皆さんは路上で楽器などを演奏して、いわゆる「投げ銭」をもらったことはありますか?
僕は一回だけもらったことがあります。
自分でも何でもらえたのかわからないのですが、気前のいいおじさんに100円もらったことがあります。
僕は音楽がとても大好きで、大学時代などはバンドでギターやドラムなどの楽器を演奏したり、自分で作曲をしたりもしていました。
ちなみに、「消費税法 無敵の一問一答」などの各アプリに収録されているBGMはすべて僕自身が作曲した曲です。
基本的に音楽編集ソフト内蔵の音源を使って作曲していますが、一部音源は自分で演奏しています。
各アプリの「無敵モード」で正解数が0~4問だったときに流れるアコースティックギターのBGM↓は僕自身が演奏しています。
このように、僕は大の音楽好きなので、空いている時間はよく楽器を触っていました。
大学時代はアパートで一人暮らしをしており、夜中などは部屋で演奏していると近所迷惑になってしまうため、近所の広い公園にギターを持って行って練習するようにしていました。
その公園は近隣住民の通路にもなっているため、通りかかった人が話しかけてくれることならたまにありましたが、そもそも練習で弾いているためお金をもらうつもりは毛頭ありませんでした。
そんなある日、いつも通り夜中に公園でギターを弾いていたら、50代くらいのおじさんが向かいのベンチに座って、わりと長いこと僕の演奏を聴いていました。
ちなみに練習していた曲は、カナダのAndy MacKeeというギタリストの曲↓です。
練習で弾いていた曲がちょうど終わったキリのいいところで、そのおじさんはこちらにやってきて「お金入れるとこある?」と聞いてきました。
「そんな、悪いです!」と言ったのですが「飲み物でも買うときの足しにしてくれ」と言って100円を手渡してくれました。
正直、上記の動画の人と比べたらかなり下手くそで、そもそも人に聴いてもらうつもりではなく練習でやっていたため、まさか投げ銭がもらえるとは思ってもみなかったのですが、素直に嬉しかったです。
そのおじさんはお金を手渡してすぐ無言で去っていき、しばらくあっけにとられた後「ありがとうございます!」と叫んだら、こちらを振り返ることもなく片手だけ挙げて、そのまま夜道に消えていきました。
路上ライブだと思ってお金をくれたのか、夜中に練習している若造を労うためにお小遣いをくれたのかはわかりませんが、そのおじさんの心意気は最高にイケメンだったということだけは確かです。
さて、前置きが長くなりましたが、今回は、ミュージシャンが路上ライブで得た投げ銭は消費税の課税対象になるかどうかについて解説したいと思います。
消費税の課税の対象の4要件
消費税は、次の4要件を満たす取引が課税の対象となります。
ミュージシャンの路上ライブによる「投げ銭」の収入が消費税の課税対象となるかどうか、上記の4要件をひとつずつ見ながら考えてみましょう。
① 国内において行うものであること
消費税は日本の税金であるため、日本国内で行われた商品の販売やサービスの提供について課税されます。
したがって、日本国内で路上ライブを行っている場合は、消費税の課税の対象の4要件のうち「① 国内において行うものであること」の要件を満たすことになります。
なお、海外で路上ライブをやっている場合は「① 国内において行うものであること」の要件を満たさないため、消費税の課税対象外(不課税取引)となります。
② 事業者が事業として行うものであること
消費税は、消費者の代わりに事業者が税金を納める「間接税」であるため、「事業者が事業として行う」取引について課税されます。
「ということは、事業として音楽をやっているプロのミュージシャンでなければ、路上ライブをやっても消費税の課税対象外じゃないの?」と思われるかもしれませんが、そうではないのです。
国税庁の質疑応答事例『消費税における「事業」の定義』において、以下のような回答がされています。
【照会要旨】
消費税法上における「事業」の定義は何でしょうか。
所得税の通達では「事業」と「業務」を区分して考えていますが、消費税においては区分する必要はないのでしょうか。【回答要旨】
消費税においては、事業者が「事業」として行う財貨・サービスの提供を課税対象としていますが、この場合の「事業」とは、「同種の行為を反復、継続かつ独立して遂行すること」をいいます。これは、消費税が消費者に負担を求める税であることにかんがみ、個人が消費者として行う行為を課税対象から除外するためのものです。
なお、所得税法における「事業」と「業務」の区分は、所得金額の計算上、その者が支出する費用等について必要経費として収入金額から控除できる範囲を考える場合の基準として用いられているものであり、この区分けを消費税の世界にもちこむ必然性、必要性は特にありません。
消費税法にいう「事業」は、所得税法にいう「事業」よりも広い概念です。
ここで回答されているように、個人事業者の場合は、同種の行為を反復、継続かつ独立して遂行していることが「② 事業者が事業として行うものであること」の要件を満たすかどうかの判断のポイントとなります。
