消費税は、あらゆるモノやサービスの売買に対して広く薄く課税する税金です。消費税が課税される取引のことを「課税取引」といいます。
しかし、中には消費税が課税されない取引もあります。しかも、一口に「消費税が課税されない取引」と言っても、実は「非課税取引」「免税取引」及び「不課税取引」の3種類があります。
今回は、どのような場合に消費税の課税対象となるのか、非課税取引、免税取引及び不課税取引はそれぞれどう違うのかについて解説したいと思います。
課否判定の全体像
消費税の世界では、ある取引について、課税取引、非課税取引、免税取引又は不課税取引のいずれに該当するのかの判断をすることを「課否判定」と呼びます。
まず先に、判定の流れをつかむために、課否判定の全体像を先に紹介します。
課税の対象の4要件を満たすか? | →(NO)→ | 不課税取引 |
↓YES | ||
消費税法別表第二に掲げる非課税項目に該当するか? | →(YES)→ | 非課税取引 |
↓NO | ||
消費税法第7条に掲げる輸出取引等に該当するか? | →(YES)→ | 免税取引(0%課税取引) |
↓NO | ||
消費税法別表第一に掲げる軽減税率対象品目に該当するか? | →(YES)→ | 軽減税率8%課税取引 |
↓NO | ||
標準税率10%課税取引 |
上記のフローチャートは消費税法の勉強をするうえでも最大級の重要度となります。
① 不課税取引となるか
② 非課税取引となるか
③ 免税取引となるか
④ 軽減税率対象取引となるか
という順で判定し、いずれにも引っかからなかった場合は標準税率10%が課される取引となります。
この手順をしっかりと頭の中に入れた上で、それぞれの判断ポイントについて見てみましょう。
課税の対象の4要件
消費税は、次の4要件を満たす取引が課税の対象となります。
それぞれの要件について、詳しく見てみましょう。
① 国内において行うものであること
消費税は日本の税金であるため、国外で行われた取引に消費税を課すことはできません。
たとえば、アメリカでチェリーパイを販売した事業者に日本の消費税を課すことはできません。
したがって、課税の対象となる取引を「国内において行うもの」に限定する必要があります。
どのような場合に国内取引に該当するかは、次に掲げる場所が国内である場合は「国内において行うものであること」の要件を満たします。
② 事業者が事業として行うものであること
「事業者が事業として行うものであること」とは、対価を得て行われるモノやサービスの提供が反復、継続、独立して行われることをいいます。
「反復、継続」とは、同じことを何度も繰り返し行っているということです。
例えば、個人が中古品をブックオフなどで売る場合は「事業者が事業として行うものであること」の要件を満たさず不課税取引となります。
また、趣味で制作したアクセサリーをフリーマーケットなどで1~2回販売したことがあるという場合は「反復、継続」して行っているとはいえないため、「事業者が事業として行うものであること」の要件を満たさず消費税の課税対象外となります。
一方、趣味のつもりで制作したアクセサリーであっても、フリーマーケットに毎週のように継続的に出店し、そこそこの利益を得ているような場合は「反復、継続」して行っているといえるため、「事業者が事業として行うものであること」の要件を満たすことになります。(どれくらいの頻度ならば「反復、継続」になるかの具体的な基準はないので、「事業」に該当するかどうか不明な場合は税務署等に問い合わせて個別に相談するようにしましょう。)
特に、インターネットを通じて何かしらの収益を得ている場合は、金額の規模が小さかったとしても「反復、継続」して行っていることになります。インターネットは24時間365日ずっと誰かしらにサービスを提供できる状態にあるため、「事業者が事業として行うものであること」の要件を満たすことになるので注意が必要です。例えば、ブログで日記を書いている場合であっても、国内のアフィリエイト業者の広告を貼っており微々たる収益を上げている場合や、趣味で制作したLINEスタンプが月に1~2個程度売れている場合も、「反復、継続」して行っていることになるため、「事業者が事業として行うものであること」の要件を満たすことになります。免税事業者である場合は消費税の納税義務がないため特に気にする必要はありませんが、何かしら事業をやっている人が趣味でブログやLINEスタンプ制作などインターネットを通じて収益を上げている場合はその分も課税売上げとしなければならないので注意が必要です。
