【消費税基礎論点解説②】消費税の課税方式の種類

前回の記事では、インボイス制度とは一体どんな制度なのかについて解説しました。

今回は、消費税を納める義務がある課税事業者になった場合の消費税の課税方式について、原則課税、簡易課税及び2割特例の詳細を解説します。

 

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原則課税方式

まず、名前の通り消費税の納税額を計算する上での原則的な計算方法である「原則課税方式」について解説します。

原則課税(「本則課税」と呼ぶこともあります)による納付税額の計算方法は、前回の記事でも紹介した通り、商品やサービスを提供した相手から「預かった消費税額」から、その商品やサービスを提供するための仕入れや経費として他の事業者に「支払った消費税額」を差し引いて求めます。

原則課税の場合の納付税額
納付税額=預かった消費税額-支払った消費税額

なお、インボイス制度導入後(令和5年10月1日)は、「預かった消費税額」から控除できる「支払った消費税額」は、適格請求書の交付を受けたものに限られます。

「支払った消費税額」のうち適格請求書の交付を受けていないもの(免税事業者に対して支払ったものなど)は、段階的に次の割合でしか控除できなくなり、令和11年(2029年)10月1日以後、最終的に控除不可となります。

令和5年(2023年)10月1日から令和8年(2026年)9月30日まで・・・80%
令和8年(2026年)10月1日から令和11年(2029年)9月30日まで・・・50%
令和11年(2029年)10月1日以後・・・0%(控除不可)

実際に数値例で見てみましょう。

数値例(原則課税)
課税事業者である当社(製造業者)は、原則課税方式により消費税の納付税額を計算している。
当課税期間の取引の状況は次の通りである。なお、すべて令和5年10月1日から令和8年9月30日までの間に行われたものとし、すべて標準税率10%対象取引とする。
① 課税売上げ(消費税の課税対象となる売上げ):3,300万円
② 課税仕入れ(消費税の課税対象となる仕入れ)のうち、課税事業者である仕入先に支払った金額:1,100万円(すべて適格請求書の交付を受けている)
③ 課税仕入れ(消費税の課税対象となる仕入れ)のうち、免税事業者である仕入先に支払った金額:1,100万円(すべて適格請求書の交付を受けていない)

預かった消費税額(課税標準額に対する消費税額)=3,300万円×10/110=300万円

支払った消費税額(控除対象仕入税額)=1,100万円×10/110(適格請求書の交付を受けている分)+1,100万円×10/110×80%(適格請求書の交付を受けていない分)=180万円

納付税額=300万円-180万円=120万円

(注)実際は国税7.8%分を先に計算してから地方税2.2%分を計算しますが、簡略化のために国税と地方税を合わせて計算します。以下同じ。

このように、「預かった消費税額」から控除する「支払った消費税額」は、実際に支払った金額を元に実額ベースで計算を行います。

支払った消費税額の方が多くなる場合は還付を受けられる

多額の設備投資を行った場合や、売上げに消費税がかからない場合(免税・非課税・不課税となる場合)などは、「預かった消費税額」よりも「支払った消費税額」の方が大きくなることがあります。

そのような場合は、払いすぎた消費税額について税務署から還付を受けることができます。

数値例(原則課税)
課税事業者である当社(製造業者)は、原則課税方式により消費税の納付税額を計算している。
当課税期間の取引の状況は次の通りである。なお、すべて令和5年10月1日から令和8年9月30日までの間に行われたものとし、すべて標準税率10%対象取引とする。
① 課税売上げ(消費税の課税対象となる売上げ):3,300万円
② 課税仕入れ(消費税の課税対象となる仕入れ)のうち、課税事業者である仕入先に支払った金額:2,200万円(すべて適格請求書の交付を受けている)
③ 課税仕入れ(消費税の課税対象となる仕入れ)のうち、免税事業者である仕入先に支払った金額:2,200万円(すべて適格請求書の交付を受けていない)

