消費税法上、役員報酬や給与等はなぜ課税仕入れに該当しないのか

この記事の内容は、2025年1月現在の最新の税制に対応しています。

消費税の計算上、従業員に支払った給与や役員に支払った報酬は課税仕入れに該当しません。

これは、課税仕入れについて学習したらすぐに覚える論点なので、消費税の勉強をしている人にとっては常識といえるかもしれません。

しかし、「なぜ給与等は課税仕入れに該当しないのか」の理由をしっかり理解している人は意外と少ないのではないかと思います。

そこで、今回は給与等が課税仕入れに該当しない理由について解説したいと思います。

 

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課税仕入れの意義

「課税仕入れ」の意義については、消費税法第2条第1項第12号で以下のように規定されています。

課税仕入れ
事業者が、事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供(所得税法第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等を対価とする役務の提供を除く。)を受けること(当該他の者が事業として当該資産を譲り渡し、若しくは貸し付け、又は当該役務の提供をしたとした場合に課税資産の譲渡等に該当することとなるもので、第七条第一項各号に掲げる資産の譲渡等に該当するもの及び第八条第一項その他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるもの以外のものに限る。)をいう。

太字のカッコ書きに記載されているとおり、給与等を対価とする役務の提供は課税仕入れの範囲から除かれることとされています。

しかし、なぜこのような取り扱いがあるのかという理由は、この条文を見ただけではわかりません。

そこで、この理由を紐解くために、消費税の税額計算において仕入税額控除が導入された趣旨を考えてみたいと思います。

 

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多段階累積控除

消費税には、商品やサービスが生産者から消費者に届くまでの流通の各段階で二重三重に課されることがないように調整する仕組みがあります。

この仕組みのことを「多段階累積控除」といいます。

「多段階累積控除」という仕組みでは、事業者間で商品やサービスの移転が行われた場合に、購入者側が仕入税額控除を行うことによって、最終的に消費者が消費税を負担することになります。

この仕組みは、事業者がそれぞれ独立した立場で取引を行っていることが前提となります。

ここで、「事業者」とはどのような者を指すのか、国税庁の消費税法基本通達1-1-1を見てみましょう。

(個人事業者と給与所得者の区分)
事業者とは自己の計算において独立して事業を行う者をいうから、個人が雇用契約又はこれに準ずる契約に基づき他の者に従属し、かつ、当該他の者の計算により行われる事業に役務を提供する場合は、事業に該当しないのであるから留意する。・・・(後略)

したがって、仕入税額控除は自己の計算において独立して事業を行う者同士の間で商品やサービスの移転が行われた場合に適用されることとなります。

消費税は、次の4要件を満たす取引が課税の対象となります。

課税の対象の4要件
① 国内において行うものであること
② 事業者が事業として行うものであること
③ 対価を得て行うものであること
④ 資産の譲渡・貸付け、役務の提供であること

上記のうち、「② 事業者が事業として行うものであること」とは、自己の計算において独立して事業を行う者が行った取引であることという意味になります。

これを踏まえて、事業者がモノやサービスを買った場合の処理について考えてみます。

 

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小売業者が卸売業者から商品を仕入れた場合

小売業者が卸売業者から商品を仕入れた場合は、独立した事業者間の取引になるため、仕入代金は課税仕入れに該当することになります。

小売業者と卸売業者の取引

 

中古車販売業者が消費者から中古車を仕入れた場合

中古車販売業者が消費者から中古車を仕入れた場合はどうなるでしょうか?

消費者は事業者に該当しませんが、消費税法第2条第1項第12号では、仕入れの相手方が事業者に該当するものと仮定して課税仕入れに該当するか否かを考えます。

以下、条文の規定を再掲します。

課税仕入れ
事業者が、事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供(所得税法第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等を対価とする役務の提供を除く。)を受けること(当該他の者が事業として当該資産を譲り渡し、若しくは貸し付け、又は当該役務の提供をしたとした場合に課税資産の譲渡等に該当することとなるもので、第七条第一項各号に掲げる資産の譲渡等に該当するもの及び第八条第一項その他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるもの以外のものに限る。)をいう。

太字のカッコ書きに記載されているとおり、当該消費者を事業者と仮定して考えた場合、消費者と中古車販売業者はそれぞれ独立した事業者であるため、中古車の仕入代金は課税仕入れに該当します。

消費者と中古車販売業者の取引

 

雇用者が給与所得者に給与を支払った場合

最後に、本題の給与等の取扱いについて考えます。

国税庁の消費税法基本通達1-1-1に記載されているように、給与所得者は雇用者の事業に従属しているため、給与所得者が雇用者に対して行う役務の提供は独立した事業者間で商品やサービスの移転が行われたことにはなりません。

以下、国税庁の消費税法基本通達1-1-1を再掲します。

(個人事業者と給与所得者の区分)
事業者とは自己の計算において独立して事業を行う者をいうから、個人が雇用契約又はこれに準ずる契約に基づき他の者に従属し、かつ、当該他の者の計算により行われる事業に役務を提供する場合は、事業に該当しないのであるから留意する。・・・(後略)

従業員や役員が会社のために仕事をし、その対価として会社から報酬や給料が支払われるという取引は、同一の事業に属する者同士の間で役務と資産が移転しただけになります。

したがって、同一の事業の中で支払われた給与等は、課税仕入れに該当しないことになります。

給与の支払い

 

独立した立場の事業者間で取引が行われたかどうかが課税の対象となるかの判断のポイントとなる点は、本支店間の取引の取扱いとよく似ています。

詳しくは、以下の記事「親子会社間の取引と本支店間の取引の消費税法上の取扱いの違い」をご覧ください。

 

まとめ

役員報酬や給料などの人件費は、自己の計算において独立して事業を行う者同士の間で商品やサービスの移転が行われたわけではないため、課税の対象の対象の4要件のうち「② 事業者が事業として行うものであること」の要件を満たさず、不課税取引となります。

 

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