他社から人材を受け入れて、派遣元の企業に対してお金を支払うことがあります。
このときの支払額は、その人材の受け入れが「出向」に該当するのか「人材派遣」に該当するのかにより、消費税の取り扱いが異なります。
今回は、他社からの人材の受け入れが「出向」か「人材派遣」かの違いと、それぞれの消費税の取扱いについて解説したいと思います。
「出向」と「人材派遣」の違いとは
「出向」も「人材派遣」も、どちらも他社から人材を受け入れて労働力を提供してもらっているという点は同じです。
両者の違いは一体どこにあるのでしょうか?
この点について、国税庁が公表しているタックスアンサーNo.6475『使用人の出向・人材派遣など』において、「出向」と「人材派遣」の意義についてそれぞれ次のように記載されています。
1 出向の場合
出向とは、派遣される使用人等が出向元事業者と雇用関係を維持しながら、出向先事業者との間においても雇用関係に基づき勤務する形態をいいます。・・・(中略)・・・
2 人材派遣の場合
人材派遣とは、通常、人材派遣契約に基づき人材派遣会社がその使用人を他の事業者に派遣するものをいい、出向の場合と異なり、派遣された使用人の雇用関係は人材派遣会社との間にしかありません。
つまり、「出向」か「人材派遣」かの違いは、派遣される使用人が、派遣先の事業者とも雇用契約を結んでいるかどうかがポイントとなります。
例えば、B社の使用人が、派遣先A社との間でも雇用契約を締結している場合は「出向」に該当することになります。
一方、B社の使用人が、派遣先A社との間で雇用契約を締結していない場合は「人材派遣」に該当することになります。
イラストにしてまとめると、以下のようになります。
「出向」に該当する場合の消費税の取扱い
他社からの人材の受け入れが「出向」に該当するは、出向者に対する給与の負担方法には次のようなものがありますが、いずれの方法であっても、出向者に対して給与を支給したものとして取り扱います(給与負担金について課税関係は生じません。)。
(2) 出向先が給料の全額を支払い、その一部を出向元に請求する方法
(3) 出向元と出向先がそれぞれ給料の一部を支払う方法
出向先企業が出向元企業に対して「経営指導料」という名目で出向料を支払ったとしても、実質的に給与負担金の支払いである場合は消費税の課税対象外(不課税取引)となることに注意しましょう。
ただし、出向料(給与負担金)のうち、通常必要と認められる出張旅費や通勤手当に相当する金額については課税仕入れに該当します。
「人材派遣」に該当する場合の消費税の取扱い
「労働者派遣事業」とは、「労働者派遣を業として行うこと」をいい、この「労働者派遣」とは、「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させること」(当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まない。)とされています(労働者派遣法第2条)。
したがって、次の3つの要素からなる「労働者派遣」を業として行うことを「労働者派遣事業」といいます。
ロ 「他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させる」(派遣先が労働者を指揮命令する。)
ハ 「労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まない」(派遣先は労働者を雇用しない。)
以上のことから、派遣先と当該労働者との間に雇用契約関係が存在しない場合は「人材派遣」に該当することになります。
他社からの人材の受け入れが「人材派遣」に該当する場合についての取扱いは、消費税法基本通達5-5-11において、次のような記載があります。
(労働者派遣に係る派遣料)
5-5-11 労働者の派遣(自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他の者の指揮命令を受けて、当該他の者のために労働に従事させるもので、当該他の者と当該労働者との間に雇用関係のない場合をいう。)を行った事業者が当該他の者から収受する派遣料等の金銭は、資産の譲渡等の対価に該当する。
したがって、人材派遣料の支払いは、人材派遣会社の派遣先事業者に対する役務の提供の対価ということになるため、人材派遣会社に支払った人材派遣の対価は課税仕入れとなります。
まとめ
他社からの人材の受け入れが「出向」に該当するか「人材派遣」に該当するかの判断のポイントは、派遣される使用人が、派遣先の事業者とも雇用契約を結んでいるかどうかです。
使用人が、派遣先の事業者とも雇用関係がある場合は「出向」に該当し、派遣元の事業者との雇用関係の実である場合は「人材派遣」に該当します。
「出向」に該当する場合に出向元企業の支払う出向料は課税対象外(不課税)となりますが、「人材派遣」に該当する場合に人材派遣会社に支払う派遣料は課税仕入れとなります。
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