預かった消費税額(課税標準額に対する消費税額)=3,300万円×10/110=300万円

支払った消費税額(控除対象仕入税額)=2,200万円×10/110(適格請求書の交付を受けている分)+2,200万円×10/110×80%(適格請求書の交付を受けていない分)=360万円

還付税額=300万円-360万円=△60万円(還付される)

(参考)一定の場合は仕入税額の按分計算が必要

課税売上割合が95%未満又は課税期間における課税売上高が5億円超の場合は、仕入税額について按分計算が必要となります。

詳しくは次の記事をご覧ください。

(※)当期の売り上げが5億円を超えるほど大規模な事業を行っている場合や住宅の貸付けなど消費税の非課税取引を行っている場合でなければ、この点については特に気にしなくても大丈夫です。

 

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簡易課税制度

消費税法では、中小事業者の事務負担を軽減するために「簡易課税制度」という制度が設けられています。

原則課税の場合は、「実際に預かった消費税額」から「実際に支払った消費税額」を控除するという、実額ベースの計算方法により納付税額を求めました。

それに対し、簡易課税制度を採用する場合は、「実際に預かった消費税額」に以下の事業区分ごとのみなし仕入率を乗じた金額を「支払った消費税額」とみなして、仕入税額控除を行います。

事業区分 主な業種 みなし仕入率
第一種事業 卸売業 90%
第二種事業 小売業 80%
第三種事業 製造業 70%
第四種事業 その他の事業 60%
第五種事業 サービス業 50%
第六種事業 不動産業 40%

つまり、簡易課税制度を採用している場合の納付税額は次のように求められます。

簡易課税の場合の納付税額
納付税額=預かった消費税額-預かった消費税額×みなし仕入率

数値例を元にみてみましょう。なお、課税売上げと課税仕入れの金額は先ほどの原則課税の場合(還付じゃない場合)とまったく同じです。

数値例(簡易課税)
課税事業者である当社(製造業者)は、簡易課税制度の適用を受けて消費税の納付税額を計算している。
当課税期間の取引の状況は次の通りである。なお、すべて令和5年10月1日から令和8年9月30日までの間に行われたものとし、すべて標準税率10%対象取引とする。
① 課税売上げ(消費税の課税対象となる売上げ):3,300万円
② 課税仕入れ(消費税の課税対象となる仕入れ)のうち、課税事業者である仕入先に支払った金額:1,100万円(すべて適格請求書の交付を受けている)
③ 課税仕入れ(消費税の課税対象となる仕入れ)のうち、免税事業者である仕入先に支払った金額:1,100万円(すべて適格請求書の交付を受けていない)

預かった消費税額(課税標準額に対する消費税額)=3,300万円×10/110=300万円

支払った消費税額(控除対象仕入税額)=300万円×70%(製造業(第三種事業)のみなし仕入率)=210万円

納付税額=300万円ー210万円=90万円

このように、簡易課税制度を採用している場合は、実際に支払った消費税額は一切考慮せず、実際に預かった消費税額のみをもとに計算を行うことになります。

支払った消費税額が0円であっても、多額の設備投資を行って支払った消費税額が数億円になる場合であっても関係なく、実際に預かった消費税額のみをもとに計算を行うことになります。すなわち、簡易課税制度を採用している場合は、原則として消費税の還付を受けることはできません。

また、簡易課税制度を選択した場合は、必ず簡易課税により納付税額を計算しなければならず、原則課税方式による納付税額と有利な方を選択することはできません。

なお、簡易課税制度の適用を受けるためには、次の要件を満たす必要があります。

簡易課税の適用要件
① 当課税期間開始の日の前日まで(注1、2)「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出していること
② 基準期間(個人事業者の場合は前々年、法人の場合は原則として前々事業年度)における課税売上高が5千万円以下であること
(注1)当課税期間が事業を開始した課税期間である場合は当課税期間中
(注2)令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間において、適格請求書発行事業者の登録日から課税事業者となる経過措置の適用を受ける場合は、その登録日の属する課税期間中
(注3)上記に該当する場合であっても、調整対象固定資産(税抜100万円以上の一定の資産)を取得した課税期間の初日から3年以内である場合や、基準期間における課税売上高が5千万円を超える会社から分割等により新たに設立された法人である場合などは簡易課税制度の適用を受けられないことがあります。

