「人件費」と一言で言っても、その内容には様々な性質のものがあり、消費税が課税されるものと 課税されないものとがあります。
従業員に支払う給料や賞与などは、基本的に消費税は不課税となりますが、通勤手当など一部消費税が課税されるものもあるため、どれが課税仕入れになるのか分かりにくいところだと思います。
そこで今回は、給料や賞与などの人件費に関連する消費税の取扱いについてまとめました。
課税の対象の4要件
消費税は、次の4要件を満たす取引が課税の対象となります。
従業員などに支払う給料は、上記の課税の対象の4要件のうち「② 事業者が事業として行うものであること」の要件を満たさないことになるため、原則として、消費税の課税対象外取引(不課税取引)となります。(この点については、詳しくは次の記事で解説しています。)
ただし、通勤手当のように事業者の業務上の必要に基づく支出の実費弁償として支払われるものは、上記の課税の対象の4要件のうち「② 事業者が事業として行うものであること」の要件をみたすため、課税の対象となります。
これを踏まえて、従業員や役員に支払う人件費についての消費税の取り扱いを見てみましょう。
なお、「従業員」とは、正社員、契約社員、パートタイマー、アルバイトなどの雇用契約に基づいて働いている人をいいます。「役員」は会社法上の役員で、取締役や監査役、会計参与などが該当します。
給料(基本給、固定給)・役員報酬
従業員に支払う給料(基本給・固定給)や役員に支払う役員報酬は、課税の対象の4要件のうち「② 事業者が事業として行うものであること」の要件を満たさないため不課税仕入れとなります。
なお、「給与」か「外注費」かの違いについては、次の記事をご覧ください。
従業員賞与・役員賞与
従業員に定期給とは別に支払われる従業員賞与や役員賞与についても、給料と同様の理由で不課税仕入れとなります。
通勤手当
従業員や役員に支払う通勤手当のうち通常必要と認められる範囲内のものはその全額が課税仕入れとなります。
定期券等を現物支給している場合は、その定期券等については課税仕入れとなります。
通勤のために通常必要と認められる範囲内のものであれば、所得税法上非課税とされる金額を超えている場合であってもその全額が課税仕入れとなります。
「通常必要と認められる範囲」が具体的にどのような範囲をいうのかは、詳しくは次の記事をご覧ください。
なお、電車・バスなどの交通機関やマイカー・自転車などの交通用具を使用して通勤する通勤者に対して支払う通勤手当は課税仕入れとなりますが、徒歩通勤者に対して支払う通勤手当は課税仕入れにならない(不課税仕入れ)ため注意しましょう。この理由については、詳しくは 次の記事で解説しています。
新型コロナウイルスの影響等により在宅勤務をしている従業員に支払った通勤手当についての見解は、次の記事をご覧ください。
住居手当(住宅手当)
住居手当については、事業者の事業遂行上直接必要なものとはいえず、その所得の種類も給与等に該当することから、不課税仕入れとなります。
役職手当
役職手当(部長や課長など役職に応じて支給される手当)についても、給料と性質は変わらないため不課税仕入れとなります。
扶養手当
扶養手当(扶養家族の人数に応じて支給される手当)についても、給料と性質は変わらないため不課税仕入れとなります。
皆勤手当・精勤手当
欠席や遅刻をしなかった(又は少なかった)従業員に対して支給される皆勤手当や精勤手当についても、給料と性質は変わらないため不課税仕入れとなります。
時間外手当(残業手当)
定時を超えて勤務した従業員に支払われる時間外手当・残業手当(いわゆる残業代)についても、給料と性質は変わらないため不課税仕入れとなります。
資格手当・技能手当
資格や技能を持っている従業員に支払われる資格手当や技能手当についても、給料と性質は変わらないため不課税仕入れとなります。
ただし、資格を取得するための費用(受験料やテキスト、資格学校の授業料)を会社が負担している場合に、会社宛の領収書が発行されている場合は、その資格取得の為の費用が事業者の事業遂行上直接必要なものであれば課税仕入れとなります。
食事手当
食事代の補助として支払われる食事手当については、給料に上乗せして支給し、会社宛ての領収書などで実費精算していない場合は、給料と性質は変わらないため不課税仕入れとなります。
ただし、残業や宿日直時の食事を現物支給している場合は課税仕入れとなります。この場合の税率は、持ち帰りなら8%、店内飲食なら10%となります。なお、従業員に支給する食事について本当は持ち帰るのに店内飲食と伝えて購入し、消費税10%で仕入税額控除の適用を受ける行為は「テイクアウト脱税」という行為になりますので注意しましょう。この点については 詳しくは 次の記事で解説しています。
