病院で受ける診療や調剤薬局で処方される薬剤のうち、社会保険診療に係るものは消費税が非課税とされています。
非課税とされる医療等は、代表的なものとして健康保険法や国民健康保険法の規定に基づくものが挙げられていますが、これら以外にはどのようなものが非課税とされるのでしょうか?
消費税が非課税となる社会保険診療の範囲について解説したいと思います。
消費税法では非課税取引は別表第二に限定列挙されてる
消費税法の規定では、国内で行われるモノやサービスの提供のうち、消費税法別表第二に限定列挙されている次の17項目の取引には消費税を課さないこととされています。
(下記は、国税庁が公表しているタックスアンサーNo.6201『非課税となる取引』のタイトルの柱をピックアップしたものです。)
(2) 有価証券等の譲渡
(3) 支払手段の譲渡
(4) 預貯金の利子及び保険料を対価とする役務の提供等
(5) 日本郵便株式会社などが行う郵便切手類の譲渡、印紙の売渡し場所における印紙の譲渡及び地方公共団体などが行う証紙の譲渡
(6) 商品券、プリペイドカードなどの物品切手等の譲渡
(7) 国等が行う一定の事務に係る役務の提供
(8) 外国為替業務に係る役務の提供
(9) 社会保険医療の給付等
(10) 介護保険サービスの提供
(11) 社会福祉事業等によるサービスの提供
(12) 助産
(13) 火葬料や埋葬料を対価とする役務の提供
(14) 一定の身体障害者用物品の譲渡や貸付け
(15) 学校教育
(16) 教科用図書の譲渡
(17) 住宅の貸付け
上記一覧には社会保険医療の給付等も入っていますが、具体的にはどのような医療が非課税となるのでしょうか?
具体的な内容は消費税法別表第二第六号に記載されている
どの法律に基づく医療・療養等が非課税とされるかの具体的な内容については、消費税法別表第二第六号に次のように規定されています。
六 次に掲げる療養若しくは医療又はこれらに類するものとしての資産の譲渡等(これらのうち特別の病室の提供その他の財務大臣の定めるものにあつては、財務大臣の定める金額に相当する部分に限る。)
イ 健康保険法(大正十一年法律第七十号)、国民健康保険法(昭和三十三年法律第百九十二号)、船員保険法(昭和十四年法律第七十三号)、国家公務員共済組合法(昭和三十三年法律第百二十八号)(防衛省の職員の給与等に関する法律第二十二条第一項《療養等》においてその例によるものとされる場合を含む。)、地方公務員等共済組合法(昭和三十七年法律第百五十二号)又は私立学校教職員共済法(昭和二十八年法律第二百四十五号)の規定に基づく療養の給付及び入院時食事療養費、入院時生活療養費、保険外併用療養費、療養費、家族療養費又は特別療養費の支給に係る療養並びに訪問看護療養費又は家族訪問看護療養費の支給に係る指定訪問看護
ロ 高齢者の医療の確保に関する法律(昭和五十七年法律第八十号)の規定に基づく療養の給付及び入院時食事療養費、入院時生活療養費、保険外併用療養費、療養費又は特別療養費の支給に係る療養並びに訪問看護療養費の支給に係る指定訪問看護
ハ 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和二十五年法律第百二十三号)の規定に基づく医療、生活保護法(昭和二十五年法律第百四十四号)の規定に基づく医療扶助のための医療の給付及び医療扶助のための金銭給付に係る医療、原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(平成六年法律第百十七号)の規定に基づく医療の給付及び医療費又は一般疾病医療費の支給に係る医療並びに障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成十七年法律第百二十三号)の規定に基づく自立支援医療費、療養介護医療費又は基準該当療養介護医療費の支給に係る医療
ニ 公害健康被害の補償等に関する法律(昭和四十八年法律第百十一号)の規定に基づく療養の給付及び療養費の支給に係る療養