例えば、当課税期間が令和6年1月1日から始まる場合は、簡易課税制度の適用を受けるためには令和5年12月31日までに消費税簡易課税制度選択届出書を提出する必要があります。

ただし、当課税期間に事業を新しく始めた場合は、当課税期間の開始の日の前日までに届出書を提出するのは不可能なので、当課税期間中に消費税簡易課税制度選択届出書を提出すれば適用を受けることができます。

また、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間については、課税期間の途中からでも、適格請求書発行事業者の登録を受けた日から課税事業者となることができる経過措置が設けられています。この経過措置の適用を受ける場合に簡易課税制度を選択したい場合は、その課税期間中に消費税簡易課税制度選択届出書を提出すれば適用を受けることができます。

注意点
[確定申告期限ではなく課税期間末日まで!]
新しく事業を開始した場合や適格請求書発行事業者の登録日から課税事業者となる場合の消費税簡易課税制度選択届出書の提出期限について、たまにその課税期間の確定申告期限までと勘違いをしている人がいますが、確定申告期限ではなくその課税期間の末日までなので間違えないように注意しましょう!
例えば、当課税期間が令和6年1月1日から令和6年12月31日までの個人事業者の場合で、令和6年中に適格請求書発行事業者の登録を受け、簡易課税制度を選択したい場合は令和6年12月31日までに提出する必要があります。確定申告期限(令和7年3月31日)までではないので注意しましょう。

一度簡易課税制度を選択した場合は、2年間は簡易課税制度を継続して適用しなければなりません。これは、原則課税と簡易課税を行ったり来たりして、過度な節税目的のために簡易課税制度が利用されないように一定の抑止をかけるためです。

例えば、1期目(原則課税)に大量に商品を仕入れて多額の仕入税額控除を受け、2期目(簡易課税)はまったく仕入れず1期目に仕入れた在庫を販売して、みなし仕入率の適用により実際の仕入れがなくても仕入税額控除を受け、また3期目(原則課税)に大量に商品を仕入れて多額の仕入税額控除を受け、4期目(簡易課税)はまったく仕入れず3期目に仕入れた在庫を販売して~以下ループ~ということを繰り返せば、みなし仕入率を利用して税額を減らすことが可能となります。こういった行為は違法ではありませんが、中小事業者の事務負担を軽減するという趣旨から逸脱しており、過度な節税目的のために簡易課税制度が利用されるのは好ましくないため、こうした行為をやりにくくするために2年間は簡易課税制度を継続して適用することとされています。

簡易課税の適用を受けることをやめたい場合は、簡易課税制度選択届出書の効力が生ずる課税以後の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後に、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出すれば、その提出日の属する課税期間の翌課税期間から原則課税に戻ることとなります。

絶対に2年間簡易課税制度を継続適用させるための表現なのでにすごく分かりにくい表現となっていますが、例えば、令和6年1月1日から令和6年12月31日までの課税期間から簡易課税の適用を受けた場合は、令和7年1月1日から令和7年12月31日までの課税期間中に消費税簡易課税制度選択不適用届出書を提出すれば、令和8年1月1日から令和8年12月31日までの課税期間から原則課税に戻ります。

 

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2割特例

最後に、インボイス制度の導入に伴い設けられた特例措置である「2割特例」について解説します。

この特例は、インボイス制度導入後(令和5年10月1日以後)に、本来なら免税事業者となる事業者が自ら課税事業者となることを選択した場合のみ適用できる特例です。

インボイス制度導入前(令和5年9月30日以前)から課税事業者選択届出書を提出していることにより引き続き課税事業者となっている場合や、そもそも本来免税事業者とならない場合(基準期間における課税売上高が1000万円を超えている場合など)はこの特例の適用を受けることはできません。

