政府与党の自民・公明両党が先日12日、令和2年度税制改正大綱を発表しました。
PDFデータ:令和2年度税制改正大綱
今回は、令和2年度税制改正大綱のうち、消費税に関する改正点をまとめました。
法人に係る消費税の申告期限の特例の創設
法人税・住民税・事業税については、 申告期限を延長することができますが、消費税については申告期限を延長することができなかったため、実務上不便で仕方がないという声が相次いでいました。
消費税だけ申告期限の特例がないのは、消費税の申告が確定した決算に基づいて行われるものではないからです。詳しくは、以下の記事をご覧ください。
そこで、今回の改正により、法人税の確定申告書の提出期限の延長の特例の適用を受ける法人が、消費税の確定申告書の提出期限を延長する旨の届出書を提出した場合には、その提出をした日の属する事業年度以後の各事業年度の末日の属する課税期間に係る消費税の確定申告書の提出期限を1か月延長する特例が創設されることとなりました。
地方消費税の申告についても、所要の措置が講じられます。
この改正は、令和3年3月31日以後に終了する事業年度の末日の属する課税期間から適用されることとなります。
なお、確定申告書の提出期限が延長された期間の消費税の納付については、その延長された期間に係る利子税を併せて納付します。
この特例については、詳しくは次の記事で解説しています。
居住用賃貸建物の取得等に係る消費税の仕入税額控除制度等の適正化
これまで、住宅の貸付けのために使用される建物の購入費用について仕入税額控除を行い消費税の還付を受けるためのいわゆる「自動販売機スキーム」という手法が横行し、いたちごっこのように幾度となく法改正が行われてきました。
「自動販売機スキーム」の手法については、非常に複雑でここだけでは書ききれないため、詳しくは拙著『パーフェクトマスター 消費税の納税義務と簡易課税の適用判定の手引き』をご参照ください。
今回の改正では、居住用賃貸建物の取得に係る消費税の仕入税額控除制度について、次のような見直しが行われました。
居住用賃貸建物の仕入税額控除制度の不適用
住宅の貸付の用に供しないことが明らかな建物以外の建物であって高額特定資産に該当するもの(居住用賃貸建物)の課税仕入れについては、仕入税額控除制度が認められないこととなりました。
つまり、税抜支払対価が1千万円以上のマンションやアパートの購入金額については、仕入税額控除ができなくなります。従来までは、非課税売上対応課税仕入れ等として処理していても一括比例配分方式を採用すれば仕入税額控除を受けることができましたが、改正後はそれもできなくなります。
ただし、居住用賃貸建物のうち、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな部分については、引き続き仕入税額控除制度の対象となります。 例えば、1階部分がコンビニで、2階より上が居住用の場合は、1階のコンビニ部分に係る課税仕入れについては仕入税額控除が認められます。
なお、一定期間内に居住用以外に変更したり、売却した場合には調整規定があります。上記により仕入税額控除制度の適用を認めないこととされた居住用賃貸建物について、その仕入れの日から同日の属する課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間の末日までの間に住宅の貸付け以外の貸付けの用に供した場合又は譲渡した場合には、それまでの居住用賃貸建物の貸付及び譲渡の対価の額を基礎として計算した額を当課税期間または譲渡した日の属する課税期間の仕入控除税額に加算して調整することとなります。
上記の改正は、令和2年10月1日以後に居住用賃貸建物の仕入れを行った場合について適用されることとなります。ただし、令和2年3月31日までに締結した契約に基づき令和2年10月1日以後に居住用賃貸建物の仕入れを行った場合には適用されません。
この改正論点については、次の記事で詳しく解説しています。
居住用かどうかを実質判断に
従来までは、住宅の貸付けが非課税取引に該当するかどうかは、実体として人が住んでいるかどうかではなく、契約において人の居住の用に供することが明らかにされているかどうかによる形式的な判断を行っていました。
十三 住宅(人の居住の用に供する家屋又は家屋のうち人の居住の用に供する部分をいう。)の貸付け(当該貸付けに係る契約において人の居住の用に供することが明らかにされているものに限るものとし、一時的に使用させる場合その他の政令で定める場合を除く。)
しかし、今回の改正により、住宅の貸付けに係る契約において貸付けに係る用途が明らかにされていない場合であっても、当該貸付の用に供する建物の状況等から人の居住の用に供することが明らかな貸付けについては、消費税を非課税とすることとする実質的な判断基準が設けられることとなりました。
この改正は、令和2年4月1日以後に行われる貸付けについて適用されることとなります。
