ウェブサイトやブログを運営している方は、アフィリエイトをやっている方が多いかと思います。
アフィリエイトサイトの中には、広告主の商品を自分で購入したり、口座開設やクレジットカードの申し込みにより報酬がもらえる「自己アフィリエイト」または「セルフバック」と呼ばれるプログラムを提供しているところもあります。
今回は、自己アフィリエイトセルフバック報酬に係る所得区分と消費税の取引分類について考えたいと思います。
自己アフィリエイト・セルフバックとは
自己アフィリエイト・セルフバックとは、アフィリエイトサイトを通して広告主の商品を自分で購入したり、口座開設やクレジットカードの申し込みにより成果報酬がもらえるシステムのことを言います。
中には、ウェブサイトやブログを運営していない場合でも自己アフィリエイト・セルフバックを利用できるものがあり、会社員や専業主婦、学生などでも報酬を得ることができます。
自己アフィリエイト・セルフバックは、大きく分けて、次の二つに分類することができます。
② 申し込むだけ、無料登録だけで報酬がもらえるもの
「① 購入代金の一部がキャッシュバックされるもの」の具体例としては、電化製品や化粧品の購入費用、動画サービスなどのサブスクリプション費用、ドメイン・サーバー費用など支払額の一部が報酬としてキャッシュバックされるものがあります。
「② 申し込むだけ、無料登録だけで報酬がもらえるもの」の具体例としては、クレジットカードやキャッシングサービスに申し込んだり、証券口座やFX口座の開設、保険や不動産投資の面談、資料請求、アプリやウェブサイトなどの無料会員登録をするだけで、一定の報酬がもらえるものがあります。
それでは、上記の2パターンについて、所得税の区分と消費税の取引分類をそれぞれ考えてみましょう。
所得税における所得区分の考え方
自己アフィリエイト・セルフバックに係る報酬の所得区分は、「一時所得」「事業所得」「雑所得」のいすれかに分類されます。
一時所得とは
一時所得とは、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の所得で、労務や役務の対価としての性質や資産の譲渡による対価としての性質を有しない一時の所得をいいます。
一時所得には、次のようなものがあります。
(1)懸賞や福引きの賞金品(業務に関して受けるものを除きます。)
(2)競馬や競輪の払戻金(営利を目的とする継続的行為から生じたものを除きます。)
(3)生命保険の一時金(業務に関して受けるものを除きます。)や損害保険の満期返戻金等
(4)法人から贈与された金品(業務に関して受けるもの、継続的に受けるものを除きます。)
(5)遺失物拾得者や埋蔵物発見者の受ける報労金等
自己アフィリエイト・セルフバックに係る報酬は、基本的に上記「(4)法人から贈与された金品」に該当します。
「一時所得」に該当する場合は、一時所得の課税所得金額は次のように計算します。
したがって、(収入額 - 経費)が50万円を超えていなければ一時所得の課税所得金額はゼロになるので、自己アフィリエイト・セルフバックに係る報酬については所得税はかかりません。なお、上記算式で計算した金額がマイナスの場合はゼロとして考えます。他の所得と損益通算することはできません。
もし50万円を超える場合(上記算式で計算した一時所得の課税所得金額がゼロでない場合)は、所得税については一時所得の課税所得金額が20万円以下であれば原則申告不要ですが、住民税については申告が必要です。
事業所得とは
「事業所得」とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業を営んでいる人のその事業から生ずる所得をいいます。
「事業」とは、自己の計算と危険において利益を得ることを目的として継続的に行う経済活動のことをいうと解されます。
また、事業が総合的な活動であることに着目して、本来の事業活動による収入のほかに、事業の遂行に付随して生ずる収入も、事業所得の総収入金額に含めることとされています。(国税不服審判所 平18.9.21、裁決事例集No.72)
