大により景気は戦後最悪と言われるほどに転落してしまいました。
一方で、少子高齢化はますます進んでいるため、社会保障費を賄うための財源の確保は喫緊の課題です。
2020年9月に総理大臣に就任した菅義偉氏は、「消費税は社会保障の貴重な財源だ」と強調して将来的な消費税率の引き上げについて前向きな考えを示しました。
消費減速による経済への影響を最小限に抑えつつ、社会保障費をしっかりと賄えるだけの財源をいかに確保するのか、総理大臣としての腕の見せ所だと思います。
まとめ
消費税の使い道は、育児や教育、医療、介護、年金などの社会保障費のために充てられています。
消費税の増税にはメリットもデメリットもあります。
今後どんどん増え続ける社会保障費を賄うためには、さらなる消費税率の引き上げはやむを得ないといえる部分もあるかもしれません。一方で、「消費税の増税以外の方法でも財源を確保することはできるんじゃないか?」との疑問を持ち、別の方法を模索することもまた重要です。
消費税の使われ方と日本社会の現状をよく知り、消費税の増税が適切であるかどうかを我々一人ひとりがしっかりと考え、国民的に議論を深めていくことが最も重要なことだと思います。