消費税の納税義務判定の際の「基準期間における課税売上高」の計算方法

この記事の内容は、2025年1月現在の最新の税制に対応しています。

消費税の納税義務の有無は、「基準期間における課税売上高」が1,000万円を超えているかどうかにより判定を行います。

今回は、「基準期間における課税売上高」の計算方法について、注意点とともに解説したいと思います。

 

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基準期間における課税売上高の計算方法

基準期間における課税売上高の計算方法は、消費税法第9条第2項に規定されています。

2 前項に規定する基準期間における課税売上高とは、次の各号に掲げる事業者の区分に応じ当該各号に定める金額をいう。
一 個人事業者及び基準期間が一年である法人 基準期間中に国内において行つた課税資産の譲渡等の対価の額(第二十八条第一項に規定する対価の額をいう。以下この項、次条第二項、第十一条第四項及び第十二条の三第一項において同じ。)の合計額から、イに掲げる金額からロに掲げる金額を控除した金額の合計額(以下この項及び第十一条第四項において「売上げに係る税抜対価の返還等の金額の合計額」という。)を控除した残額
イ 基準期間中に行つた第三十八条第一項に規定する売上げに係る対価の返還等の金額
ロ 基準期間中に行つた第三十八条第一項に規定する売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額に七十八分の百を乗じて算出した金額

簡潔にまとめると、次のようになります。

基準期間における課税売上高=課税売上高(税抜)+免税売上高-課税売上返還等(税抜)-免税売上返還等

非課税売上げや不課税売上げ、仕入返還等、貸倒損失、貸倒回収額は考慮しません。

なお、「課税売上高(税抜)」「課税売上返還等(税抜)」については、基準期間が免税事業者である場合は、税抜処理せずそのままの金額を用いることに注意が必要です。

また、基準期間が課税事業者であっても、基準期間中に行った課税売上返還等の金額のうち、免税事業者であった期間中に行った課税資産の譲渡等に係る売上返還等の金額は税抜処理しません。

なお、「基準期間」がいつからいつまでなのかについては次の記事で詳しく解説しています。

 

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基準期間が課税事業者である場合

基準期間のうち課税事業者に該当していた期間に係る課税資産の譲渡等の対価の額は、消費税及び地方消費税を含まない金額となります。

そのため、課税売上高と課税売上返還等の金額は税抜処理を行う必要があります。

数値例
当社が基準期間中に行った取引は、次の<資料>のとおりである。当社(1年決算法人)の当課税期間に係る基準期間における課税売上高を求めよ。
なお、基準期間中は課税事業者に該当しており、基準期間中の消費税及び地方消費税の適用税率は10%とする。
<資 料>
⑴ 商品(課税資産)の国内売上高:13,200,000円
⑵ 商品(課税資産)の輸出免税売上高:5,000,000円
⑶ 土地売却収入:10,000,000円
⑷ 課税事業者であった期間中に販売した商品の値引額:550,000円
⑸ 免税事業者であった期間中に販売した商品の値引額:300,000円
⑹ 輸出販売した商品の値引額:200,000円

⑴ 課税資産の譲渡等の対価の額の合計額

 13,200,000円×100/110+5,000,000円=17,000,000円

 土地売却収入は非課税売上げなので考慮しません。

⑵ 売上げに係る対価の返還等の金額の合計額

(550,000円+300,000円+200,000円)-550,000円×7.8/110×100/78=1,000,000円

 免税事業者であった期間中に販売した商品の値引額と輸出販売した商品の値引額は税抜処理しません。

⑶ 基準期間における課税売上高

 17,000,000円-1,000,000円=16,000,000円>10,000,000円 ∴納税義務あり

(参考)×7.8/110×100/78の計算時の端数処理

売上げに係る対価の返還等の金額の合計額を条文の規定に沿って厳密に計算する場合、まず売上返還等の全額を計算してから、課税売上返還等(免税事業者であった期間中の課税資産の譲渡等に係るものを除く)に「×7.8/110×100/78」をかけることにより税額部分を抜き出し、それを全体から引く形で計算します。

このとき、「×7.8/110×100/78」を計算する際は、国税7.8%分と全体10%分を求める都度、それぞれ円未満切捨処理を行います。

例えば、32,552円×7.8/110×100/78を計算する際は、

32,552円×7.8/110=2,308.23…円→2,308円(円未満切捨)

2,308円×100/78=2,958.97…円→2,958円(円未満切捨)

と求めます。その都度端数処理せずに求める場合、

32,552円×7.8/110×100/78=2,959.27…円→2,959円(円未満切捨)

となり、金額が1円ズレてしまうため注意が必要です。

 

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基準期間が免税事業者である場合

基準期間のうち免税事業者に該当していた期間に係る課税資産の譲渡等の対価の額は、納税義務がないことからその取引額には消費税額及び地方消費税額は含まれていないものとして計算するため、税抜処理は行いません。

数値例
当社が基準期間中に行った取引は、次の<資料>のとおりである。当社(1年決算法人)の当課税期間に係る基準期間における課税売上高を求めよ。
なお、基準期間中は課税事業者に該当しており、基準期間中の消費税及び地方消費税の適用税率は10%とする。
<資 料>
⑴ 商品(課税資産)の国内売上高:13,200,000円
⑵ 商品(課税資産)の輸出免税売上高:5,000,000円
⑶ 土地売却収入:10,000,000円
⑷ 課税事業者であった期間中に販売した商品の値引額:550,000円
⑸ 免税事業者であった期間中に販売した商品の値引額:300,000円
⑹ 輸出販売した商品の値引額:200,000円