したがって、自己アフィリエイト・セルフバックに係る報酬が、事業に関連して受けるものである場合は、事業所得として申告することになります。
雑所得とは
雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得および一時所得のいずれにも当たらない所得をいい、例えば、公的年金等、非営業用貸金の利子、副業に係る所得(原稿料やシェアリングエコノミーに係る所得など)が該当します。(国税庁 タックスアンサーNo.1500『雑所得』)
一時所得に該当する「法人から贈与された金品(業務に関して受けるもの、継続的に受けるものを除きます。)」は、「継続的に受けるものを除きます。」とされているため、自己アフィリエイト・セルフバックに係る報酬を、毎月など一定の間隔で継続的に得ている場合などは、一時所得に該当せず、雑所得として申告することになります。
消費税の取扱い
次は、消費税の取扱いについて見ていきたいと思います。
消費税の納税義務があるか
まず、消費税の納税義務があるかどうかについて考えます。
消費税は間接税なので、事業者は、商品やサービスを提供した際に本体価格とともに受け取った消費税を申告・納付する必要があります。
しかし、すべての事業者が消費税を申告・納付しないといけないわけではなく、事業規模が一定以下の小規模事業者については、消費税の納税義務が免除されています。
消費税の納税義務が免除されるかどうかは、数行ではとても語りきれないほど複雑な規定がありますが、大抵の場合は次のいずれにも該当しなければ、消費税の納税義務がない事業者(免税事業者)となります。
・前々年の課税売上高が1,000万円を超えている。
・前年1~6月中の課税売上高が1,000万円を超えている。
1年決算法人の場合
・前々事業年度の課税売上高が1,000万円を超えている。
・前事業年度上半期の課税売上高が1,000万円を超えている。
なお、「課税売上高」とは、次に解説する課税の対象の4要件を満たす取引に係る収入のことをいい、会社から受け取る給料やGoogleAdSense収入、YouTubeの広告収入は除かれます。
国内ASPのアフィリエイト収入や国内で行った物販収入などが1,000万円を超えている場合は消費税の納税義務がある事業者(課税事業者)となります。
他にも、規模の大きな事業を相続していたり、資本金1,000万円で設立された会社であったり、他の法人を吸収合併したという場合は特例で別の判定を行いますが、そうでなければ、上記のいずれにも該当しなければ消費税の納税義務がない免税事業者となります。
もし免税事業者である場合は、ここから先の消費税に関する記載部分は無視して頂いても構いません。
消費税の課税の対象の4要件
消費税は、次の4要件を満たす取引が課税の対象となります。
上記のいずれか一つでも満たさない収入は、消費税の課税の対象外とされ、申告は不要となります。
購入代金の一部がキャッシュバックされるもの
自己アフィリエイト・セルフバックに係る報酬のうち、購入代金の一部がキャッシュバックされるもの(電化製品や化粧品の購入費用、動画サービスなどのサブスクリプション費用、ドメイン・サーバー費用など支払額の一部が報酬としてキャッシュバックされるもの)について考えてみましょう。
成果発生の条件が「購入金額の1%」や「有料サブスクサービス3か月間の利用で××円」など、費用の支払いが条件となっているものはこれに該当します。
所得税の考え方
原則
アフィリエイトサイトを通じて、事業とはまったく無関係な電化製品や化粧品の購入費用、動画サービスなどのサブスクリプション費用、ドメイン・サーバー費用などの支払額の一部についてキャッシュバックを受け取った場合は、「法人から贈与された金品」として「一時所得」に該当します。
事業とは関係なく家事用で使う電化製品やプライベートで使用する化粧品、趣味で見るためのサブスク動画サービスの料金などで、報酬が継続的に得られるものでない場合は「一時所得」で処理します。
業務と関連する場合
