近年、YouTubeやTikTokなどのSNSでライブ配信を行い、視聴者から「投げ銭」を受け取ることが簡単にできるようになりました。
ライブ配信以外でも、ネット上に投稿した記事や音楽、イラストなどのコンテンツに対して「投げ銭」を送ったり、SNSのアカウント上に設置された「投げ銭」送金ページから、もはや何もしていなくても「投げ銭」を送ることもできます。
今回は、SNSのライブ配信などで視聴者からもらう「投げ銭」は消費税の課税対象となるかどうかについて解説したいと思います。
なお、この記事の内容は、前回書いた路上ライブの投げ銭に関する記事↓の考え方を応用させたものになります。是非この記事も合わせてご覧ください。
ネット上における「投げ銭」とは
インターネット上における「投げ銭」とは、ライブ配信や SNS などで、視聴者やファンが好きなタレントや気に入ったコンテンツに対して送金するシステムのことをいいます。
例えば、Tik Tokの「Tik Tok LIVE Gifting」やYouTube LIVEの「Super chat」、Twitterの「Tips」、Instagramの「バッヂ」などが該当します。
近年は、コロナ禍の影響でなかなかライブ活動ができないアーティストなどが、オンライン上でライブ配信を行い、巨額の「投げ銭」を得るというケースも増えています。
一方、未成年者が無断で親のクレジットカードを使い、数百万円に及ぶ巨額の「投げ銭」が勝手に送金されていたというトラブルも相次いでいます。
「投げ銭」の内容は多種多様であり、税務上の取り扱いがどうなるかは、ケースバイケースで個別に判断する必要があります。
消費税の課税の対象の4要件
消費税は、次の4要件を満たす取引が課税の対象となります。
インターネット上における「投げ銭」の収入が消費税の課税対象となるかどうか、上記の4要件をひとつずつ見ながら考えてみましょう。
① 国内において行うものであること
消費税は日本の税金であるため、日本国内で行われた商品の販売やサービスの提供について課税されます。
インターネット上における「投げ銭」は、インターネットを用いてトークやライブパフォーマンス、記事や音楽、イラストなどのコンテンツの配信について、視聴者やファン又はSNS運営業者から受け取るものになるため、「電気通信利用役務の提供」に該当することとなります。
「電気通信利用役務の提供」が消費税法上の国内取引に該当するかどうかは、「役務の提供を受ける者」の所在地が国内であるかどうかにより判定します。
ここで、インターネット上の「投げ銭」がどのような性質のものかについて、次の2種類に大別して考えることができます。
広告宣伝等の対価としてSNS運営業者から受け取るもの
ライブ配信や記事などのコンテンツには、画面の端っこの場所や、一定間隔の時間ごとなど、様々な広告が表示されるものがあります。
SNSによっては、ファンや視聴者から得られた「投げ銭」の金額に応じて、一定の料率で計算した報酬を、コンテンツ内で表示された広告の宣伝に係る対価として配信者に支払っているということもあります。(そのようなシステムとなっているかどうかは、利用規約等に記載されているはずです。)
そのような場合は、「電気通信利用役務の提供」に係る「役務の提供を受ける者」はそのSNS運営業者(又は広告主)となるため、そのSNS運営業者(又は広告主)の本社が日本国内に所在するかどうかで判断します。
例えば、YouTubeの投げ銭機能「スーパーチャット」(いわゆる「スパチャ」)の収益は、YouTube動画内で表示される広告の宣伝に係る対価として支払われるものであり、Google AdSense経由で支払われます。
Google AdSenseを運営しているGoogle Asia Pacific Pte. Ltd.の本店の住所は「70 Pasir Panjang Road,#03-71 Mapletree Business City, Singapore 117371」となっているため、シンガポールに所在していることになります。
したがって、YouTubeの投げ銭機能「スーパーチャット」の金額に応じて支払われる報酬は、消費税の課税の対象の4要件のうち「① 国内において行うものであること」の要件を満たさないことになるため、課税対象外(不課税取引)となります。
(参考記事↓)