⑴ 課税資産の譲渡等の対価の額の合計額

 13,200,000円+5,000,000円=18,200,000円

⑵ 売上げに係る対価の返還等の金額の合計額

 550,000円+300,000円+200,000円=1,050,000円

⑶ 基準期間における課税売上高

 18,200,000円-1,050,000円=17,150,000円>10,000,000円 ∴納税義務あり

 

基準期間が1年でない場合

基準期間が1年でない場合の基準期間における課税売上高の計算方法については、消費税法第9条第2項第2号で次のように規定されています。

二 基準期間が一年でない法人 基準期間中に国内において行つた課税資産の譲渡等の対価の額の合計額から当該基準期間における売上げに係る税抜対価の返還等の金額の合計額を控除した残額を当該法人の当該基準期間に含まれる事業年度の月数の合計数で除し、これに十二を乗じて計算した金額

基準期間が1年でない場合は、基準期間中において国内において行った課税資産の譲渡等の対価の額の合計額から、基準期間中に課税資産の譲渡等について行った売上げに係る対価の返還等の金額の合計額を控除した残額を1年分(12か月分)に換算した金額が1,000万円を超えているかどうかにより納税義務の判定を行います。

月数は暦に従って計算し、1か月未満の端数を生じたときは、これを1か月として計算します。

数値例
当社の第3期事業年度に係る基準期間は、×01年8月10日から×02年3月31日までであり、当該期間中の税抜純課税売上高は800万円であった。この場合の当社の第3期事業年度に係る基準期間における課税売上高を求めよ。

第3期事業年度に係る基準期間は8か月(1か月未満の端数も1か月として計算)であるため、基準期間における課税売上高は基準期間中の税抜純課税売上高を年換算して求めます。

 8,000,000円×12/8=12,000,000円>10,000,000円 ∴納税義務あり

(参考)「.9999…」となる端数が生じる場合の端数処理

数学的には「0.9999…=1」となりますが、税法上は小数点以下の「.9999…」は「円未満の端数」であるため、国税通則法の規定により切り捨てて計算する必要があります。

ここで、基準期間が1年でない場合の基準期間における課税売上高の計算方法について、消費税法第9条第2項第2号では「~事業年度の月数の合計数で除し、これに十二を乗じて計算した金額」と規定されていることから、「割ってからかける」という順序で計算する必要があります。

数値例
当社の第3期事業年度に係る基準期間は、×01年1月15日から×01年12月31日までであり、当該期間中の税抜純課税売上高は1,300万円であった。この場合の当社の第3期事業年度に係る基準期間における課税売上高を求めよ。

第3期事業年度に係る基準期間は12か月(1か月未満の端数も1か月として計算)なので、税抜純課税売上高に「×12/12」を乗じて基準期間における課税売上高を計算します。

この場合、まず12で割って

13,000,000円÷12=1,083,333.333…

と計算し、これに12を掛けて

1,083,333.333…×12=12,999,999.999…円→12,999,999円(円未満切捨)>10,000,000円 ∴納税義務あり

と計算します。

なお、税額計算における端数処理の掛け算割り算の順序については次の記事でも詳しく解説しています。

 

個人事業者が基準期間中に事業を開始した場合、年間算はしない

また、個人事業者については、次に掲げる場合のように、基準期間において事業を行っていた期間が1年に満たないときであっても、その売上高を12か月分に換算することなく基準期間における課税売上高を計算します。

(1) 基準期間の中途で新たに事業を開始した場合
(2) 基準期間の中途で事業を廃止した場合
(3) 基準期間の中途で事業を廃止し、その後当該基準期間中に廃止前と同一又は異なる種類の事業を開始した場合において、これらの事業を行った期間が通算して1年に満たないとき

数値例
×01年7月15日より事業を開始した個人事業者甲の×01年7月15日から×01年12月31日までの期間中の税抜純課税売上高は700万円であった。この場合の個人事業者甲の×03年1月1日から×03年12月31日までの課税期間に係る基準期間における課税売上高を求めよ。

個人事業者の場合は、事業開始の日にかかわらず、基準期間は前々年の1年となるため、基準期間の中途において事業を開始した場合であっても、事業を行っていた期間に応じて12か月分に換算する必要はありません。

したがって、個人事業者甲の×03年1月1日から×03年12月31日までの課税期間に係る基準期間における課税売上高は

7,000,000円≦10,000,000円 ∴ 納税義務なし

と計算します。

 

基準期間がない場合

法人の設立1~2期目など基準期間がない場合は、基準期間における課税売上高は0円であると考えて納税義務の判定を行います。

 

まとめ

基準期間における課税売上高は、次のように計算します。

基準期間における課税売上高=課税売上高(税抜)+免税売上高-課税売上返還等(税抜)-免税売上返還等

「課税売上高(税抜)」「課税売上返還等(税抜)」については、基準期間が免税事業者である場合は、税抜処理せずそのままの金額を用います。

基準期間が1年でない場合は年換算を行います。

 

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