次に「独立」とは、事業者がそれぞれ独立した立場で取引を行っていることをいいます。
ある事業者が他の事業者や消費者に対し商品を販売した場合は、事業者がそれぞれ独立した立場で取引を行っていることになります。
一方、会社員が、会社と雇用契約を結び、労働力を提供した対価として給料をもらう場合は「事業者がそれぞれ独立した立場で取引」を行っているとはいえません。会社に雇用された場合、その時点でその会社員はその会社の一員となるわけですから、会社員と会社は「独立した立場」ではありません。したがって、会社員が会社からもらうお給料は「事業者が事業として行うものであること」の要件を満たさず不課税取引となります。
この点については、詳しくは次の記事をご覧ください。
③ 対価を得て行うものであること
消費税は、モノやサービスの本体価格に10%(または8%)を乗じた金額を税金として課すという性質上、課税対象を有償の取引に限定する必要があります。(無償の取引に消費税を課すことはできません。)
したがって、有償で行われた取引、すなわち、「対価を得て行うものであること」が課税の対象の要件の一つとなっています。
なお、有償で行われた取引であっても、それが何かしらのモノやサービスを提供した対価として収受するものでない場合は「対価を得て行うものであること」の要件を満たさず不課税取引となります。
例えば、次のような取引は「対価を得て行うものであること」の要件を満たさず不課税取引となります。
④ 資産の譲渡・貸付け、役務の提供であること
消費税は、モノを販売したり貸し付けたり、サービスを提供した場合にしか課されません。
例えば、会社が決算において減価償却費を計上した場合に、その減価償却費に対して消費税を課すということはありません。
当たり前っちゃ当たり前のことかもしれませんが、法律というのはそういう当たり前のことも書かないといけないものなので、これは「まぁそうだよね」と軽く流せばOKです。
非課税取引
上記の課税の対象の4要件を満たす場合は、次のステップとして「非課税取引」に該当するか検討します。
消費税法別表第二において、次のとおり非課税とされる取引が限定列挙されています。(それぞれ右側に非課税とされている理由も記載しています。)
(注)令和5年9月30日までは、国内取引の非課税項目は消費税法「別表第一」に掲載されていましたが、令和5年10月1日以後は「別表第二」に移動することになりました。(それまで附則扱いだった軽減税率対象品目が本法に格上げされたことに伴い、別表第一には軽減税率対象品目が掲載されるようになったため、非課税項目は別表第二に追いやられました。)
(2) 有価証券等の譲渡 ← 資本の移転でありそれ自体が「消費」の対象となるものではない
(3) 支払手段の譲渡 ← 決済手段でありそれ自体が「消費」の対象となるものではない
(4) 預貯金の利子及び保険料を対価とする役務の提供等 ← お金を貸したことにより収受する利子は「消費」を伴わない、保険契約者の被る危険を負担するサービスの対価である保険料も「消費」を伴わない
(5) 日本郵便株式会社などが行う郵便切手類の譲渡、印紙の売渡し場所における印紙の譲渡及び地方公共団体などが行う証紙の譲渡 ← 郵便切手や印紙は使用した時にサービスの対価として消費がなされるものであり、購入時にも課税すると二重課税になる
(7) 国等が行う一定の事務に係る役務の提供 ← 行政サービスは国民にとって選択できないものであり、また、国に支払う行政手数料は税金と類似する性格を有している
(8) 外国為替業務に係る役務の提供 ← これらの交換においてはいかなる課金も課することができないこととなっているため
(9) 社会保険医療の給付等 ← 医療を必要とする社会的弱者の立場を考慮
(10) 介護保険サービスの提供 ← 介護を必要とする社会的弱者の立場を考慮
(11) 社会福祉事業等によるサービスの提供 ← 福祉を必要とする社会的弱者の立場を考慮
(12) 助産 ← 出生という生命の尊厳に対する配慮
(13) 火葬料や埋葬料を対価とする役務の提供 ← 死亡という生命の尊厳に対する配慮
