令和元年度税制改正により密輸品と知りながら行った課税仕入れについては仕入税額控除が認められないこととなりました。
また、事業者が金地金を購入する場合は、その課税仕入れの相手方の本人確認書類を保存しない場合には仕入税額控除の適用を受けることができなくなりました。
今回は、金又は白金の地金の課税仕入れを行った場合の仕入税額控除の適用要件である「本人確認書類の保存」について解説したいと思います。
密輸品と知りながら行った課税仕入れに係る仕入税額控除は認められない
以前書いた記事「消費税の制度を悪用した金地金の密輸による「闇の錬金術」とは 」で解説したように、香港などの金地金について消費税がかからない国で購入した金地金を日本国内に密輸し、不正に消費税の還付を受ける手口が横行したため、密輸品であることを知りながら金地金の課税仕入れを行った場合には、仕入税額控除が認めないこととされました。
この規定は、平成31年4月1日以後に行う 課税仕入れから適用されます。
密輸品であることを課税仕入れの時点で知っていたという事実は、例えば、密輸者と買い取り業者とのやり取りの履歴等の明白な事実により認定することが想定されます。
また、そのような明白な事実がない場合であっても、買い受けた資産の計上、数量、頻度等の情報を総合的に勘案して認定されることになります。
なお、課税貨物である金地金保税地域から引き取る際に納付すべき消費税の滞納があった場合や単なる計算誤り等による過少申告や延滞税等の付帯税の不納付などがあった場合については「密輸」とまでは言えないため、そのような場合にまで仕入税額控除が認められないというわけではありません。
また、関税法等の規定により、納税が免除されるものや 納付が一時的に猶予されるものについては、そもそも納付すべき 消費税が発生していない又は納付期限が法令の規定に基づいて延長されているものであるため、「密輸」には該当せずこの規定が適用されることはありません。
金又は白金の地金の課税仕入れを行った場合は本人確認書類の保存が必要
事業者が「金又は白金の地金」の課税仕入れを行った場合において、その課税仕入れの相手方の本人確認書類を保存しない場合には、その課税仕入れに係る消費税額について仕入税額控除の敵を受けることはできないこととされました。
ただし、災害により保存できなかったなどやむを得ない事情がある場合は除きます。
この規定は令和元年10月1日以後に行われる課税仕入れから適用されます。
保存する本人確認書類の範囲
保存する本人確認書類は、以下の書類が対象となります。
課税仕入れの相手方が個人の場合
※ 個人番号が記載された 裏面の写しを保存することはできません
※ 個人番号が記載されていないもの
⑤ 国民年金手帳等の写し
⑥ 運転免許証又は運転経歴証明書の写し
⑦ 旅券(パスポート)の写し
⑧ 在留カード又は特別永住者証明書の写し
⑨ 国税・地方税の領収証書、納税証明書、社会保険料の領収証書又はこれらの写し
⑩ ①から⑨までの書類以外で、官公署から発行された若しくは発給された書類その他これらに類するもの又はこれらの写し
課税仕入れの相手方が法人の場合
注意点①
マイナンバーカード(個人番号カード)、運転免許証、旅券(パスポート)、在留カード、特別永住者証明書については「課税仕入れの日に有効なもの」が対象となります。
注意点②
住民票の写し、住民票の記載事項証明書、戸籍の附票の写し、印鑑証明書、登記事項証明書、国税・地方税の領収証書、納税証明書、社会保険料の領収証書については「課税仕入れの日前 1年以内に作成されたもの」が対象となります。
注意点③
「官公署から発行された若しくは発給された書類」については、「課税仕入れの日前 1年以内に作成されたもの(有効期間又は有効期限のあるものにあっては、課税仕入れの日において有効なもの)」対象となります。
注意点④
課税仕入れが媒介、取次ぎ又は代理を行う者を介して行われる場合には、当該課税仕入れの相手方の本人確認書類に加え、当該媒介等をしたものの本人確認書類の保存が必要となります。
なお、媒介等を行うものを介して行われる課税仕入れが、商品先物取引法第2条第10項に規定する「商品市場における取引」により行われる場合には、媒介等をしたものの本人確認書類のみを保存すればよいこととなります。
注意点⑤
令和3年度税制改正により、金又は白金の課税仕入れに係る仕入税額控除の要件として保存することとされている消費税法上の本人確認書類のうち、在留カードの写し並びに国内に住所を有しない者の旅券の写し及びその他これらに類する書類をその対象から除外することとされました。
この改正は、令和3年10月1日以後に国内において事業者が行う課税仕入れについて適用されます。
本人確認書類の電磁的記録による保存方法
保存する課税仕入れの相手方の本人確認書ついては、紙により保存する方法のほか、電磁的記録により提供を受けて保存する方法も認められています。
例えば、旅券(パスポート)に組み込まれたICチップを専用のリーダーで読み込んだデータや、運転免許証などの画像データの提供を受けるような場合が該当します。
この場合は、電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則第8条第1項各号に掲げるいずれかの措置を行って、同項の要件に準じた方法により保存しなければなりません。
具体的には、次の⑴の措置を行い、⑵から⑷までの要件を満たして保存する必要があります。
なお、提供を受けた電磁的記録を紙に印刷して保存することもできます。この場合は整然とした形式および 明瞭な状態で出力し、紙で受領した場合と同様に保存する必要があります。
また、紙で受領した本人確認書類をスキャン文書により保存(スキャナ保存)することもできます。その場合は、請求書等をスキャン文書で保存する場合と同様の手続きが必要となります。