平成最後の12月25日は、日経平均株価がリーマンショック級の下落率で暴落するという投資家にとって地獄のクリスマスとなりました。
翌日にはある程度回復したものの、市場の緊張状態は続いており、再び暴落すれば深刻な金融危機につながる可能性も指摘されています。
金融危機が起きると様々な会社がパタパタと倒産します。「倒産」という言葉に明確な定義はありませんが、一般的には、手形や小切手の不渡りを起こしたら「事実上の倒産」といわれています。
では、手形や小切手の不渡りが起きた場合は、消費税法上は貸倒れに係る消費税額の控除の規定は適用できるのでしょうか?
今回は、手形や小切手の不渡りの消費税法上の取扱いについて解説したいと思います。
不渡りとは
「不渡り」とは、手形や小切手の支払期日を過ぎても、債務者から債権者に対してお金が支払われないことをいいます。
なお、「不渡り」には、次の3種類があります。
・第1号不渡事由
・第2号不渡事由
一般的に「不渡り」とは、第1号不渡事由に起因する不渡りのことを指します。
1号不渡りを起こすと、手形交換所規則に基づき、支払いができなかったことを全金融機関に通知される「不渡り処分」を受けることになります。
また、6か月以内に2度の「不渡り」を起こすと銀行取引停止処分を受け、以後2年間、金融機関から融資を受けたり取引先と当座預金取引を行うことができなくなります。
手形の不渡りを1度でも起こしてしまうと、その情報が全金融機関に通知されるため信用が大きく低下し、実質的にどこからも融資を受けることができなくなるため、会社自体は存続していても「事実上の倒産」といわれます。
貸倒れに係る消費税額の控除
消費税法では、課税売上げとして計上した売掛金等が貸倒れとなってしまった場合は、その貸倒れとなった金額に係る消費税額を課税標準額に対する消費税額から控除することができます。
ただし、この規定の適用を受けるためには、その売掛金等について政令で規定する一定の事実(貸倒れの事実)が生じていることが要件になります。
不渡りは「貸倒れの事実」に該当するのか
消費税法第39条≪貸倒れに係る消費税額の控除≫の規定は、「貸倒れの事実」が生じている場合に適用されます。
上述のとおり、手形や小切手の不渡りは「事実上の倒産」と言われることがありますが、消費税法上は不渡りは「貸倒れの事実」が生じている場合に該当するのでしょうか?
結論から先に言うと、不渡りは「貸倒れの事実」には該当しません。
「貸倒れの事実」に該当する主な例として、国税庁のタックスアンサーNo.6367に次のような場合が記載されています。
1 更生計画認可の決定、再生計画認可の決定などにより債権の切捨てがあったこと。
2 債務者の財産状況、支払能力等からみてその債務者が債務の全額を弁済できないことが明らかであること。
3 法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で、一定の要件に該当する基準により債権の切捨てがあったこと。
4 債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その債権の弁済を受けることができないと認められる場合に、その債務者に対し書面により債務の免除を行ったこと。
まず、不渡りは上記1,3,4の場合には該当しないことはすぐにわかるかと思います。
「2 債務者の財産状況、支払能力等からみてその債務者が債務の全額を弁済できないことが明らかであること。」に該当するんじゃないの?と思うしれませんが、不渡りを起こしただけは、手形や小切手の全額を回収できないことが明らかであるとはいえません。手形が不渡りとなった場合は、手形の振出人や裏書人に対して遡求して支払いを求めることができるため、まだ債権を回収できなくなったわけではないため、上記2にも該当しません。
上記の他にも、形式上の貸倒れとして以下のような場合が「貸倒れの事実」に該当しますが、手形や小切手の不渡りは以下のいずれにも該当しません。
(1) 継続的な取引を行っていた債務者の資産状況、支払能力等が悪化したため、その債務者との取引を停止した場合において、その取引停止の時と最後の弁済の時などのうち最も遅い時から1年以上経過したとき
(中略)
(2) 同一地域の債務者に対する売掛債権の総額が取立費用より少なく、支払を督促しても弁済がない場合
したがって、手形や小切手が不渡りとなっただけでは消費税法上「貸倒れの事実」には該当せず、貸倒れに係る消費税額の控除の規定は適用できません。
なお、「貸倒れの事実」の概要については以下の記事をご覧ください。
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問題番号 | タイトル |
991 | 約束手形の不渡り |