国内に本社を置くSNS運営業者(又は広告主)から、広告宣伝等の対価として投げ銭の金額に応じた報酬の支払いを受ける場合は、「① 国内において行うものであること」の要件を満たすことになります。
視聴者・ファン自身から受け取るもの
SNSによっては、「投げ銭」に係る収益の支払いについて、広告宣伝等の対価としてではなく、ファンや視聴者から直接受け取るものとして取り扱っている場合もあります。
その場合は、「役務の提供を受ける者」はファンや視聴者であるため、日本国内在住のファンや視聴者から受け取る投げ銭については「① 国内において行うものであること」の要件を満たすことになり、海外在住の日本国内在住のファンや視聴者から受け取る投げ銭については課税対象外(不課税取引)となります。
② 事業者が事業として行うものであること
消費税は、消費者の代わりに事業者が税金を納める「間接税」であるため、「事業者が事業として行う」取引について課税されます。
「ということは、タレントやYouTuber、ブロガーとして事業活動をしているわけではなく、趣味でライブ配信をやっている場合など、投げ銭をもらっても消費税の課税対象外じゃないの?」と思われるかもしれませんが、そうではないのです。
国税庁の質疑応答事例『消費税における「事業」の定義』において、以下のような回答がされています。
【照会要旨】
消費税法上における「事業」の定義は何でしょうか。
所得税の通達では「事業」と「業務」を区分して考えていますが、消費税においては区分する必要はないのでしょうか。【回答要旨】
消費税においては、事業者が「事業」として行う財貨・サービスの提供を課税対象としていますが、この場合の「事業」とは、「同種の行為を反復、継続かつ独立して遂行すること」をいいます。これは、消費税が消費者に負担を求める税であることにかんがみ、個人が消費者として行う行為を課税対象から除外するためのものです。
なお、所得税法における「事業」と「業務」の区分は、所得金額の計算上、その者が支出する費用等について必要経費として収入金額から控除できる範囲を考える場合の基準として用いられているものであり、この区分けを消費税の世界にもちこむ必然性、必要性は特にありません。
消費税法にいう「事業」は、所得税法にいう「事業」よりも広い概念です。
ここで回答されているように、個人事業者の場合は、同種の行為を反復、継続かつ独立して遂行していることが「② 事業者が事業として行うものであること」の要件を満たすかどうかの判断のポイントとなります。
「同種の行為を反復、継続かつ独立して遂行」しているかどうかは、「ライブ配信」か「投稿後ずっと残るもの」かどうかにより異なります。
ライブ配信の場合は頻度で判断
ライブ配信の場合は、配信が終わったらもう見れなくなってしまうものなので、その行っている頻度により判断します。
例えば、毎週、毎月など、ライブ配信を一定程度の継続性を持って繰り返しを行っている場合は、たとえ本業としてライブ配信を行っている場合でなくても、消費税の課税の対象の4要件のうち「② 事業者が事業として行うものであること」の要件を満たすことになります。
サラリーマンが趣味のゲームに関するライブ配信をしている場合であっても、例えば、毎週末ライブ配信を行っている場合は「② 事業者が事業として行うものであること」の要件を満たすことになります。
投稿後ずっと残るものの場合は「事業として」に該当
記事やイラスト、音楽などをいったん投稿したら、その後半永久的にネット上にずっと残るものについては、継続的にファンや視聴者に当該コンテンツを提供していることになるため、「② 事業者が事業として行うものであること」の要件を満たすことになります。
(参考)本業に関連する内容の場合、一回限りのライブ配信でも「事業として」に該当
普段営んでいる事業に関連する行為は、一時的なものであってもその事業の「付随行為」として「② 事業者が事業として行うものであること」の要件を満たすことになります。
「付随行為」の具体例としては、消費税法基本通達5-1-7に以下のようなものが挙げられています。
(付随行為)