アフィリエイトサイトを通じて、事業に関連する費用の支払額の一部についてキャッシュバックを受ける場合は、一時所得とされる「法人から贈与された金品(業務に関して受けるもの、継続的に受けるものを除きます。)」のカッコ書き「業務に関して受けるもの」として、一時所得の範囲から除かれ、「事業所得」又は「雑所得」に該当することになります。
例えば、ブロガーがブログを運営するために契約したサーバーやドメインの費用、アフィリエイト商品を紹介するために購入した商品、YouTuberが動画内で使用するための衣装などの消耗品、ITエンジニアがソフトウェア開発を行うために購入したパソコンなど、業務と関連するものに係る支払いについてキャッシュバックを受ける場合である場合は「事業所得」又は「雑所得」として処理します。
事業に関連する支出の一部のキャッシュバックなので、収入ではなく経費のマイナスとして処理しても構いません。
継続的な収入の場合
業務とは無関係で、趣味で購入する商品やサービスに係るキャッシュバック報酬でも、その収入が継続的に得られるものである場合は、一時所得とされる「法人から贈与された金品(業務に関して受けるもの、継続的に受けるものを除きます。)」のカッコ書き「継続的に受けるもの」として、一時所得の範囲から除かれ、「雑所得」に該当することになります。
例えば、サブスクサービスの月額利用料金のうち一定額が、そのサービスを継続している限り毎月キャッシュバックされるような場合など、一定の間隔で継続的にセルフバック報酬が得られる場合は「雑所得」として処理します。
消費税の考え方
消費税の取扱いのポイントは、上述の課税の対象の4要件を満たすかどうかです。
原則
課税の対象の4要件のうちの「② 事業者が事業として行うものであること」における「事業」とは、対価を得て行われる資産の譲渡等を繰り返し、継続、かつ、独立して行うことをいいます
したがって、事業とは関係なく趣味で購入した商品やサービスにかかるキャッシュバックについては、消費税の課税の対象の4要件の「② 事業者が事業として行うものであること」を満たさないため、課税対象外取引(不課税取引)となります。
業務と関連する場合
業務と関連する支出のキャッシュバックについては、課税仕入れに係る対価の一部の返還であるため、消費税法上「仕入れに係る対価の返還等」として処理します。
継続的な収入の場合
また、業務とは無関係であるものの、継続的にキャッシュバックを受けるものについては、何かこちらから商品やサービスの提供を行った対価として収受するものではないため、消費税の課税の対象の4要件の「③ 対価を得て行うものであること」を満たさないため、課税対象外取引(不課税取引)となります。
申し込むだけ、無料登録だけで報酬がもらえるもの
自己アフィリエイト・セルフバックに係る報酬のうち、申し込むだけ、無料登録だけで報酬がもらえるものについて考えてみましょう。
クレジットカードやキャッシングサービスに申し込んだり、証券口座やFX口座の開設、保険や不動産投資の面談、資料請求、アプリやウェブサイトなどの無料会員登録をするだけで、一定の報酬がもらえるものがこれに該当します。
所得税の考え方
原則
アフィリエイトサイトを通じて、業務とはまったく無関係な目的でクレジットカードや証券口座・FX口座の開設、ウェブサービス等の無料会員登録をしたことにより報酬を得た場合は、「法人から贈与された金品」として「一時所得」に該当します。
例えば、生活費の決済のために使用するクレジットカードの申し込みや個人的な資産運用目的の証券口座・FX口座開設、プライベートで使用するWeb サービスの無料会員登録をしたことによる自己アフィリエイト・セルフバック報酬は「一時所得」として処理します。
なお、FX口座や証券口座の開設に係る成果発生条件として「一定額以上の入金」や「一定以上の取引完了」などが付されていることがありますが、これは単に自己資金を移し変えただけに過ぎず、何かしらの資産の譲渡や役務の提供を行っているわけではないため、下記の「業務に関して受け取るもの」には該当しません。したがって、FX口座や証券口座の開設に係るセルフバック報酬も「一時所得」に該当します。
