商社などの輸出代行業者が輸出者に対して名義を貸す場合や、イベントの後援として企業等が名義を使用させる場合、有資格者が無資格者に違法に名前を貸す場合など、様々な場面で「名義貸し」が行われることがあります。
今回は、「名義貸し」に関する消費税の取扱いについて解説したいと思います。
名義貸しとは
「名義貸し」とは、その名の通り、自らの名義・名前・商号などを他社に使わせることをいいます。
取引を行う本人でない人があたかも取引を行う者であるかのように見せかけて相手方に提示するために行われる「名義貸し」は違法行為となりますが、中には違法ではない「名義貸し」もあります。
商社などの輸出業者が輸出者に対して名義を貸す場合や、イベントの後援として企業等が名義を使用させる場合などは、「名義貸し」であっても違法行為になるものではありません。
輸出代行業者が輸出者に名義貸しをする場合
個人が副業で販売している商品を海外に輸出する場合などに、輸出代行業者を利用して商品を輸出する場合があります。
この場合、その輸出代行業者の名義で商品を輸出することになるため、輸出者に対し「名義貸し」を行っていることになります。
このような「名義貸し」については違法行為になるものではなく、輸出者に対して輸出代行サービスを提供した対価として収受するものであるため、消費税の課税取引となります。
なお、商品の輸出販売代金については、輸出者から『消費税輸出免税不適用一覧表』の交付を受けている場合は、輸出代行業者においては、税務上、売上げ及び仕入れとして認識せず、輸出者において免税売上げを計上することになります。
この点については、詳しくは次の記事で解説しています。
イベントの後援などで名義貸しをする場合
企業や公的機関などが、興行やイベントなどにおいて、その活動内容に賛同し、後ろ盾となって応援や支援をする「後援」として、イベントなどのクレジットに名を連ねることがあります。
また、催事の名目上の主催者として、自らの名を冠したイベントなどを開催するということもあります。
このような場合に、「名義料」を受け取ることがありますが、これは消費税の課税対象となるのでしょうか?
消費税は、次の4要件を満たす取引が課税の対象となります。
イベントの後援となったり、名目上の主催者となる場合、名前を貸すだけでそれ以外のことは一切何もしないということもあるため、そのような場合は課税の対象の4要件のうちの「③ 対価を得て行うものであること」を満たさないような気もします。
しかし、イベントの後援となったり、名目上の主催者となる場合に収受する名義料は、自らの名称や商号を使用させるという役務の提供の対価として収受するものであるため、課税の対象となります。
違法行為となる名義貸しの場合
弁護士や税理士などの有資格者が、無資格者に対して名前を貸す場合の「名義貸し」は違法行為となります。
この他にも、過去に消費者金融などから借りたお金を返せなかったり、破産や個人再生、任意整理などを行い、いわゆる「金融ブラック」という信用情報に傷がついた状態になってしまった人に対して、信用情報に傷がついていない人が自らの名義を貸してローンを組んだりする場合なども違法行為となります。
このような違法行為となる「名義貸し」の対価として名義料を収受した場合も、上述のイベントの後援や名目上の主催者となる場合に収受する名義料と同様に、自らの名称や商号を使用させるという役務の提供の対価として収受するものであるため、消費税の課税対象となります。
なお、名義料の収受が違法行為に係るものであったとしても、消費税法上課税の対象となります。
この点については、詳しくは次の記事をご覧ください。
資産の譲渡等は実質的に利益を享受する者が行ったものとする
消費税法第13条において、資産の譲渡等を行う者が単なる名義人である場合の取扱いについて、次のように規定されています。
(資産の譲渡等又は特定仕入れを行つた者の実質判定)
第十三条 法律上資産の譲渡等を行つたとみられる者が単なる名義人であつて、その資産の譲渡等に係る対価を享受せず、その者以外の者がその資産の譲渡等に係る対価を享受する場合には、当該資産の譲渡等は、当該対価を享受する者が行つたものとして、この法律の規定を適用する。
「資産の譲渡等の対価を享受する者」が誰であるかについては、国税庁の消費税法基本通達4-1-1に以下のような記載があります。
(資産の譲渡等に係る対価を享受する者の判定)
事業に係る事業者がだれであるかは、資産の譲渡等に係る対価を実質的に享受している者がだれであるかにより判定する。
したがって、消費税では、資産の譲渡等の対価の帰属は、「誰が資産の譲渡等を行ったのか」という形式的な基準ではなく、「誰が資産の譲渡等に係る対価を収受するのか」という実質的な基準で判定することとなりす。
この考え方を「実質主義」または「実質課税の原則」といいます。
したがって、他者に当社の名義を貸して、その他者が当社名義でイベント開催などを行ったとしても、そのイベント開催に係る収益の実質的な帰属先が名義を貸した他者である場合は、当社ではなく、名義を貸した他者が資産の譲渡等を行ったものと考えます。
まとめ
輸出代行やイベントの後援、違法行為に係るものなど様々な「名義貸し」がありますが、いずれの場合においても、名義貸しの対価として収受した名義料は、自らの名称や商号を使用させるという役務の提供の対価として収受するものであるため、消費税の課税対象となります。
なお、自らの名義でイベント開催などを行っていたとしても、「実質課税」の原則により、資産の譲渡等に係る対価の実質的な享受者が資産の譲渡等を行ったものと考えます。