ホ 労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)の規定に基づく療養の給付及び療養の費用の支給に係る療養並びに同法の規定による社会復帰促進等事業として行われる医療の措置及び医療に要する費用の支給に係る医療
ヘ 自動車損害賠償保障法(昭和三十年法律第九十七号)の規定による損害賠償額の支払(同法第七十二条第一項《定義》の規定による損害をてん補するための支払を含む。)を受けるべき被害者に対する当該支払に係る療養
ト イからヘまでに掲げる療養又は医療に類するものとして政令で定めるもの
なお、「イからヘまでに掲げる療養又は医療に類するものとして政令で定めるもの」については、消費税法施行令第14条《療養、医療等の範囲》において、次のように規定されています。
(療養、医療等の範囲)
第十四条 法別表第二第六号トに規定する政令で定めるものは、次に掲げるものとする。
一 戦傷病者特別援護法(昭和三十八年法律第百六十八号)の規定に基づく療養の給付又は療養費の支給に係る療養及び更生医療の給付又は更生医療に要する費用の支給に係る医療
二 中国残留邦人等の円滑な帰国の促進並びに永住帰国した中国残留邦人等及び特定配偶者の自立の支援に関する法律(平成六年法律第三十号)(中国残留邦人等の円滑な帰国の促進及び永住帰国後の自立の支援に関する法律の一部を改正する法律(平成十九年法律第百二十七号)附則第四条第二項《施行前死亡者の配偶者に対する支援給付の実施》において準用する場合を含む。)又は中国残留邦人等の円滑な帰国の促進及び永住帰国後の自立の支援に関する法律の一部を改正する法律(平成二十五年法律第百六号)附則第二条第一項若しくは第二項《支援給付の実施に関する経過措置》の規定によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の中国残留邦人等の円滑な帰国の促進及び永住帰国後の自立の支援に関する法律の規定に基づく医療支援給付のための医療の給付及び医療支援給付のための金銭給付に係る医療
三 予防接種法(昭和二十三年法律第六十八号)又は新型インフルエンザ予防接種による健康被害の救済に関する特別措置法(平成二十一年法律第九十八号)の規定に基づく医療費の支給に係る医療
四 麻薬及び向精神薬取締法(昭和二十八年法律第十四号)又は感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成十年法律第百十四号)の規定に基づく医療
五 検疫法(昭和二十六年法律第二百一号)の規定に基づく入院に係る医療
六 沖縄の復帰に伴う厚生省関係法令の適用の特別措置等に関する政令(昭和四十七年政令第百八号)第三条《精神障害者の医療に関する特別措置》又は第四条《結核患者の医療に関する特別措置》の規定に基づく医療費の支給に係る医療
七 難病の患者に対する医療等に関する法律(平成二十六年法律第五十号)の規定に基づく特定医療費の支給に係る医療
八 学校保健安全法(昭和三十三年法律第五十六号)第二十四条《地方公共団体の援助》の規定に基づく医療に要する費用の援助に係る医療
九 児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)の規定に基づく小児慢性特定疾病医療費の支給に係る医療、療育の給付に係る医療並びに肢体不自由児通所医療費及び障害児入所医療費の支給に係る医療並びに同法第二十二条第一項《助産の実施》の規定による助産の実施、同法第二十七条第一項第三号《都道府県のとるべき措置》に規定する措置、同条第二項に規定する指定発達支援医療機関への委託措置又は同法第三十三条《児童の一時保護》に規定する一時保護に係る医療
十 身体障害者福祉法(昭和二十四年法律第二百八十三号)第十八条第二項《障害福祉サービス、障害者支援施設等への入所等の措置》に規定する厚生労働省令で定める施設への入所又は同項に規定する指定医療機関への入院に係る医療
十一 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(平成十五年法律第百十号)の規定に基づく医療
十二 母子保健法(昭和四十年法律第百四十一号)の規定に基づく養育医療の給付又は養育医療に要する費用の支給に係る医療