出張日当・出張手当
従業員や役員の国内出張に伴って支出した出張日当・出張手当は、通常必要と認められる部分の金額であれば課税仕入れに該当します。
国外出張に係る日当については、課税の対象の4要件のうち「① 国内において行うものであること」の要件を満たさないため、不課税仕入れとなります。
また、日当を課税仕入れにするためには、「出張旅費規程」を作成しておく必要があります。
この点については、詳しくは次の記事をご覧ください。
また、日当が飲食料品の購入に充てれる場合であっても、領収書等で精算を行っていない場合は軽減税率の適用対象とならないことに注意しましょう。
単身赴任手当
従業員等のうち単身手当をしている者に対して支払う単身赴任手当については、以下のような場合が考えられますが、いずれも不課税仕入れとなります。
(2) 単身赴任者が、帰宅するための旅費として月又は年を単位として支給する場合
⑴について
単身赴任手当は、家族と離れて生活することに伴い、そうでない勤務者に比し生活費等の負担が大きくなることに配意して、当該単身赴任者に対する給与等の補填として支給されるものと考えられ、所得税においても非課税所得に該当せず、給与所得として支払者においてこれに対する所得税額を源泉徴収すべきものとされています。
したがって、当該事業者における単身赴任手当の支払は、給与等を対価とする役務の提供に対する支払であることから消費税の課税仕入れに係る支払対価には該当しません。
⑵について
単身赴任者に支給される旅費は、職務の遂行に必要な旅行の費用として支給されるものとは認められず、また、その旅費は給与に該当するものであることからすると、(1)の単身赴任手当と同様の性格のものと考えられますから、これを支払う事業者においては課税仕入れに係る支払対価に該当しません。
上記以外の手当
傷病手当やペット手当など上記以外の手当については、基本的にその性質は給料と変わりないため不課税仕入れになります。
ただし、事業者の事業遂行上直接必要なものの実費弁償であると認められる場合は課税仕入れに該当することもあり得るため、ケースバイケースで判断しましょう。
フリーランス等に支払う業務委託料
会社の外部のフリーランス等に業務を委託し、業務委託料を支払う場合は、雇用契約に基づいて支払われるものではないため給料とはならず、役務の提供の対価として課税仕入れとなります。
原稿料や講演料などの謝礼金
原稿料や講演料などの謝礼金についても、上記のフリーランスの業務委託料と同様に、雇用契約に基づいて支払われるものではないため課税仕入れとなります。
報償金
従業員が業務上有益な発明、考案等をした場合に償金、表彰金、賞金等の金銭のうち次に掲げる金銭を支給した場合は、課税仕入れとなります。
(1) 業務上有益な発明、考案又は創作をした使用人等から当該発明、考案又は創作に係る特許を受ける権利、実用新案登録を受ける権利若しくは意匠登録を受ける権利又は特許権、実用新案権若しくは意匠権を承継したことにより支給するもの
(2) 特許権、実用新案権又は意匠権を取得した使用人等にこれらの権利に係る実施権の対価として支給するもの
(3) 事務若しくは作業の合理化、製品の品質改良又は経費の節約等に寄与する工夫、考案等(特許又は実用新案登録若しくは意匠登録を受けるに至らないものに限り、その工夫、考案等がその者の通常の職務の範囲内の行為である場合を除く。)をした使用人等に支給するもの
使用人等の発明等に係る報償金等の支給に係る消費税の取り扱いについては、詳しくは 次の記事で解説しています。
なお、例えば、社会的栄誉を称えるための報償金など、上記に該当しない報償金については、給料と性質が変わらないため不課税仕入れとなります。
転勤支度金
人事異動により転居が必要となった従業員に対して、転居に伴う出費相当額を転勤支度金として支給する場合は、通常必要であると認められる部分の金額は課税仕入れとなります。
赴任支度金
就職が決まった従業員がその就職に伴う転居のために支出した出費相当額を赴任支度金として支給する場合も同様に、通常必要であると認められる部分の金額は課税仕入れとなります。
事業専従者給与
事業専従者給与についても、課税の対象の4要件のうち「② 事業者が事業として行うものであること」の要件を満たさないため不課税仕入れとなります。
役員に対して役員報酬等とは別に資産を贈与した場合
役員に対して、役員報酬や役員賞与などの給与とは別に資産を贈与(無償で譲渡)した場合は、「みなし譲渡」に該当するため、棚卸資産以外の資産の場合はその資産の譲渡時の価額(時価)、棚卸資産の場合は仕入価額または通常の販売価額×50%のいずれか大きい方を課税売上げとして計上しなければなりません。
