前回書いた記事では、食品と食品以外の資産があらかじめ一の資産を形成し、又は構成しているものであって、その一の資産に係る価額のみが提示されている「一体資産」を譲渡した場合の軽減税率の適用判定について解説しました。
今回は、食品と食品以外がセットで販売されていても「一体資産」とならず、「一括譲渡」となる場合の消費税の課税関係について解説します。
一体資産の要件
税務上、以下の要件を満たす資産のことを「一体資産」といいます。
上記2つの要件を満たす場合は「一体資産」に該当しますが、要件を満たさない場合は「一体資産の譲渡」ではなく、食品と食品以外の資産の「一括譲渡」に該当します。
一体資産に該当しない場合については、例えば、次のような場合が該当します。
顧客が組み合わせを選択できる場合
軽減税率が適用される飲食料品とそれ以外の標準税率が適用される商品を、例えば、上記イラストのように「テーブルの上の商品よりどり3品 300円」と価格を提示し、お客さんが自由に組み合わせを選ぶことができるようにして販売している場合は、一体資産の要件のうち「① 食品と食品以外の資産があらかじめ一の資産を形成し、又は構成している」を満たさないため、一体資産に該当しません。
内訳価格を表示している場合
上記イラストのように、セット価格15,000円(内訳:ワイン10,000円、チーズ5,000円)と表示するなど食品と食品以外の資産を組み合わせた一の詰め合わせ商品について、その詰め合わせ 商品の価格とともに、それを構成する個々の商品の内訳価格を提示している場合は、一体資産の要件のうち「② その一の資産に係る価格のみが提示されている」を満たさないため、一体資産に該当しません。
一括譲渡の場合、個々の商品ごとに適用税率を判定する
食品と食品以外の資産の譲渡が「一体資産」ではなく「一括譲渡」に該当する場合は、一体資産のように全体に軽減税率又は標準税率を適用するのではなく、個々の商品ごとに適用税率を判定します。
契約書や請求書、領収書などで個々の商品の対価の額が合理的に区分されているときは、その契約等における合理的な区分により軽減税率8%が適用される対価の額と標準税率10%が適用される対価の額を計算します。
なお、契約等により対価の額が合理的に区分されていないときは、これらの資産の譲渡の時におけるこれらの資産の価額の合計額のうちに、次のそれぞれの資産の価額の占める割合により区分することになります。
なお、令和5年(2023年)10月1日以後は、インボイス制度が導入されるため、適格請求書に合理的に区分した税率ごとの対価の額を記載する必要があります。
一括譲渡につき割引きや値下げを行った場合
軽減税率8%が適用される商品と標準税率10%が適用される商品を同時に販売した場合に、割引券やポイントの利用等により一括して値引きを行った場合のそれぞれの値引き後の対価の額は、それぞれの資産の値引き前の対価の額等により合理的に按分して計算する必要があります。
ただし、国税庁が公表している「消費税の軽減税率制度に関する取扱通達」15において、次のような記載があります。
(軽減対象資産の譲渡等とそれ以外の資産の譲渡等を一括して対象とする値引販売)
・・・(中略)・・・
なお、当該資産の譲渡等に際して顧客へ交付する領収書等の書類により適用税率ごとの値引額又は値引額控除後の対価の額が確認できるときは、当該資産の譲渡等に係る値引額又は値引額控除後の対価の額が、適用税率ごとに合理的に区分されているものに該当する。
つまり、お客さんに交付するレシートなどにおいて、どの商品の販売代金から値引きしたのかが明らかにされていれば、それが認められるということです。
販売する事業者にとっては、標準税率10%が適用される課税売上げが少なくなる方が納税額も少なくなり有利となるため、値引き額又は値引き後の対価の額が領収書等の書類により確認できるようにすることを要件に、標準税率の課税資産の譲渡等の対価の額から優先的に値引きをすることが認められています。
例えば、洗剤を330円、ニンジンを216円で販売し、お客さんが100円分の割引券を使った場合は、レシートで以下のように記載すれば、割引額100円が洗剤の販売価格から差し引かれたことが確認できるため、割引額をすべて標準税率10%課税売上げから控除する処理が認められます。
一括譲渡に係る売上げに係る対価の返還等
事業者が販売促進の目的で課税資産の販売数量や販売高等に応じて取引先に支払う販売奨励金等は、売上げに係る対価の返還等に該当します。
軽減税率8%が適用される商品と標準税率10%が適用される商品の一括譲渡に係る販売奨励金や販売促進費などの売上げに係る対価の返還等の金額は、その基礎となった課税資産の譲渡等により合理的に区分する必要があります。
ただし、軽減税率対象品目とそれ以外について別々に販売促進費の計算を行っている場合には、その計算によることができます。
まとめ
食品と食品以外の資産をセットで販売した場合であっても、次の要件を満たさない場合は「一体資産」には該当しません。
上記のいずれかの要件を満たさない場合は「一体資産の譲渡」ではなく、食品と食品以外の資産の「一括譲渡」に該当するため、個々の商品ごとに適用税率を判定する必要があります。