通勤手当のうち実費相当額が所得税の非課税限度額を下回る場合の課税仕入れの額

この記事の内容は、2025年1月現在の最新の税制に対応しています。

従業員等に支払う通勤手当のうち、通常必要と認められる部分の金額については、所得税法上の非課税限度額の範囲内であるかにかかわらず、全額課税仕入れに該当することとされています。

しかし、通勤のためにかかった実費のうち、課税仕入れに該当しない部分が含まれている場合はどうなるでしょうか?

この点について、国税不服審判所平成30年7月9日裁決(TAINS:F0-5-242)において興味深い判断が示されたためご紹介したいと思います。

 

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課税仕入れとなる通勤手当の金額はいくら?

国税不服審判所平成30年7月9日裁決(TAINS:F0-5-242)に係る事例の要点をものすごく端折って説明します。

ある会社が、自動車で通勤している従業員に対し、所得税における非課税限度額を超える金額の通勤手当を支給していました。(非課税限度額を超える部分についてはちゃんと給与所得として源泉徴収をしています。)

しかし、その従業員に通勤手当として支払った金額には、ガソリン代等の課税仕入れに係る実費のほか、自動車税や保険料、車検費用などの課税仕入れでない費用も含まれていました。

ガソリン代等の課税仕入れに係る実費は所得税の非課税限度額の範囲内ですが、自動車税や保険料、車検費用などの課税仕入れでない費用も足すと所得税の非課税限度額を超えます。

さて、ここでクイズですが、上記のケースで、課税仕入れとして認められた金額は次の①~③のどれでしょう?

① 自動車税や保険料、車検費用なども含めた全額
② 所得税の非課税限度額の金額
③ ガソリン代等の課税仕入れに係る実費

課税仕入れとなる通勤手当の選択肢グラフ

 

 

この問題の正解は、「② 所得税の非課税限度額の金額」でした!

「え?これは消費税の話なのに、所得税の非課税限度額が課税仕入れになるの?」と思った方もいるのではないでしょうか?

なぜそのような判断になったのか、詳しく解説していきたいと思います。

 

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「通常必要と認められる範囲内」であれば、原則として課税仕入れとなる

消費税法上の通勤手当の取扱いについては、国税庁の消費税法基本通達11-2-2で次のように記載されています。

(通勤手当)
事業者が使用人等で通勤者である者に支給する通勤手当(定期券等の支給など現物による支給を含む。)のうち、当該通勤者がその通勤に必要な交通機関の利用又は交通用具の使用のために支出する費用に充てるものとした場合に、その通勤に通常必要であると認められる部分の金額は、課税仕入れに係る支払対価に該当するものとして取り扱う。

このように、「通常必要と認められる部分の金額」と記載されているだけで具体的な金額は書かれていません。

なお、国税庁の質疑応答事例の回答要旨には、次のように記載されています。

【回答要旨】
1 事業者が使用人等に支給する通勤手当(通勤定期等の現物による支給を含む。)のうち通勤のために通常必要とする範囲内のものは、所得税法上非課税とされる金額を超えている場合であっても、その全額が課税仕入れに該当するものとして取り扱います(基通11-2-2)。

・・・(後略)

したがって、通勤手当が課税仕入れに該当するかどうかは、所得税法上の非課税限度額の範囲内であるかどうかにかかわらず、「通勤のために通常必要とする範囲内」の金額かどうかで判断することとなります。

この点については、次の記事でも詳しく解説しています。

 

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自動車税や保険料、車検費用などは「通常必要とする範囲内」に含まれない

国税不服審判所平成30年7月9日裁決事例では、自動車税や保険料、車検費用などの課税仕入れに該当しない費用について、次のとおり「通常必要額に含まれない」と判断しました。

自動車を通勤に使用する者にとっての通勤通常必要額は、事業者の業務上の必要性に基づく支出の実費弁償として支出されるものであることからすると、当該通勤者の通勤に係る時間、距離等の事情に照らし最も経済的かつ合理的と認められる通勤の経路によった場合に、その者が負担することとなるその通勤に使用する交通用具の燃料代及び通行料等の額をいうものと解される。

本件通勤定期相当額は、請求人が自動車通勤者に対して通勤手当として支給したものであるところ、本件通勤定期相当額のうち本件各課税期間の課税仕入額に算入されるのは、本件自動車通勤者の通勤通常必要額である。

そして、本件自動車通勤者のうち通行料等を支払って通勤する経路の者はいなかった[3]ことからすると、上記(1)の解釈によれば、本件自動車通勤者の通勤通常必要額は、当該通勤者が負担することとなる本件各自動車のガソリン代のみとなり、本件各自動車の取得、維持又は管理に係る費用である自動車リース料等、自動車税、任意保険料及び車検費用は通勤必要額に含まれないといえる。

国税不服審判所平成30年7月9日裁決(TAINS:F0-5-242)

 

実費が非課税限度額を下回る場合でも、非課税限度額までが課税仕入れとして認められる

自動車税や保険料、車検費用などが「通常必要額」に含まれないのであれば、「通常必要額」であるガソリン代等の実費部分(上述のクイズの選択肢③)のみが課税仕入れとされるはずなのではないでしょうか?

しかしながら、国税不服審判所は、ガソリン代等の実費部分が所得税の非課税限度額を上回った場合は、その実費相当額の課税仕入れを認めることとし、一方で、実費が所得税の非課税限度額を下回った場合であっても、当該非課税限度額の金額まで課税仕入れとして認めるという判断を示しました。

これは、通勤手当の所得税上の非課税限度額が最も経済的かつ合理的な経路及び方法によった場合の概算額として国税庁がお墨付きを与えているものであることを踏まえ、たとえ実費が非課税限度額を下回っていたとしても、当該非課税限度額の金額であれば「通勤のために通常必要とする範囲内」であるとして課税仕入れとして処理することを認めるという判断だと思われます。

 

まとめ

従業員等に支払う通勤手当のうち、実費相当額(自動車通勤者に支払うガソリン代等)が所得税法上の非課税限度額を下回る場合であっても、当該非課税限度額の金額が課税仕入れとして認められることになります。

 

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