5-1-7 令第2条第3項《付随行為》に規定する「その性質上事業に付随して対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供」には、例えば、事業活動の一環として、又はこれに関連して行われる次に掲げるようなものが該当することに留意する。(1) 職業運動家、作家、映画・演劇等の出演者等で事業者に該当するものが対価を得て行う他の事業者の広告宣伝のための役務の提供
(2) 職業運動家、作家等で事業者に該当するものが対価を得て行う催物への参加又はラジオ放送若しくはテレビ放送等に係る出演その他これらに類するもののための役務の提供
(3) 事業の用に供している建物、機械等の売却
(4) 利子を対価とする事業資金の預入れ
(5) 事業の遂行のための取引先又は使用人に対する利子を対価とする金銭等の貸付け
(6) 新聞販売店における折込広告
(7) 浴場業、飲食業等における広告の掲示
例えば、普段は舞台上での演奏のみを行っているミュージシャンがライブ配信で音楽を配信したり、弁護士がライブ配信で法律の解説をしたりなど、ライブ配信の内容が本業に関連するものである場合は、たとえ一回きりの配信であったとしても、本業の「不随行為」として「② 事業者が事業として行うものであること」の要件を満たすことになります。
③ 対価を得て行うものであること
消費税は、商品の販売やサービスの提供の対価として消費者から収受した金額をもとに納付税額を計算します。
ライブ配信や記事、イラスト、音楽などのコンテンツの投稿を行い、「投げ銭」をもらう行為は、そのパフォーマンスの対価(金額はファンや視聴者の任意)としてファンや視聴者から収受するものと考えられるため、消費税の課税の対象の4要件のうち「③ 対価を得て行うものであること」の要件を満たすことになります。
当然ですが、ライブ配信等をやって誰も「投げ銭」をくれなかった場合は、対価を得ていないため消費税の課税対象外(不課税取引)となります。
④ 資産の譲渡・貸付け、役務の提供であること
消費税は、資産の譲渡・貸付け(商品などモノの販売や貸付け)、役務の提供(サービスの提供)に対して課税されます。
記事、イラスト、音楽などのコンテンツの投稿については、「役務の提供」に該当します。
ライブ配信がどこまで「役務の提供」に該当するかは判断が難しそうなところではありますが、個人的な見解としては、一般個人の日常生活に関する内容やただの趣味に関する内容のライブ配信などであっても、すべて「役務の提供」に該当すると考えます。
大抵の SNS では「投げ銭」を受け取るかどうか選択できるようになっているため、受け取れるよう選択した上で、不特定多数の者に対してライブ配信を行い、それによりファンや視聴者から「投げ銭」を得た場合は、客観的に見て、はじめから収益を得ようという意思が一定程度認められることになるため、それは「役務の提供」に該当すると考えられます。
例えば、女子高生がSNSのライブ配信で学校生活の愚痴をしゃべっていたところ、視聴者から「投げ銭」をもらった場合、それは女子高生の日常生活に関するトークを不特定多数の人に聞かせるという「役務の提供」に該当し、消費税の課税の対象の4要件のうち「④ 資産の譲渡・貸付け、役務の提供であること」の要件を満たすものと考えられます。
そもそも「投げ銭」を受け取れないように選択している場合や、不特定多数の者に対してではなく、友人だけしか見れない鍵アカウントなどでライブ配信を行う場合は、「役務の提供」には該当しないと考えられます。
ただし、何もしていないのにファンなどから「投げ銭」をもらった場合は、課税の対象外となります。
例えば、SNSによっては、ライブ配信やコンテンツに対してでなく、応援したいアカウントに直接「投げ銭」を送金できるものがありますが、このように何もしていないのに「投げ銭」を得る場合は、「④ 資産の譲渡・貸付け、役務の提供であること」の要件を満たしません。
まとめ
次のケースに該当する場合は、ライブ配信やコンテンツ投稿により得た投げ銭に係る収益は消費税の課税対象となり、納税義務がある場合は消費税を納めなければなりません。
一方、次のケースに該当する場合は、消費税の課税対象外(不課税取引)となります。
なお、この記事の解説はあくまでも僕個人の見解となります。
SNSなどにおける「投げ銭」には非常に様々な様態があり、この記事で解説した考え方に当てはまらないケースもあり得ます。
消費税の課税の対象の4要件を満たすかどうか、ケースバイケースで考える必要があります。