Amazonが提供している電子書籍関連サービス「Kindle」で、電子書籍を購入したことがある方も多いかと思います。
実は、KDP(Kindle Direct Publishing)というサービスを利用すれば、誰でもAmazonで電子書籍を出版できることをご存じでしょうか?
今回は、KDPを利用してKindle電子書籍を出版している場合の売上高の消費税の取扱いについて解説したいと思います。
KDPとは
KDPとは、Kindle Direct Publishingの略で、誰でもKindleストアに本を出版することができるサービスです。
電子書籍化の知識(e-pubやmobi形式ファイルの出力方法等)があれば、個人著者でも出版社を介さずに自分で出版することができます。
ちなみに、僕がAmazonで販売している電子書籍↓は、すべてKDPを通じて出版しています。
僕のように専門書を個人的に出版しているケースのほか、同人誌や写真集を個人で出版している方も多いようです。
コロナウイルスの影響で、同人誌即売会などで対面で販売するのが難しくなったこともあり、KDPを利用して個人で電子書籍を出版する方は年々増えているようです。
なお、受け取れるロイヤリティは原則として税抜販売価格の35%ですが、KDPセレクトに登録することで70%に引き上げることができます。
KDPセレクトに登録すると、ロイヤリティが70%に引き上げられるとともに、「Kindle Unlimited」という月額980円の読み放題サービスで読まれたページ数に応じたロイヤリティも支払われます。ただし、KDPセレクトに登録する場合、Amazon以外のストアで電子書籍を販売することが禁止されるため、すでに他のストアで同じ書籍を販売している場合は取り下げる必要があります。
また、電子書籍のデータをもとに紙の書籍としても販売できるサービス「POD」(Print On Demand)もあるため、電子書籍のみならず紙で出版することもできます。
KDPでの電子書籍の販売は輸出取引等
KDPを利用して電子書籍を出版し、ロイヤリティを受け取る行為は、税務上、Amazon Services International LLCという外国法人に対して、自著書籍の出版権を貸し付けた対価を受け取っていると考えて処理します。
Amazon Services International LLCの所在地は「410 Terry Avenue North, Seattle,WA 98109-5210 U.S.A.」となっているため、アメリカに本店を置く「非居住者」に該当します。
非居住者に対して出版権などの無体財産権を貸し付ける行為は、消費税法上「輸出取引等」に該当します。
1 免税される輸出取引の範囲
課税事業者が次のような輸出取引等を行った場合は、消費税が免除されます。
(1)国内からの輸出として行われる資産の譲渡または貸付け
(2)国内と国外との間の通信または郵便もしくは信書便
(3)非居住者に対する鉱業権、工業所有権、著作権、営業権等の無体財産権の譲渡または貸付け
(4)非居住者に対する役務の提供
ただし、非居住者に対する役務の提供であっても、免税とされる輸出取引にはならず、消費税が課される場合があります。
したがって、KDPを利用して出版した電子書籍の販売数に応じてAmazon Services International LLCから受け取るロイヤリティは、消費税法上「免税売上げ」となります。
なお、KDPセレクトに登録し、「Kindle Unlimited」で読まれたページ数に応じて支払われるロイヤリティやPODサービスを利用して販売された紙の本の販売数に応じて支払われるロイヤリティについても同様に「免税売上げ」となります。
(参考)KDPで出版した方が消費税込みで売られているのはなぜ?
