個人事業者の場合は、事業のために使用している資産をプライベートの為に使用することもあるかと思います。
例えば、平日は得意先への営業のために使用している乗用車を、休日はドライブや個人的な買い物のために使用しているという方も多いでしょう。
今回は、個人事業者が事業用と家事用に共用している資産を譲渡した場合の消費税の取扱いについて解説したいと思います。
売却時の課税標準
個人事業者が事業用と火事ように強要している資産を譲渡した場合の課税標準の取り扱いについては、消費税法基本通達10-1-19において、次のように記載されています。
(家事共用資産の譲渡)
個人事業者が、事業と家事の用途に共通して使用するものとして取得した資産を譲渡した場合には、その譲渡に係る金額を事業としての部分と家事使用に係る部分とに合理的に区分するものとする。この場合においては、当該事業としての部分に係る対価の額が資産の譲渡等の対価の額となる。
赤色部分で示したとおり、個人事業者が資産を売却した場合の取り扱いは、それが「事業と家事の用途に共通して使用するものとして取得した資産」であるかどうかにより異なります。
「~取得した資産」という過去形の書き方なので、今現在事業と家事の用途に共通して使用しているかどうかではなく、取得時に事業と家事の用途に共通して使用するものとしていたかがポイントです。
通達に記載されている通り、「事業と家事の用途に共通して使用するものとして取得した資産」を売却したのであれば、売却金額のうち事業用として区分された金額のみが消費税の課税対象となり、家事用の部分は消費税の課税対象外ということになります。
「事業と家事の用途に共通して使用するものとして取得した資産」以外の資産(=100%事業用として取得した資産)を売却した場合は、売却価格の全額が消費税の課税対象となります。
事業と家事の用途に共通して使用するものとして取得した資産とは
事業と家事の用途に共通して使用するものとして取得した資産とは、冒頭の例のように、平日は事業用、休日は家事用として使用している乗用車や、1階は店舗用、2階は自らの居住用として使用している建物などが該当します。
そのような、事業と家事の用途に共通して使用するものとして取得した資産について仕入税額控除を受ける場合は、事業用部分と家事用部分とを合理的に区分し、家事用部分については課税仕入れに該当しないことになります。
家事のために使用する部分の割合については、 その資産の消費又は使用の実態に基づく使用率、使用面積割合等の合理的な基準により計算を行います。
(家事共用資産の取得)
個人事業者が資産を事業と家事の用途に共通して消費し、又は使用するものとして取得した場合、その家事消費又は家事使用に係る部分は課税仕入れに該当しないことに留意する。この場合において、当該資産の取得に係る課税仕入れに係る支払対価の額は、当該資産の消費又は使用の実態に基づく使用率、使用面積割合等の合理的な基準により計算するものとする。
自動車の場合は、走行距離の割合や使用日数の割合などの合理的な基準により事業供用割合(事業専用割合)を求めます。
建物の場合は、使用面積割合等に基づいて計算します。
自動車を購入した場合の具体例は以下のようになります。
このように、「事業と家事の用途に共通して使用するものとして取得した資産」は、取得時に事業用部分についてのみ仕入税額控除を受けることになるため、売却時も同様に事業用部分についてのみ按分計算して課税売上げを計上することになります。
「事業と家事の用途に共通して使用するものとして取得した資産」に該当しない資産
「事業と家事の用途に共通して使用するものとして取得した資産」に該当しない資産とは、要するに100%事業用として使用することとした資産です。
100%事業の用に供する資産は、取得時にその全額につき仕入税額控除を受けることになるため、売却時も同様にその全額を課税売上げとして計上することになります。
なお、売却時点で一部を家事用として使用している資産であっても、取得時にその全額につき仕入税額控除を受けている場合は、売却時もその全額を課税売上げとして計上しなければなりません。
(参考1)質疑応答事例は前提条件が不明確
国税庁が公表している質疑応答辞例『事業用及び家事用の両方に使用している資産を売却した場合の課税関係』において、次のような回答要旨があります。
【照会要旨】
個人事業者が所有する資産で、事業と家事の用途に共通して使用されるものを売却した場合の課税関係はどうなるのでしょうか。(例)
1. 店舗兼住宅の1階部分を店舗又は工場に使用し、2階部分を個人の住宅として使用している場合の建物
2. 昼は事業用、夜は家庭用として使用している電話に係る電話加入権
なお、所得税法の計算上は、家事関連費であっても業務の遂行上必要であること等の一定の要件に該当するものについては、必要経費に算入されます(所法45、所令96)。【回答要旨】
