消費税・地方消費税に係る重加算税が課される場合の具体例

この記事の内容は、2025年1月現在の最新の税制に対応しています。

消費税の税務調査は、従来は法人税や所得税の税務調査と合わせて行われることが多かったですが、近年の消費税率の引き上げに伴い消費税の重要性が高まってきているため、消費税に絞った単独調査の動きが増えているといわれています。

税務調査の中でも特に気を付ける必要があるのが「重加算税」です。

仮装経理や隠ぺいなどの悪質な行為が発覚した場合に、本税の納付税額に35~40%の税率で課される重加算税は最も重いペナルティーです。

国税の消費税だけでなく地方消費税についても課税対象は同一なので、国税通則法第68条第1項又は第2項《重加算税》に規定する国税の消費税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装していたことにより重加算税を課する場合には、地方消費税についても当然に重加算税を課すこととされています。

そこで、今回は、どのような場合に消費税・地方消費税に係る重加算税が課されるのか、具体例をご紹介したいと思います。

 

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所得税や法人税に不正事実がある場合

所得税や法人税についての調査で隠ぺいや仮装経理などの不正事実が発覚し、所得税や法人税について重加算税が課されると、この不正事実が影響する消費税の不正事実に係る増差税額にも重加算税が課せられます。

例えば、架空の経費を計上していたことが発覚し、その経費が否認されたことにより生じた所得税や法人税の本税に重加算税が課される場合は、その経費に係る課税仕入れの否認により生じた消費税の本税に対しても重加算税が課されることになります。

 

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重加算税を課す消費税固有の不正事実

所得税や法人税の所得金額には影響しないが、消費税額に影響する不正事実(消費税固有の不正事実)により、消費税が過少申告となった場合については、消費税の重加算税を課されます。

この場合の具体例として、国税庁が公表している『消費税及び地方消費税の更正等及び加算税の取扱いについて(事務運営指針)』において、次のようなケースが挙げられています。

イ 課税売上げを免税売上げに仮装する。

ロ 架空の免税売上げを計上し、同額の架空の課税仕入れを計上する。

ハ 不課税又は非課税仕入れを課税仕入れに仮装する。

ニ 非課税売上げを不課税売上げに仮装し、課税売上割合を引き上げる。

ホ 簡易課税制度の適用を受けている事業者が、資産の譲渡等の相手方、内容等を仮装し、高いみなし仕入率を適用する。

イ 課税売上げを免税売上げに仮装する。

本来なら「課税売上げ」として計上すべき売上を「免税売上げ」と仮装して経理した場合は、所得計算に影響はありませんが、消費税の課税標準額が本来よりも減少することになります。

実際に輸出を行っていたものの輸出証明書を紛失してしまったという理由ならまだしも、明らかに輸出なんて行っていないのに輸出免税売上げとして仮装経理している場合は重加算税が課されます。

ロ 架空の免税売上げを計上し、同額の架空の課税仕入れを計上する。

実際には存在しない架空の取引をでっちあげ、以下のような仮装経理を行った場合、売上と仕入の金額が同じであるため所得計算に影響はありませんが、消費税の控除対象仕入税額が本来よりも多くなります。

架空の免税売上げを計上し、同額の架空の課税仕入れを計上する仕訳

このような架空の取引の仮装経理を行ったとしても、実際には仕入税額控除の要件である「請求書等の保存」も輸出取引等の要件である「輸出証明書の保存」もいずれも満たさないため、課税仕入れも免税売上げもいずれも否認され、重加算税が課されます。

ハ 不課税又は非課税仕入れを課税仕入れに仮装する。

不課税仕入れ又は非課税仕入れである仕入れを課税仕入れとして仮装経理する場合も、所得計算に影響はありませんが、消費税の控除対象仕入税額が本来よりも多くなります。

このような場合も、実際には仕入税額控除の要件である「請求書等の保存」を満たさないため課税仕入れは否認され、重加算税が課されます。

ニ 非課税売上げを不課税売上げに仮装し、課税売上割合を引き上げる。

非課税売上げを不課税売上げとして仮装経理を行った場合、所得計算に影響はありませんが、個別対応方式又は一括比例配分方式を採用している場合は課税売上割合が大きくなるため、消費税の控除対象仕入税額も本来よりも多くなります。