十三 行旅病人及行旅死亡人取扱法(明治三十二年法律第九十三号)の規定に基づく救護に係る医療
十四 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(平成十七年法律第五十号)第二条第一号《定義》に規定する被収容者、同条第二号に規定する被留置者、同条第三号に規定する海上保安被留置者、同法第二百八十八条《労役場留置者の処遇》に規定する労役場留置者若しくは同法第二百八十九条第一項《被監置者の処遇》に規定する監置場留置者又は少年院法(平成二十六年法律第五十八号)第二条第一号《定義》に規定する在院者若しくは同法第百三十三条第三項《仮収容》に規定する少年院に仮に収容されている者、少年鑑別所法(平成二十六年法律第五十九号)第二条第二号《定義》に規定する在所者若しくは婦人補導院法(昭和三十三年法律第十七号)第一条《婦人補導院》に規定する婦人補導院の在院者に係る医療
十五 更生保護法(平成十九年法律第八十八号)第六十二条第二項《応急の救護》(売春防止法(昭和三十一年法律第百十八号)第二十六条第二項《仮退院中の保護観察》において準用する場合を含む。)の規定に基づく救護又は更生保護法第八十五条《更生緊急保護》の規定に基づく更生緊急保護に係る医療
十六 公立学校の学校医、学校歯科医及び学校薬剤師の公務災害補償に関する法律《昭和三十二年法律第百四十三号》の規定に基づく療養補償に係る療養
十七 国家公務員災害補償法(昭和二十六年法律第百九十一号)(特別職の職員の給与に関する法律(昭和二十四年法律第二百五十二号)第十五条《災害補償》若しくは裁判官の災害補償に関する法律(昭和三十五年法律第百号)においてその例によるものとされる場合又は防衛省の職員の給与等に関する法律(昭和二十七年法律第二百六十六号)第二十七条第一項《国家公務員災害補償法の準用》若しくは裁判所職員臨時措置法(昭和二十六年法律第二百九十九号)において準用する場合を含む。以下この号において同じ。)の規定に基づく療養補償に係る療養の給付又は療養の費用の支給に係る療養及び国家公務員災害補償法の規定に基づき福祉事業として行われる医療の措置又は医療に要する費用の支給に係る医療
十八 国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律(昭和二十二年法律第八十号)第十二条の三《公務上の災害に対する補償等》、国会議員の秘書の給与等に関する法律(平成二年法律第四十九号)第十八条《災害補償》又は国会職員法(昭和二十二年法律第八十五号)第二十六条の二《公務上の災害又は通勤による災害に対する補償等》に規定する補償等に係る療養及び医療で、前号に掲げる療養及び医療に相当するもの
十九 地方公務員災害補償法(昭和四十二年法律第百二十一号)の規定に基づく療養補償に係る療養の給付又は療養の費用の支給に係る療養及び同法の規定に基づき福祉事業として行われる医療の措置又は医療に要する費用の支給に係る医療並びに同法第六十九条《非常勤の地方公務員に係る補償の制度》の規定に基づき定められた補償の制度に基づく療養及び医療
二十 消防組織法(昭和二十二年法律第二百二十六号)第二十四条《非常勤消防団員に対する公務災害補償》又は水防法(昭和二十四年法律第百九十三号)第六条の二《公務災害補償》の規定に基づく損害の補償に係る療養の給付又は療養の費用の支給に係る療養及びこれらの規定に基づき福祉事業として行われる医療の措置又は医療に要する費用の支給に係る医療、消防法(昭和二十三年法律第百八十六号)第三十六条の三《消防作業に従事した者等に対する損害補償》、水防法第四十五条《第二十四条の規定により水防に従事した者に対する災害補償》、災害対策基本法(昭和三十六年法律第二百二十三号)第八十四条《応急措置の業務に従事した者に対する損害補償》又は武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律(平成十六年法律第百十二号)第百六十条《損害補償》(同法第百八十三条《準用》において準用する場合を含む。)の規定に基づく損害の補償に係る療養の給付又は療養の費用の支給に係る療養並びに新型インフルエンザ等対策特別措置法(平成二十四年法律第三十一号)第六十三条《損害補償》の規定に基づく損害の補償に係る療養の費用の支給に係る療養
