日本で金地金を購入する場合は消費税がかかりますが、香港などの一部の国では税制上、金地金を購入してもその国の消費税が課されません。
この税制の違いを利用して、金地金を密輸することによって消費税相当額分を丸儲けし、永久機関のように国税を搾取し続ける「闇の錬金術」が存在するのをご存知でしょうか?
今回は、近年大きな問題となっている金地金の密輸について解説したいと思います。
金地金の密輸は消費税法、地方税法、関税法違反の脱税行為なので絶対にやってはいけません。
金地金とは
金地金とは、金を貯蔵しやすいような形に固めたもので、要するに金塊です。
「インゴット」や「バー」と言われることもあります。
闇の錬金術の手口
金の購入に消費税がかからない香港を例にとって手口を解説します。
錬の闇金術には、香港の金買取業者、密輸業者、日本の金買取業者の3人の人物が登場します。
なお、彼らは全員グルです。
香港で金を購入・売却する場合は消費税がかかりませんが、日本で金を購入・売却すると消費税がかかります。
この税制の違いを利用した闇の錬金術は、次の5段階の手口で行われます。
上記手口をイラストにまとめると、次のようになります。
香港の金買取業者は1億円で金を売ったあと1億円で金を輸入しているので利益は0円です。
密輸業者は香港で1億円で買った金を日本で1億800万円で売却するため、800万円が利益となります。なお、密輸をするような人なので当然確定申告なんてしません。
日本の金買取業者は、密輸業者からの金の買取額1億800万円が課税仕入れとなります。この金を香港の金買取業者に1億円で輸出した場合、輸出免税売上げ1億円から課税仕入れ1億800万円を控除した差額の800万円を税務署から還付を受けるため、差引利益は0円となります。
したがって、密輸グループ全体の利益は800万円になるため、これをみんなで山分けします。
この手口を何度も繰り返すことによって、同じ金塊が日本と香港を行ったり来たりするだけで永久機関のように消費税相当額分の利益を出すことができるため、まさに「闇の錬金術」といえます。
密輸の罰則
繰り返しになりますが、このような金の密輸は犯罪です。
金の密輸を行った場合、以下のような罰則があります。
次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。ただし、当該犯罪に係る貨物の価格の五倍が千万円を超えるときは、罰金は、当該価格の五倍以下とする。
一 第六十七条(輸出又は輸入の許可)(第七十五条(外国貨物の積戻し)において準用する場合を含む。次号及び次項において同じ。)の許可を受けるべき貨物について当該許可を受けないで当該貨物を輸出(本邦から外国に向けて行う外国貨物(仮に陸揚げされた貨物を除く。)の積戻しを含む。次号及び次項において同じ。)し、又は輸入した者
なお、金の取引価額が20万円以下の場合は、免税範囲内の金額なので、輸入時に消費税は課されません。
ただし、免税範囲内の金額であるかどうかにかかわらず、申告せずに輸入携帯をした場合は処罰を受けることになります。
平成31年4月1日以後はこの手口は使えない
平成31年度の税制改正により、平成31年4月1日以後は、金密輸と知りながら行った課税仕入れについては、仕入税額控除の適用を受けることができなくなります。
また、令和元年10月1日以後の金又は白金の課税仕入れについては、本人確認書類の写しの保存がないと仕入税額控除を受けることができなくなります。
仕入税額控除の適用を受けるための要件についてはについては、以下の記事をご覧ください。
この改正により、この手口を使っても利益を出すことができなくなりました。
また、本人確認書類の提出が必要になり金密輸業者は身元がバレてしまうため、密輸した金を販売することができなくなります。
改正後の取引をイラストにまとめると、次のようになります。
日本の金買取業者と密輸業者はグルなので、密輸された金であると知っていることになります。
密輸された金であると知りながら購入した場合は、仕入税額控除を受けることができません。
密輸業者が800万円の利益でも、日本の金買取業者が800万円の損失となるため、グループ全体で利益はプラスマイナスゼロとなります。
したがって、今後は利益を出すことができなくなるため、「闇の錬金術」は意味がなくなってしまいます。
何度も言いますが金の密輸は犯罪なので、絶対にやってはいけません。
この手口で得られた利益は暴力団関係者の資金源になっているといわれているため、改正により日本の治安が良くなることを願います。
なお、似たような手口として、国外で購入した腕時計等を密輸して不正に申告する方法があります。詳しくは下記の記事をご覧ください。