このように、非課税資産の譲渡等を行った事実を隠蔽し、不課税取引であると仮装して経理した場合には重加算税が課されます。

ホ 簡易課税制度の適用を受けている事業者が、資産の譲渡等の相手方、内容等を仮装し、高いみなし仕入率を適用する。

簡易課税の適用を受けている事業者が、適用されるみなし仕入率を仮装して本来よりも高いみなし仕入率を採用したとしても、所得計算に影響はありませんが、消費税の控除対象仕入税額も本来よりも多くなります。

例えば、本当は商品を消費者に対して販売したため「小売業」として第二種事業(みなし仕入率80%)となるところを、事業者に対して販売したものと仮装して「卸売業」として第一種事業(みなし仕入率90%)で計算を行った場合など、資産の譲渡等の相手方、内容等を仮装し、高いみなし仕入率を適用した場合は重加算税が課されます。

上記以外でも、悪質なケースには重加算税が課される

上記で紹介したケースは、あくまでも事務運営指針に記載されている具体例であり、これら以外のケースでも悪質なものについては重加算税が課されます。

例えば、本当は標準税率10%の課税売上げなのに、資産の譲渡等の内容を仮装して軽減税率8%の課税売上げとして計上していた場合など、内容が悪質と判断されたものには重加算税が課されることになります。

 

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重加算税対象税額の計算

重加算税の計算の基礎となる税額(以下「重加算税対象税額」という。)は、通則法第68条及び国税通則法施行令第28条の規定により、その原因となった更正等があった後の税額から隠蔽又は仮装をされていない事実だけに基づいて計算した税額を控除して計算するため、例えば、次のような場合の重加算税対象税額は、更正等があった後の税額から、不正事実がなかったとして計算した納付すべき税額を控除した残額となります。

(1) 不正事実に基づく課税売上げ又は非課税売上げの除外があったことに伴い、課税売上割合が変動した結果、仕入控除税額が増加又は減少した場合
(2) 簡易課税制度を適用している場合において、不正事実に基づく課税売上げの除外があったこと等により、みなし仕入率が変動した結果、仕入控除税額が増加又は減少した場合

つまり、その課税期間に隠ぺいや仮装などの不正事実があったために、その影響で当課税期間の納付税額が増えた場合は、その増えた税額に対して重加算額が課されます。

 

重加算税を課する場合の留意事項

その課税期間の基準期間(「前々課税期間」という。)に係る消費税の増差税額に対して重加算税を課す場合(通則法第119条第4項の規定により、重加算税の全額が切り捨てられる場合を含む。)には、その原因となる前々課税期間の不正事実に連動した次の事実に起因して当該課税期間に係る消費税額が増加するときであっても、その増加額には重加算税は課されません。

(1) 基準期間における課税売上高が1,000万円を超え、当該課税期間について課税事業者となることが判明した場合
(2) 基準期間の課税売上高が5,000万円を超え、簡易課税制度の適用を受けられないことが判明した場合

つまり、前々課税期間に隠ぺいや仮装などの不正事実があったために、その影響で当課税期間の納付税額が増えた場合は、その増えた税額に対しては重加算額は課されません。

 

まとめ

消費税・地方消費税に係る重加算税が課されるケースには、所得税や法人税に不正事実がある場合のほか、消費税固有の不正事実として、事務運営指針で以下のようなものが挙げられています。

イ 課税売上げを免税売上げに仮装する。
ロ 架空の免税売上げを計上し、同額の架空の課税仕入れを計上する。
ハ 不課税又は非課税仕入れを課税仕入れに仮装する。
ニ 非課税売上げを不課税売上げに仮装し、課税売上割合を引き上げる。
ホ 簡易課税制度の適用を受けている事業者が、資産の譲渡等の相手方、内容等を仮装し、高いみなし仕入率を適用する。

上記以外のケースでも、悪質なものについては重加算税が課せられる可能性があります。

なお、隠ぺいや仮装などの不正事実の影響で税額が増加した場合に重加算税の課税対象となるかどうかは、その原因事実が当課税期間であるかどうかにより異なります。

当課税期間の不正事実の影響で、当課税期間の納税額が増えた → 増加額に重加算税が課される
前々課税期間の不正事実の影響で、当課税期間の納税額が増えた → 増加額に重加算税は課されない

 

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