二十一 警察官の職務に協力援助した者の災害給付に関する法律(昭和二十七年法律第二百四十五号)、海上保安官に協力援助した者等の災害給付に関する法律(昭和二十八年法律第三十三号)又は証人等の被害についての給付に関する法律(昭和三十三年法律第百九号)の規定に基づく療養の給付又は療養に要する費用の給付に係る療養
二十二 石綿による健康被害の救済に関する法律(平成十八年法律第四号)の規定に基づく医療費の支給に係る医療
二十三 水俣病被害者の救済及び水俣病問題の解決に関する特別措置法(平成二十一年法律第八十一号)第五条第七項《救済措置の方針》又は第六条第二項《水俣病被害者手帳》の規定により支給するものとされる療養費の支給に係る療養
二十四 前各号に掲げるもののほか、国又は地方公共団体の施策に基づきその要する費用の全部又は一部が国又は地方公共団体により負担される医療及び療養
したがって、上記の太字部分で示した法律に基づいて行われる医療等は、消費税の非課税取引とされます。
労災保険や自賠責保険の適用を受けて行う医療等も消費税は非課税とされますが、任意保険の保険会社から支払いを受けて行われる診療報酬で上記に該当しないものは課税されることに注意しましょう。
上記に該当する医療費は、患者さんから受け取る窓口収入も社会保険診療報酬支払基金から支払いを受ける金額も両方とも非課税売上げとなります。
なお、社会保険が適用されない自由診療や美容整形手術、任意で受ける予防接種、差額ベッド代、市販の医薬品などは非課税とされません。
自由診療と保険診療の違いに関しては、詳しくは次の記事をご覧ください。
(参考)自己の負担で行う保険診療も非課税となる
国民健康保険料を滞納している等の場合には、保険証の交付を受けられないことがあります。
この場合は、いわゆる資格証明書により診療を受けることとなりますが、このような場合でも消費税は非課税とされるのでしょうか?
この点については、国税庁の質疑応答事例『自己の負担で行う保険診療』において次のように回答されています。
【照会要旨】
国民健康保険料の滞納等で保険証の交付を受けられない者は、いわゆる資格証明書により診療を受けることになります。この場合に医療費は診療を受ける者が支払いますが、非課税となるのでしょうか。【回答要旨】
保険証の交付を受けられない者が自己の負担で資格証明書により受ける診療であっても、当該診療は国民健康保険法の規定に基づく診療ですから非課税となります(法別表第二6)。
したがって、保険証の交付が受けられない場合であっても、自己の負担で資格証明書により診療は非課税取引となります。
まとめ
消費税が非課税とされる社会保険医療の範囲については、消費税法別表第二第六号に具体的に規定されています。
簡潔にまとめると、以下の法令に基づいて行われる一定の医療の給付等については、消費税は非課税とされます。
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消費税法 無敵の一問一答
問題番号 | タイトル |
162 | 保険証の交付を受けられない患者に対する診療 |
163 | 自動車損害賠償責任保険の対象となる医療 |
165 | 自動車損害賠償責任保険の対象とならない医療 |
166 | 医師の処方箋に基づく医療行為の一環として行う投薬 |
168 | 健康保険法に基づく診療報酬 |
169 | 任意保険の保険会社から支払いを受けた診療報酬 |
170 | 健康保険法に規定する医療用具の販売 |
消費税法 基本の一問一答
問題番号 | タイトル |
48 | 医師の処方箋に基づく医療行為の一環として行う投薬 |
50 | 健康保険法に基づく診療報酬 |
51 | 健康保険法に規定する医療用具の販売 |
消費税率判定トレーニング
問題番号 | タイトル |
HP004 | 社会保険医療の対象となる風邪の診察代 |
HP005 | 社会保険医療の対象となる群発頭痛の診察代 |
HP005 | 社会保険医療の対象となるリウマチの治療費 |
HP006 | 社会保険医療の対象となる骨折の治療費 |