ホテルや旅館などの宿泊施設に泊まっている場合に、思わぬトラブルで宿泊料金以外の金銭を支払うこととなったり、逆に受け取ったりすることがあります。
今回は、ホテルや旅館の延長料金や損害賠償金などの宿泊料金以外の消費税の取扱いについて解説したいと思います。
キャンセル料金
宿泊予約をしていたものの、急用等により宿泊できなくなった場合、キャンセル料を支払うことがあります。
消費税は、次の4要件を満たす取引が課税の対象となります。
宿泊予約をキャンセルしたことによりキャンセル料を支払うこととなった場合は、宿泊サービスを受けた対価として支払うものではなく、宿泊業者の逸失利益(もしキャンセルしなかったら本来得られた利益)を補填するために支払うものであるため、上記の課税の対象の4要件のうち「③ 対価を得て行うものであること」を満たしません。
したがって、キャンセル料の支払いは消費税の課税対象外(不課税取引)となります。
なお、キャンセルした場合の事務手数料としてキャンセル料とは別に収受しているものについては課税取引となります。
(キャンセル料の考え方や値引き交渉については、次の記事でも解説しています。)
チェックアウト時刻を過ぎた場合の延長料金
寝坊などによりホテルのチェックアウト時刻を過ぎてしまった場合は、延長料金を取られることがあります。
このような延長料金は、消費税の課税対象となるのでしょうか?
国税庁の消費税法基本通達5-2-5において以下のような記載があります。
(損害賠償金)
損害賠償金のうち、心身又は資産につき加えられた損害の発生に伴い受けるものは、資産の譲渡等の対価に該当しないが、例えば、次に掲げる損害賠償金のように、その実質が資産の譲渡等の対価に該当すると認められるものは資産の譲渡等の対価に該当することに留意する。(1) 損害を受けた棚卸資産等が加害者(加害者に代わって損害賠償金を支払う者を含む。以下5-2-5において同じ。)に引き渡される場合で、当該棚卸資産等がそのまま又は軽微な修理を加えることにより使用できるときに当該加害者から当該棚卸資産等を所有する者が収受する損害賠償金
(2) 無体財産権の侵害を受けた場合に加害者から当該無体財産権の権利者が収受する損害賠償金
(3) 不動産等の明渡しの遅滞により加害者から賃貸人が収受する損害賠償金
心身又は資産につき加えられた損害の発生に伴い受ける損害賠償金は、原則として消費税の課税対象外(不課税取引)とされています。
しかし、上記⑴~⑶に該当するものについては、実質的に資産の譲渡等の対価であるため、消費税の課税対象となります。
チェックアウト時刻を過ぎた場合に徴収される延長料金は、上記太字部分「不動産等の明渡しの遅滞により加害者から賃貸人が収受する損害賠償金」と同様に、実質的に宿泊時間を延長して宿泊サービスの提供を受けた対価として支払うものであるため、消費税の課税対象取引となります。
備品等を壊してしまった場合の弁償金
客室内で相撲を取ってふすまを破ってしまったり、枕投合戦を実施したことによりテレビなどの備品を壊してしまった場合に、弁償金を支払うことがあります。
この弁償金についても、上述の消費税法基本通達5-2-5により、「心身又は資産につき加えられた損害の発生に伴い受ける損害賠償金」であるため、消費税の課税対象外(不課税取引)となります。
ただし、「⑵ 損害を受けた棚卸資産等が加害者(加害者に代わって損害賠償金を支払う者を含む。以下5-2-5において同じ。)に引き渡される場合で、当該棚卸資産等がそのまま又は軽微な修理を加えることにより使用できるときに当該加害者から当該棚卸資産等を所有する者が収受する損害賠償金」については消費税の課税対象とされるため、壊してしまった備品を引き取る場合で、そのまま又は軽微な修理で使用できる場合は消費税の課税対象となります。
サービスの質の問題で賠償金を受け取る場合
部屋の清掃不足によりゴ〇ブリなどの害虫が発生したり、シャワーのお湯が出なかったり、エアコンが壊れていたりなど、サービスの質が悪かったことによりホテルや旅館から賠償金を受け取ることがあります。
この場合の賠償金は、「心身又は資産につき加えられた損害の発生に伴い受ける損害賠償金」ではなく、サービスの質に起因するものであるため、宿泊業者とお客さんとの間でいったん合意した取引価格の修正であり、消費税法上の取扱いは「売上げに係る対価の返還等」となります。
実害の発生により賠償金を受け取る場合
ベッドの清掃不足によりダニが発生したことによりお客さんに湿疹が起きてしまったり、エアコンの清掃不足によりお客さんがカビを吸い込みアレルギーや喘息、肺炎などの疾患を発症してしまった場合などに、賠償金として治療費や慰謝料相当額をホテルや旅館から受け取ることがあります。
この場合の賠償金は、「心身又は資産につき加えられた損害の発生に伴い受ける損害賠償金」に該当するため、消費税の課税対象外(不課税取引)となります。
これもサービスの質が悪かったことに伴うものですが、消費税の課税対象となるかどうかは実害の発生の有無がポイントとなります。
まとめ
ホテルや旅館の延長料金や損害賠償金などの宿泊料金以外の料金についての宿泊業者側、お客さん側それぞれの消費税の取扱いは、次のようになります。
内容 | 宿泊業者側 | お客さん側 |
予約のキャンセルにより宿泊業者に払うキャンセル料金 (うち解約事務手数料として区分された金額) |
不課税売上げ (課税売上げ) |
不課税仕入れ (課税仕入れ) |
チェックアウト時刻を過ぎた場合に宿泊業者に払う延長料金 | 課税売上げ | 課税仕入れ |
備品等を壊してしまった場合に宿泊業者に払う弁償金 (引き渡し&そのままor軽微な修理で使用可能な場合) |
不課税売上げ (課税売上げ) |
不課税仕入れ (課税仕入れ) |
サービスの質の問題により客に払う賠償金 | 売上返還等 | 仕入返還等 |
実害の発生により客に払う賠償金 | 不課税仕入れ | 不課税売上げ |
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消費税率判定クイズ
問題番号 | タイトル |
HTL05 | 宿泊予約のキャンセル料 |
HTL06 | 寝過ごしてチェックアウト時間に間に合わなかった場合の延長料金 |
RK011 | 枕投げ合戦により壊してしまったテレビの弁償額 |