具体的には、次のような場合はこの特例は適用することができません。

2割特例を適用できない場合
① 令和5年10月1日の属する課税期間であって、令和5年10月1日前から引き続き課税事業者の選択の適用を受ける課税期間
② 課税事業者選択届出書を提出した場合の強制適用間中、新設法人又は特定新規設立法人の基準期間がない事業年度中に調整対象固定資産を行ったこと又は高額特定資産を行ったことにより事業者免税点制度が制限されることとなる期間中
③ 登録開始日の前日までに相続があり、消法10条《相続があった場合の納税義務の免除の特例》第1項(相続があった年の納税義務)の規定により納税義務が免除されないこととなる課税期間
④ 課税期間の特例により3か月又は1か月に短縮した課税期間及び当該特例により一の課税期間とみなされる期間

2割特例を適用する場合は、「実際に預かった消費税額」に80%を乗じた金額を「特別控除税額」として、仕入税額控除を行います。(結果的に「実際に預かった消費税額」の2割を納付することになるので、「2割特例」と呼ばれています。)

簡易課税の場合の納付税額
納付税額=預かった消費税額-預かった消費税額×80%

これは、簡易課税制度を選択している場合の第二種事業(小売業等)に係るみなし仕入率と同じです。業種に関係なく「実際に預かった消費税額」の80%を控除することができるため、2割特例は「スーパー簡易課税」と呼ばれることもあります。

数値例を元にみてみましょう。なお、課税売上げと課税仕入れの金額は先ほどの原則課税の場合(還付じゃない場合)とまったく同じです。

数値例(簡易課税)
課税事業者である当社(製造業者)は、簡易課税制度の適用を受けて消費税の納付税額を計算している。
当課税期間の取引の状況は次の通りである。なお、すべて令和5年10月1日から令和8年9月30日までの間に行われたものとし、すべて標準税率10%対象取引とする。
① 課税売上げ(消費税の課税対象となる売上げ):3,300万円
② 課税仕入れ(消費税の課税対象となる仕入れ)のうち、課税事業者である仕入先に支払った金額:1,100万円(すべて適格請求書の交付を受けている)
③ 課税仕入れ(消費税の課税対象となる仕入れ)のうち、免税事業者である仕入先に支払った金額:1,100万円(すべて適格請求書の交付を受けていない)

預かった消費税額(課税標準額に対する消費税額)=3,300万円×10/110=300万円

支払った消費税額(控除対象仕入税額)=300万円×80%(特別控除税額)=240万円

納付税額=300万円ー240万円=60万円

このように、2割特例も簡易課税制度と同様、実際に支払った消費税額は一切考慮せず、実際に預かった消費税額のみをもとに計算を行うことになります。

2割特例の適用を受けるためには、事前の届出等は不要で、上述の適用要件さえ満たしていれば、申告書に付記することにより適用を受けることができます。

また、もともと選択している課税方式(原則課税or簡易課税)による納付税額と2割特例を適用した場合の納付税額と有利な方を選択することも可能です。

なお、2割特例は経過措置であり、この特例の適用を受けられるのは令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する課税期間までです。(例:課税期間が令和8年9月1日~令和9年8月31日の場合、令和8年9月30日を含む課税期間なので適用を受けれます。)

 

まとめ

消費税の課税方式には原則課税と簡易課税の2種類があり、インボイス制度導入後に免税事業者が自ら課税事業者を選んだ場合は2割特例の適用を受けることができます。

各課税方式ごとの納付税額の算式をまとめると次のようになります。

原則課税の納付税額=預かった消費税額-支払った消費税額
簡易課税の納付税額=預かった消費税額-預かった消費税額×事業区分ごとに定められたみなし仕入率
2割特例の納付税額=預かった消費税額-預かった消費税額×80%

2割特例の適用を受けられる場合は、簡易課税のみなし仕入率が90%となる卸売業者以外は、簡易課税を選択するより2割特例を適用した方が有利となるため、2割特例の適用期間中(令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する課税期間)は原則課税を選択して、もし設備投資等を行い仕入税額が多額となる場合は還付を受けられるようにしつつ、そうでないときは2割特例の適用により納付税額は「預かった消費税額」の20%で済むようにしておくのが一番おすすめです。

 

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