この改正論点については、次の記事で詳しく解説しています。
高額特定資産が棚卸資産の調整を受けた場合の事業者免税点制度及び簡易課税制度の適用制限規定を創設
高額特定資産は調整対象固定資産とは異なり棚卸資産も含まれるため、免税事業者に該当する課税期間中に棚卸資産である高額特定資産を取得し、翌課税期間が課税事業者となった場合は棚卸資産に係る消費税額の調整の規定の適用を受けることができます。 この場合、法12条の4《高額特定資産を取得した場合の納税義務の免除の特例》の適用を受けることなく「還付逃れ」ができてしまいました。
今回の改正により、高額特定資産である棚卸資産が、納税義務の免除を受けないこととなった場合等の棚卸資産に係る消費税額の調整措置の適用を受けた場合には、事業者免税点制度及び簡易課税制度の適用が制限されることとなります。
この改正は、令和2年4月1日以後に棚卸資産の調整措置の適用を受けた場合について適用されることとなります。
外国人旅行者向け消費税免税制度(輸出物品販売場制度)
日本に訪れる外国人旅行客は年々増えており、Tax-Free(輸出物品販売場制度)の需要がとても高まっています。
そこで、今回の改正により、一定の要件を満たした場合は自動販売機でも免税販売が可能となります。
外国人旅行者向け消費税免税制度(輸出物品販売場制度)について、消費税の免税販売手続きが可能なものとして財務大臣が定める基準を満たす自動販売機であることについて国税庁長官が観光庁長官と協議して定めるものを設置した場合には、その設置に係る輸出物品販売場の許可につき人員配置は要しないものとされます。
この改正は、令和3年10月1日以後に行われる輸出物品販売場の許可申請について適用されることとなります。
卸売市場法の改正に伴う措置
卸売市場法が改正されたことにより、消費税の適格請求書の交付義務が免除される卸売市場の範囲を、中央卸売市場及び農林水産大臣が財務大臣と協議して定める基準を満たす卸売市場とすることとされます。
この改正は、適格請求書等保存方式(インボイス方式)が導入される予定の令和5年10月1日以後に行われる課税資産の譲渡等及び課税仕入れについて適用されます。
金地金の本人確認方法の簡略化
平成31年度税制改正では、金地金等の密輸に対応するための消費税における仕入税額控除制度の見直しが行われ、令和元年10月1日以後の金又は白金の課税仕入れについては、本人確認書類の写しの保存がないと仕入税額控除を受けることができなくなりました。
今回の改正により、資金決済法等改正法の施行の日以後に、総合取引所を介して行われる金又は白金の地金の課税仕入れにおける消費税法上の本人確認書類の保存について、当該課税仕入れの媒介等を行うものの本人確認書類によることが認められることとなりました。
なお、平成31年度税制改正が行われるきっかけとなった金地金の密輸を悪用した手口について詳しく知りたい方は、次の記事をご覧ください。
幼保無償化に合わせてベビーシッター・認可外保育施設が非課税に
10月から始まった幼児教育・保育の無償化により、一定の条件を満たせばベビーシッターの利用料が無償化されることとなりましたが、上限を超えた分や、幼稚園などと併用する場合の利用料には消費税が課されることとなり、負担増を懸念する声が上がっていました。
そこで、今回の改正により、ベビーシッターや乳幼児が5人以下の認可外保育施設について消費税が非課税とされることとなりました。
消費税が非課税とされる社会福祉事業等の範囲に、「1日当たり5人以下の乳幼児を保育する認可外保育施設のうち一定の基準を満たすものとして都道府県知事等から当該基準を満たす旨の証明書の交付を受けた者において行われる保育」が加えられることとなりました。
この改正は、令和2年10月1日以後に行われる資産の譲渡等について適用されます。
まとめ
実務への影響
消費税の申告期限が延長される特例が創設されるのは実務家にとっては大変ありがたいことだと思います。ただし、申告期限の延長の特例が適用できるのは令和3年3月31日以後に終了する事業年度からなので、決算日が3月31日よりちょっと前の法人は、この恩恵が受けられるのはだいぶ後になってしまいます。
不動産業者にとっては、住宅の購入費用の仕入税額控除制度の見直しは大きなインパクトだと思いますが、それ以外については、実務上大きく影響が出るものはなさそうです。
それよりも、軽減税率への対応のほうが大変だと思うので、今年の消費税に関する改正は「消費税も申告期限が延長できるようになった」ことと「住宅の仕入税額控除が認められなくなった」ことだけ押さえておけば大丈夫でしょう。
試験への影響
令和2年度の税理士試験は、令和2年4月現在の適用法令に基づいて作成されるため、試験に影響する可能性がある改正点として、次の2つに要注意です、
令和2年度からは「消費税法」の本試験でも軽減税率が出題されることとなり大変だと思いますが、上記2点だけは押さえておくようにしましょう。