値引きや返品・割戻し・割引などの「売上げに係る対価の返還等」についての経理処理方法には「総額主義」と「純額主義」の2種類に方法があります。
今回は、「総額主義」と「純額主義」の経理処理方法の違いについて解説したいと思います。
原則は「総額主義」、継続適用を要件に「純額主義」も認容
売上値引等(値引きや返品・割戻し・割引)を行い、代金の払い戻しや掛代金の減額を行った場合は、消費税法上「売上げに係る対価の返還等」に該当するため、返還等対価に係る税額を課税標準額に対する消費税額から控除することができます。
売上値引等については、税法上は原則として「総額主義」(売上値引等控除前の金額を課税標準とし、当該売上値引等の金額について売上げに係る対価の返還等の規定を適用する方法)で処理することとされています。
しかし、消費税法基本通達14-1-8の規定により、毎期継続適用することを要件として、売上値引等につき「純額主義」(売上値引等控除後の金額を課税標準とし、当該売上値引等の金額について売上げに係る対価の返還等の規定を適用しない方法)により処理することもできることとされています。
(売上げに係る対価の返還等の処理)
14-1-8 事業者が、売上げに係る対価の返還等(免税事業者であった課税期間において行った課税資産の譲渡等に係るものを除く。以下14-1-8において同じ。)を行った場合において、当該課税期間に国内において行った課税資産の譲渡等の金額から当該売上げに係る対価の返還等の金額を控除する経理処理を継続して行っているときは、これを認める。
総額主義を採用している場合の仕訳例
売上値引等につき「総額主義」を採用している場合は、以下のように経理処理を行います。
総額主義を採用している場合は、商品の販売代金の総額11万円を課税売上げとして計上し、売上割戻しの金額1,100円を売上げに係る対価の返還等として処理します。
純額主義を採用している場合の仕訳
売上値引等につき「総額主義」を採用している場合は、以下のように経理処理を行います。
純額主義を採用している場合は、商品の販売代金11万円から売上割戻しの金額1,100円を控除した後の金額108,900円を課税売上げとして計上します。
この場合、売上げに係る対価の返還等の規定の適用はありません。
純額主義を採用する場合も帳簿の保存は必要
消費税法第38条第2項の規定により、売上げに係る対価の返還等の規定を適用するためには、その売上げに係る対価の返還等をした金額の明細を記録した帳簿を保存する必要があります。
純額主義を採用する場合は、売上げに係る対価の返還等の規定を適用はありませんが、それでも、消費税法第38条第2項に規定する売上げに係る対価の返還等をした金額の明細を記録した帳簿を保存する必要があります。
(注) この場合、当該売上げに係る対価の返還等の金額については、別途法第38条第1項《売上げに係る対価の返還等をした場合の消費税額の控除》の規定の適用はないのであるが、同条第2項に規定する帳簿を保存する必要があることに留意する。
簡易課税の場合は総額主義の方が有利になる
上記数値例と同様、商品を11万円で販売し、1%分(1,100円)の売上割戻しを行ったとします。
簡易課税制度を採用している場合、総額主義の場合と純額主義の場合のそれぞれの納付税額は以下のようになります。(税率は標準税率10%、業種は小売業(みなし仕入率80%)とし、税額はわかりやすくするために国税と地方消費税まとめて計算しています。)
したがって、簡易課税制度を採用している場合は総額主義の方が税額計算上有利となります。
全額控除、個別対応方式、一括比例配分方式の場合は、総額主義でも純額主義でも納付税額は同じになります。
まとめ
売上げに係る対価の返還等の処理方法は、原則として総額主義とされていますが、毎期継続適用を要件に純額主義を採用することも認められています。
容認:純額主義(毎期継続適用が要件)
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問題番号 | タイトル |
912 | 純額主義による場合の売上割引料 |