ここまで、KDPを通じて出版した書籍に係るロイヤリティ収入は免税売上げになるとご紹介しました。
しかし、Amazonの販売ページを見ると、KDPを通じて出版した書籍は消費税込みで販売されています。
「なんで免税なのに消費税込みで売られているの?」と疑問に思う方もいるかもしれません。
この理由は、「消費者とAmazon」との取引は課税対象となるが、「Amazonと著者」との取引は免税取引となるからです。
Amazonが日本国内の消費者に対して電子書籍を販売する行為は、消費税法上「電気通信利用役務の提供」に該当します。電気通信利用役務の提供が消費税の課税対象となるかどうかの要件の一つ「国内取引であること」に該当するかどうかは、電気通信利用役務の提供を受ける者の住所等が国内にあるかどうかにより判定されます。したがって、Amazonが日本国内の消費者に対して電子書籍を販売する行為は「国内取引」に該当し、消費税の課税対象となるのです。KDPを提供しているAmazon Services International LLCは、アメリカの会社ですが、日本国内に納税管理人を置いているため(当記事執筆時点において、登録国外事業者に該当しているため)、日本国内で販売した電子書籍の販売収入について課される消費税はすでに納付していることになります。
例えば、定価1,100円の電子書籍(ロイヤリティ70%とする)を日本国内の消費者に販売した場合、Amazonは消費税相当分100円(=1,100円×10/110)を日本の税務署に納付し、残額1,000円のうち70%分である700円を著者に支払うことになります。
この700円は、上述の通り免税売上げとなります。もしこの700円についても課税対象として消費税63円分(=700円×10/110)をさらに納付することとなると二重課税となってしまう(正確には、Amazonにおいてはロイヤリティは免税仕入れとなるため、課税売上げと課税仕入れが表裏一体の関係とならない)ため、そうならないように、Amazonから支払われるロイヤリティは免税売上げとされているのです。
輸出免税の適用を受けるための必要書類
消費税法上、輸出免税の適用を受けるためには、その取引が輸出取引等である証明が必要です。
一般的な輸出取引では、輸出許可書や税関長の証明書などが発行されるため、それらを保存すれば証明になりますが、KDPで電子出版する場合にはそういった書類は発行されません。
では、どうすれば輸出免税の適用を受けられるのでしょうか?
消費税法施行規則第5条第1項第4号において、次のような記載があります。
(輸出取引等の証明)
第五条 法第七条第二項に規定する財務省令で定めるところにより証明がされたものは、同条第一項に規定する課税資産の譲渡等のうち同項各号に掲げる資産の譲渡等に該当するものを行つた事業者が、当該課税資産の譲渡等につき、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める書類又は帳簿を整理し、当該課税資産の譲渡等を行つた日の属する課税期間の末日の翌日から二月(清算中の法人(人格のない社団等を含む。以下同じ。)について残余財産が確定した場合には一月とする。第三項において同じ。)を経過した日から七年間、これを納税地又はその取引に係る事務所、事業所その他これらに準ずるもの(第一号イにおいて「事務所等」という。)の所在地に保存することにより証明がされたものとする。
・・・(中略)・・・
四 法第七条第一項各号に掲げる資産の譲渡等のうち、前三号に規定する資産の譲渡等以外の資産の譲渡等である場合 当該資産の譲渡等を行つた相手方との契約書その他の書類で次に掲げる事項が記載されているもの
イ 当該資産の譲渡等を行つた事業者の氏名又は名称及び当該事業者のその取引に係る住所等(当該資産の譲渡等が令第六条第二項第五号に掲げる役務の提供である場合には、同号に定める場所を含む。)
ロ 当該資産の譲渡等を行つた年月日
ハ 当該資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容
ニ 当該資産の譲渡等の対価の額
ホ 当該資産の譲渡等の相手方の氏名又は名称及び当該相手方のその取引に係る住所等
KDPで交付される売上レポート等には、上記のイ~ホが全部書かれていません。
そのため、輸出免税を受けるためには、非居住者であるAmazon Services International LLCとの契約であることがわかるように、『Kindle ダイレクト・パブリッシング利用規約』を印刷して保存するとともに、KDPの著者ページからダウンロードできる各月ごとの販売数、ロイヤリティが記載されたレポートを保存し、さらに、上記イ~ホの事項を記載した、次のような書類(テンプレートはこちら)を作成して保存しておくようにしましょう。
(消費税法施行規則第5条第1項第4号に掲げる事項)
資産の譲渡等を行った事業者の氏名又は名称及び当該事業者のその取引に係る住所等 |
名称: 住所: |
資産の譲渡等を行った年月日 | 令和 年 月 日 |
資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容 | 非居住者に対する無体財産権(Kindle電子書籍の出版権)の貸付け |
資産の譲渡等の対価の額 | 円 |
資産の譲渡等の相手方の氏名又は名称及び当該相手方のその取引に係る住所等 |
名称:Amazon Services International LLC 住所:410 Terry Avenue North, Seattle,WA 98109-5210 U.S.A. |
(参考)ネクストパブリッシングを利用してPOD出版する場合の取扱い
KDP経由ではなく、「ネクストパブリッシング」というインプレスR&D社が提供するサービスを利用して紙の本をAmazonでPOD出版する場合の取扱いについては、詳しくは次の記事で解説しています。
POD出版を検討している方は、是非こちらの記事も合わせてご覧ください。
まとめ
KDPを利用して電子書籍を出版した場合に受け取るロイヤリティは、消費税法上、非居住者に対する無体財産権(出版権)の貸付けの対価として「免税売上げ」となります。