業務と関連する場合
アフィリエイトサイトを通じて、業務に関連する目的でクレジットカードや証券口座・FX口座の開設、ウェブサービス等の無料会員登録をしたことにより報酬を得た場合は、「法人から贈与された金品(業務に関して受けるもの、継続的に受けるものを除きます。)」のカッコ書き「業務に関して受けるもの」として、一時所得の範囲から除かれ、「事業所得」又は「雑所得」に該当することになります。
例えば、事業用資金の決済のために使用するクレジットカードの申し込みや事業用資金の借り入れを行うためのキャッシングサービスの申し込み、事業用資金を預け入れるためのネット預金口座の開設、事業活動を行う上で必要なウェブサービス等に係る無料会員登録をしたことによる自己アフィリエイト・セルフバック報酬は「事業所得」又は「雑所得」として処理します。
継続的な収入の場合
業務とは無関係で、プライベートで使用するウェブサービスの無料会員登録などのセルフバック報酬でも、その収入が継続的に得られるものである場合は、一時所得とされる「法人から贈与された金品(業務に関して受けるもの、継続的に受けるものを除きます。)」のカッコ書き「継続的に受けるもの」として、一時所得の範囲から除かれ、「雑所得」に該当することになります。
例えば、無料会員が、そのサービスを継続して一定規模以上利用している限り毎月報酬をもらえるような場合など、一定の間隔で継続的にセルフバック報酬が得られる場合は「雑所得」として処理します。
消費税の考え方
自己アフィリエイト・セルフバックに係る報酬のうち、申し込むだけで報酬がもらえるものは、何かしらの資産の譲渡や役務の提供を行った対価として受け取るものではありません。
したがって、消費税の課税の対象の4要件のうち「③ 対価を得て行うものであること」を満たさないため、課税対象外取引(不課税取引)となります。
また、無料の申し込みや会員登録等に係るものであるため、仕入れに係る対価の返還等にも該当しません。
実質的に広告宣伝の対価である場合
ここまで、自己アフィリエイト・セルフバックに係る報酬について、「購入代金の一部がキャッシュバックされるもの」「申し込むだけ、無料登録だけで報酬がもらえるもの」に分けて解説してきましたが、セルフバックに係る成果発生条件によっては、これらのいずれにも該当せず、実質的に広告宣伝の対価であると判断される場合もあります。
例えば、ある商品やサービスについて友人を紹介することによりセルフバック報酬がもらえるという内容になっている場合は、名目的には「セルフバック」となっていても、実質的にはその商品やサービスを友人に紹介するという役務の提供の対価としての性質を持っている場合もあります。
このように、実質的に広告宣伝などの役務の提供の対価であると認められる場合は、当該セルフバック報酬は「事業所得」又は「雑所得」で処理し、消費税の取引区分は「課税売上げ」となります。
まとめ
アフィリエイトサイトから受け取る自己アフィリエイト・セルフバックにかかる報酬についての所得税及び消費税の取扱いは、それぞれ以下の表のようになります。
セルフバック報酬の内容 | 所得区分 | 消費税の取扱い | |
購入代金の一部がキャッシュバックされるもの | 原則 | 一時所得 | 不課税取引 |
業務に関して受けるもの | 事業所得 or 雑所得 | 仕入返還等 | |
継続的に受けるもの | 雑所得 | 不課税取引 | |
申し込むだけ、無料登録だけでもらえるもの | 原則 | 一時所得 | 不課税取引 |
業務に関して受けるもの | 事業所得 or 雑所得 | 不課税取引 | |
継続的に受けるもの | 雑所得 | 不課税取引 | |
実質的に広告宣伝などの役務の提供の対価であるもの | 事業所得 or 雑所得 | 課税売上げ |
セルフバックに係る成果発生条件の内容によっては、必ずしも上記の考え方に当てはまらない場合もあります。
所得区分や消費税の取り扱いが不明な場合は、アフィリエイトサイト運営業者や最寄りの税務署に相談するようにしましょう。