したがって、たとえプロのミュージシャンでなくても、毎週、毎月など、路上ライブを一定程度の継続性を持って繰り返しを行っている場合は、消費税の課税の対象の4要件のうち「② 事業者が事業として行うものであること」の要件を満たすことになります。
本業としてではなく、趣味で楽器の演奏をしている場合であっても、例えば、毎週末、路上ライブを行っている場合は「② 事業者が事業として行うものであること」の要件を満たすことになります。
(参考)音楽を本業としている場合、一回限りの路上ライブでも「事業として」に該当
普段営んでいる事業に関連する行為は、一時的なものであってもその事業の「付随行為」として「② 事業者が事業として行うものであること」の要件を満たすことになります。
「付随行為」の具体例としては、消費税法基本通達5-1-7に以下のようなものが挙げられています。
(付随行為)
5-1-7 令第2条第3項《付随行為》に規定する「その性質上事業に付随して対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供」には、例えば、事業活動の一環として、又はこれに関連して行われる次に掲げるようなものが該当することに留意する。(1) 職業運動家、作家、映画・演劇等の出演者等で事業者に該当するものが対価を得て行う他の事業者の広告宣伝のための役務の提供
(2) 職業運動家、作家等で事業者に該当するものが対価を得て行う催物への参加又はラジオ放送若しくはテレビ放送等に係る出演その他これらに類するもののための役務の提供
(3) 事業の用に供している建物、機械等の売却
(4) 利子を対価とする事業資金の預入れ
(5) 事業の遂行のための取引先又は使用人に対する利子を対価とする金銭等の貸付け
(6) 新聞販売店における折込広告
(7) 浴場業、飲食業等における広告の掲示
例えば、普段は舞台でしか演奏しないミュージシャンや作曲家などが弾丸で路上ライブを一回限りで開催した場合は、本業の音楽活動の「不随行為」として「② 事業者が事業として行うものであること」の要件を満たすことになります。
③ 対価を得て行うものであること
消費税は、商品の販売やサービスの提供の対価として消費者から収受した金額をもとに納付税額を計算します。
路上ライブを行い、「投げ銭」をもらう行為は、演奏の対価(金額は通行人の任意)として通行人から収受するものと考えられるため、消費税の課税の対象の4要件のうち「③ 対価を得て行うものであること」の要件を満たすことになります。
当然ですが、路上ライブをやって誰も「投げ銭」をくれなかった場合は、対価を得ていないため消費税の課税対象外(不課税取引)となります。
④ 資産の譲渡・貸付け、役務の提供であること
消費税は、資産の譲渡・貸付け(商品などモノの販売や貸付け)、役務の提供(サービスの提供)に対して課税されます。
路上ライブについては、「役務の提供」に該当しそうですが、場合によってはこれに該当しない場合もあります。
例えば、冒頭で書いた僕自身の体験談のように、通りかかった人に演奏を聴いてもらいあわよくば投げ銭を得ようとする目的で楽器を弾いていたわけではなく、ただ屋外で練習をしていただけという場合は「役務の提供」に該当しないため、たとえ投げ銭をもらったとしても、それは消費税の課税の対象の4要件のうち「④ 資産の譲渡・貸付け、役務の提供であること」の要件を満たさないことになるため、課税対象外(不課税取引)となります。
この他にも、例えば、演奏をしていないときに、自分の顔を知っているファンの人が話しかけてきて応援のための投げ銭をもらったという場合も、「役務の提供」に該当しないため、消費税の課税対象外(不課税取引)となります。
どのような場合に路上ライブが「役務の提供」に該当するかは、明確に線引きをするのはなかなか難しいですが、例えば、人通りの多い場所で演奏しており、投げ銭を入れてもらう容器(ギターケースなど)を設置していたり、バンド名やライブハウスでの公演予定を記載した看板などを掲げていたり、CDを販売したりしているような場合などは、客観的に見て「役務の提供」として路上ライブを行っていると判断されるでしょう。
まとめ
次のケースに該当する場合は、路上ライブで得た収益は消費税の課税対象となり、納税義務がある場合は消費税を納めなければなりません。
一方、次のケースに該当する場合は、路上ライブで得た収益は消費税の課税対象外(不課税取引)となります。
なお、次の記事では、SNSでライブ配信を行った場合に収受する投げ銭についての取り扱いについて解説しています。是非こちらも合わせてご覧ください。
おまけ
せっかく?なので、冒頭で紹介した、アプリの収録曲(正解数が0~4問だったときのBGM)のメロディーのタブ譜と、僕自身で実演した動画を上げておきます。
ちょっとゆっくり目で弾いています。もしギターを持っているアプリユーザーの方がいましたら、暇なときなどに是非弾いてみてください~。