前回解説した記事では、消費税法第10条《相続があった場合の納税義務の免除の特例》により納税義務が免除されないこととなる場合の要件について解説しました。
今回は、この特例の適用対象となる「相続」の範囲について解説したいと思います。
生前に財産を渡す相手を決めていない場合は「相続」に含まれる
「相続」とは、個人が死亡した場合に、その者の有していた財産上の権利義務をその者の配偶者や子など一定の身分関係にある者に承継させる制度のことをいいます。
この場合、財産上の権利義務を承継される者のことを「被相続人」といい、これを承継する者のことを「相続人」といいます。
生前に被相続人が財産を渡す相手を決めていない場合に、配偶者や子、父母、兄弟姉妹などそれぞれの相続人がどのような割合で相続するかは民法に規定されています。
このような、生前に財産を渡す相手を決めずに行われる相続は、消費税法第10条《相続があった場合の納税義務の免除の特例》の適用対象となる「相続」の範囲に含まれます。
「包括遺贈」は納税義務の免除の特例の対象となる「相続」に含まれる
消費税法第2条第4項において、次のような規定が置かれています。
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
・・・(中略)・・・
4 この法律において「相続」には包括遺贈を含むものとし、「相続人」には包括受遺者を含むものとし、「被相続人」には包括遺贈者を含むものとする。
「包括遺贈」とは、遺贈する財産を特定しないで、財産の全部又は財産の一定の割合として他人に遺贈することをいいます。
つまり、遺言書などで、具体的な財産は特定せず、遺贈する割合のみを定めた場合は「包括遺贈」に該当し、消費税法第10条《相続があった場合の納税義務の免除の特例》の適用対象となります。
「特定遺贈」は納税義務の免除の特例の対象となる「相続」に含まれない
遺言書などで、遺贈する財産を具体的に特定して遺贈することを「特定遺贈」といいます。
例えば、「××市の土地付建物は長男に、△△市の営業店舗は次男に」といった形で、具体的に何を移動するのか特定している場合は「特定遺贈」となります。
「特定遺贈」については、消費税法基本通達1-5-3の注書きにおいて、相続があった場合の納税義務の免除の特例の適用対象外となる旨規定されています。
(被相続人の事業を承継したとき)
1-5-3 法第10条第1項《相続があった場合の納税義務の免除の特例》に規定する「被相続人の事業を承継したとき」とは、相続により被相続人の行っていた事業の全部又は一部を継続して行うため財産の全部又は一部を承継した場合をいう。
(注) 特定遺贈又は死因贈与により受遺者又は受贈者が遺贈者又は贈与者の事業を承継したときは、法第10条第1項又は第2項の規定は適用されないから、当該受遺者又は受贈者のその課税期間について法第9条第1項本文《小規模事業者に係る納税義務の免除》の規定の適用があるかどうかは、当該受遺者又は受贈者のその課税期間に係る基準期間における課税売上高のみによって判定するのであるから留意する。
したがって、「特定遺贈」により受遺者が遺贈者の事業を承継したときは、消費税法第10条《相続があった場合の納税義務の免除の特例》は適用されません。
「死因贈与」は納税義務の免除の特例の対象となる「相続」に含まれない
贈与者の死亡によって効力を生ずる停止条件付贈与のことを「死因贈与」といいます。
これは、「私が死亡したら、あなたに○○(財産)を贈与します」という意思表示をして、もらう側もそれを承諾して受諾することで成立する法律行為で、単独行為である遺贈とは異なり契約の形態で行われます。
なお、死亡時に遺産を贈与する見返りとして一定の義務や負担を負う契約のことを「負担付き死因贈与契約」といいます。
「死因贈与」については、上述の消費税法基本通達1-5-3の注書きにおいて、相続があった場合の納税義務の免除の特例の適用対象外となる旨規定されています。
したがって、「死因贈与」により受遺者が遺贈者の事業を承継したときは、消費税法第10条《相続があった場合の納税義務の免除の特例》は適用されません。
「生前贈与」は納税義務の免除の特例の対象となる「相続」に含まれない
消費税法第10条《相続があった場合の納税義務の免除の特例》は、個人が死亡したことにより事業を承継した場合についてのみ適用されるため、生前に事業を承継した場合はこの特例の適用はありません。
したがって、個人事業者の事業を生前贈与により承継した場合は消費税法第10条《相続があった場合の納税義務の免除の特例》は適用されません。
事業者が生前に配偶者や子供などに事業を承継させる場合は、その事業承継者の基準期間における課税売上高及び特定期間における課税売上高が1,000万円以下である限り、事業承継者の納税義務は免除されます。
まとめ
個人事業者が事業を承継する場合に、消費税法第10条《相続があった場合の納税義務の免除の特例》の規定が適用されるか否かは、一覧表でまとめると次のようになります。
事業の承継方法 | 相続があった場合の納税義務の免除の特例の適用の有無 |
生前に財産を渡す相手を決めていない相続 | ○ |
包括遺贈 | ○ |
特定遺贈 | × |
死因贈与 | × |
生前贈与 | × |