なお、みなし譲渡の適用対象となる「役員」には、取締役や監査役、会計参与などの会社法上の役員だけでなく、会社の経営に従事している相談役などの法人税法上の「みなし役員」も含まれることに注意しましょう。この点については、詳しくは次の記事で解説しています。
なお、従業員に資産を贈与した場合や資産を無償で貸し付けた場合は「みなし譲渡」の規定の適用はありません。
現物支給
役員や従業員に対して、金銭による給与の支払いに代えて、金銭以外の資産を給付する場合は、その取得が事業としての資産の譲受けであるときは、その資産の取得は課税仕入れとなります。
その資産の取得が課税仕入れになるかどうかは、その給付が使用人等の給与として所得税の課税の対象とされるかどうかは関係ないことに注意しましょう。
なお、役員に対して現物支給を行う場合、その資産の支給については、株主総会で現物支給することについての決議がある場合は、給料の支払いとして不課税取引となりますが、株主総会の決議がない場合は代物弁済が行われる たものと考えるため、その資産の時価を課税売上げとして計上しなければならないことに注意しましょう。
この点については、詳しくは 次の記事で解説しています。
退職金
退職金については、給料と性質は変わらないため不課税仕入れとなります。
慶弔費
従業員や役員に対して支払う結婚祝い金や香典、見舞金などの慶弔費は、商品の引渡しやサービスの提供の対価として支払うものではないため、課税の対象の4要件のうち「③ 対価を得て行うものであること」の要件を満たさないため、不課税仕入れとなります。
法定福利費
事業者負担の社会保険料などの法定福利費は、保険料を対価とする役務の提供に係る支払額なので非課税仕入れとなります。
健康診断費用等
健康診断やインフルエンザの予防接種の費用を会社が負担した場合は、社会保険診療に該当しないため 非課税取引にはならず、課税仕入れとなります。
健康診断費用や予防接種に関する取扱いについては、次の記事でも詳しく解説しています。
人材派遣料
人材派遣契約に基づいて人材派遣会社の派遣労働者の派遣を受けた場合に人材派遣会社に支払う人材派遣料は、課税仕入れとなります。
これは、派遣労働者に対する給料ではなく、人材派遣会社に対して支払う人材派遣に係る役務の提供の対価として支払うものだからです。
産業医の報酬
医療法人から産業医の派遣を受け、その医療法人に委託料を支払った場合は、健康保険法等に基づく資産の譲渡等には該当せず、医療法人のその他の医業収入となるものであるため、その委託料は課税仕入れとなります。
ただし、個人の開業医に産業医としての報酬を支払った場合は、原則として給与収入となるため、その報酬は不課税仕入れとなります。
この点について詳しくは、次の記事をご覧ください。
出向社員の給与負担金
従業員を子会社や関連会社に出向させる場合に出向者に対する給与を負担した場合(給与負担金を支払った場合)は、給与負担金の支払いは出向者に対して給料を支給したものとして取り扱うため、不課税仕入れとなります。
なお、出向者に対する給与の負担方法には次のようなものがありますが、いずれの方法であっても、出向者に対して給与負担ものとして取り扱うため不課税取引となります。
(2) 出向先が給料の全額を支払い、その一部を出向元に請求する方法
(3) 出向元と出向先がそれぞれ給料の一部を支払う方法
なお、給与負担金のうち出張旅費や通勤手当として給料とは区別して支出した部分の金額については、通常必要と認められる範囲内であれば課税仕入れに該当します。
なお、他社から受け入れた人材と当社の間に雇用契約がない場合は「出向」ではなく「人材派遣」に該当し、消費税の取扱いは異なります。
この点については、詳しくは次の記事をご覧ください。
外交員等の報酬
外交員、集金人、電力量計等の検針人その他これらに類する者に対して支払う報酬又は料金のうち、給与所得となる金額については、不課税仕入れとなります。
採用面接時の交通費
採用面接を受けに来た就職希望者に対して支払う交通費については、通勤手当の考え方と同様に、事業者の事業遂行上直接必要なものの実費弁償としての性質を有するため、通常必要と認められる範囲内の金額であれば課税仕入れに該当します。
社員持株会に対する奨励金
持株会とは、会社の従業員が当該会社の株式の取得を目的として毎月一定金額を給与天引きの形で拠出していく制度であり、社員の福利厚生の一環として多くの企業で採用されています。
社員持株会に対して支出する奨励金は給与としての性格を有するため、不課税仕入れとなります。
企業内共済会に対する補助金
企業内共済会とは、企業に属している役員や従業員等の福利厚生を充実させるための団体です。
企業内共済会に対して支出する奨励金は給与としての性格を有するため、不課税仕入れとなります。