事業と家事の用途に共通して使用される資産であっても、譲渡すれば事業用の部分については課税の対象となります(按分)。
ただし、例の2の課税標準は、当該課税資産の譲渡等の対価の額の全額となります。
上記の(例)のうち、2の電話加入権の取扱いについて、要旨なので前提条件が省略されていますが、おそらくこれは電話加入権を「事業と家事の用途に共通して使用するものとして取得した資産」以外の資産(=100%事業用として取得した資産)として取得したものだと考えられます。その場合は、たとえ一部を家事用として使用している場合であっても、取得時に100%仕入税額控除を受けているため、売却時も100%課税売上げとして計上しなければならないということになります。
なお、もしこの電話加入権を「事業と家事の用途に共通して使用するものとして取得した資産」として購入し、取得時において事業用として使う部分のみ仕入税額控除を受け、家事用として使う部分は不課税としていたならば、売却時は事業用部分のみが課税売上げとなります。
この質疑応答事例では前提条件が記載されていないため、家事共用資産の消費税の取扱いについて「取得時に家事用部分を課税仕入れにしなかった場合でも、売ったら全額課税売上げにしなきゃいけないの?」といった誤解を招くおそれがあります。国税庁としては、この質疑応答事例の照会要旨の書き方について見直してほしいものです。
(参考2)いつの時点での事業供用割合を用いて計算するのか
ここまで見たとおり、事業と家事の用途に共通して使用するものとして取得した資産を売却した場合は、売却価額を事業用部分と家事用部分とに区分して、事業用部分のみ課税対象となります。
売却価額を事業用部分と家事用部分とに区分する際は、「資産の取得時の事業供用割合」を用いて、売却価額を事業用部分と家事用部分とに区分することとなります。
この点について、国税庁は次のように解説しています。
…なお、家事共用資産を譲渡した場合には、その対価の額を事業用部分と家事使用部分とに合理的に区分することとなるが、この区分は、その譲渡のときの使用割合ではなく、原則として、当該資産を取得したときの区分(基通11-1-4に規定するその資産の使用の実態に基づく使用率、使用面積割合等の合理的な基準による区分)によることとなる。
国税庁監修平成19年度版「消費税法基本通達逐条解説」大蔵財務協会・524頁
例えば、取得した時点では事業供用割合が70%だった乗用車が売却時点で事業供用割合が50%に下がっていた場合、売却価額のうち事業用部分を計算する際は、取得時の事業供用割合70%を乗じて計算する、ということです。
なぜ上記のような取扱いをするのか、理由については書かれていませんが、その根拠についての僕個人の見解を述べます。
税の累積を排除する消費税の性格の観点から
消費税は、取引の各段階における税の累積を排除する観点から多段階累積控除という方式が取られています。
間接税である消費税は、最終的な消費行為そのものを課税対象とするものではなく、その前段階の物品や消費行為そのものを課税対象とするものではなく、その前段階の物品やサービスに対して課税が行われ、税負担が物品やサービスの価格に含められて最終的には消費者に転嫁されることが予定されていることを鑑みると、個人事業者が取得時に仕入税額控除を受けた割合と売却時に課税対象とされる割合が異なることとなれば、そこで事業者間の価格転嫁に歪みが生じてしまうことになり適切ではありません。
そのため、「仕入時に全額仕入税額控除を受けたものは、売却時も全額が課税売上げ」「仕入時に70%仕入税額控除を受けたものは、売却時も70%分が課税売上げ」とするのが消費税の性格に鑑みて最適だといえます。
恣意的な事業供用割合の操作防止の観点から
売却価額のうち事業用部分を売却時の事業供用割合で按分計算しても良いとすると、恣意的に事業供用割合を操作して課税対象となる金額を不当に低くすることができてしまいます。
そのため、取得時に仕入税額控除する際に実際に使用した事業供用割合であれば、帳簿等に記録も残っているはずですし最も客観的であるといえるため、恣意的な事業供用割合の操作防止の観点からも資産の取得時の事業供用割合を用いるのが適当だと考えられます。
通達に売却時の事業供用割合を使うことと書いていない
これは若干苦しい言い分かもしれませんが、上記の通達を読むと、家事用部分と事業用部分とに区分する際に売却時の事業供用割合を使えという文言の記載はありません。
ということは、取得時の事業供用割合を使って家事用部分と事業用部分とに区分しろということだと、消極的に読み取ることもできなくもありません。
まとめ
個人事業者が、事業用と家事用に共用している資産を売却した場合の消費税の取扱いをまとめると、次のようになります。
なお、売却価額を事業用部分と家事用部分とに按分計算する際は、「資産の取得時の事業供用割合」を用いて計算します。