(14) 一定の身体障害者用物品の譲渡や貸付け ← 身体に障がいを抱えている社会的弱者の立場を考慮
(15) 学校教育 ← 家庭の教育費負担軽減のため
(16) 教科用図書の譲渡 ← 家庭の教育費負担軽減のため
(17) 住宅の貸付け ← 人々が生活する上で不可欠の支出であること及び逆進性(低所得者ほど実質的な消費税負担が重くなること)の緩和のため
非課税取引は、「消費税という税の性格になじまないもの」と「社会政策的な配慮から課税することが適当でないもの」の2種類に分かれています。
上記枠囲みの青色で示した部分が「消費税という税の性格になじまないもの」であり、赤色で示した部分が「社会政策的な配慮から課税することが適当でないもの」になります。
これらのいずれかに引っかかった場合は「非課税取引」に分類されます。
免税取引
非課税取引に該当しなかった場合は、次のステップとして「免税取引」に該当するか検討します。
免税取引とされる「輸出取引等」については、消費税法第7条(及び消費税法施行令第17条)において次のように列挙されています。
② 外国貨物の譲渡又は貸付け
③ 国内及び国外にわたって行われる旅客又は貨物の輸送
④ 船舶運航事業者等に対する一定の資産の譲渡等
⑤ 外国貨物に係る荷役、運送、保管、検数、鑑定等の役務の提供
⑥ 指定保税地域等における内国貨物に係る一定の役務の提供
⑦ 国内と国外との間の通信又は郵便若しくは信書便
⑧ 非居住者に対する無形固定資産等の譲渡又は貸付け
⑨ 非居住者に対する役務の提供で次に掲げるもの以外のもの
イ 国内に所在する資産に係る運送又は保管
ロ 国内における飲食又は宿泊
ハ イ及びロに準ずるもので国内において直接便益を享受するもの
これらの取引が免税とされている理由は、次の2つが挙げられます。
なお、免税取引は、正確には「消費税がかからない」のではなく、「0%の消費税を課している」という建て付けになっています。
軽減税率対象取引の判定
免税取引に該当しなかった場合は、次のステップとして軽減税率対象取引に該当するかどうか判定します。
軽減税率8%が適用される取引は消費税法別表第一に限定列挙されており、以下の2つが該当します。
・定期購読契約に基づき配送される新聞(週2回以上発行されるもの)の譲渡
軽減税率が導入された趣旨は低所得者への配慮であり、生活必需品の税率を下げることによって逆進性(低所得者ほど消費税負担が重くなること)を緩和することが目的です。
上記のいずれにも該当しない場合は、標準税率10%が課される取引ということになります。
(参考)輸入取引の課税の対象
ここまで国内取引に係る課否判定の全体像について解説してきました。
国外から日本に商品等を輸入した場合も、消費地課税主義の観点により日本の消費税が課されることになります。
輸入取引が行われた場合は、港などの「保税地域」という場所から「外国貨物」(輸入した商品など)を引き取る者が、税関に輸入消費税を納めることになります。
輸入取引については事業者だけでなく、消費者が商品等を輸入した場合も納税義務があります。
例えば、消費者がアメリカから特注のアメリカンバイクを輸入して港から引き取る場合は、税関に一定の輸入消費税を納めなければなりません。
なお、輸入取引についても非課税とされるものがあり、次のものには消費税を課さないこととされています。
まとめ
消費税がかからない取引には、不課税、非課税、免税の3種類があります。
消費税がかかる取引についても、標準税率10%が課されるのか軽減税率8%が課されるのか正確に判断する必要があります。
課否判定を正確に行うためには、次のフローチャートをしかっりと頭に入れておく必要があります。
課税の対象の4要件を満たすか? | →(NO)→ | 不課税取引 |
↓YES | ||
消費税法別表第二に掲げる非課税項目に該当するか? | →(YES)→ | 非課税取引 |
↓NO | ||
消費税法第7条に掲げる輸出取引等に該当するか? | →(YES)→ | 免税取引(0%課税取引) |
↓NO | ||
消費税法別表第一に掲げる軽減税率対象品目に該当するか? | →(YES)→ | 軽減税率8%課税取引 |
↓NO | ||
標準税率10%課税取引 |
消費税の課否判定を行う際は、このフローチャートを常に意識しながら考えるようにしましょう。