「イートイン脱税」で罪に問われる可能性について具体的に考えてみた
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この記事の内容は、2025年1月現在の最新の税制に対応しています。

軽減税率導入とともに生まれた「イートイン脱税」という行為が物議を醸しています。

前回書いた記事では、「イートイン脱税」は消費税法違反にはならない(脱税ではない)ということを解説しました。

今回は、「イートイン脱税」が消費税法以外の他の法律に違反し、罪に問われる可能性について考察したいと思います。

 

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どんな罪が考えられるか

「イートイン脱税」とは、テイクアウトとして消費税8%(軽減税率)で購入した飲食物をひっそりとイートインで食べていく行為のことをいいます。

イートインで食べていく場合、本来なら消費税10%を支払わなければならないところ、会計時に虚偽の申告をして2%分の消費税の支払いを免れたということになります。

この行為は、消費税法違反とはならないのですが、消費税法以外の法律ではどのような罪に問われる可能性があるでしょうか?

考えられるものとしては、以下の3つが挙げられます。

イートイン脱税により問われる可能性のある罪
① 詐欺罪
② 偽計業務妨害罪
③ 名誉棄損罪

 

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詐欺罪に問われる可能性について

ウソをついた場合に問われる可能性がある罪として真っ先に思いつくのが「詐欺罪」だと思います。

詐欺罪とは、相手をだましてお金をとったり財産上の不法な利益を得たりする犯罪行為をいい、法定刑は10年以下の懲役とされています。

(詐欺)
第二百四十六条 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

詐欺罪として成立するためには、以下の4つの要件を満たす必要があります。

詐欺罪が成立する要件
① 一般社会通念上、相手方を錯誤に陥らせて財物ないし財産上の利益の処分させるような行為をすること(欺罔行為又は詐欺行為)
② 相手方が錯誤に陥ること(錯誤)
③ 錯誤に陥った相手方が、その意思に基づいて財物ないし財産上の利益の処分をすること(処分行為)
④ 財物の占有又は財産上の利益が行為者ないし第三者に移転すること(占有移転、利益の移転)
⑤ 上記①〜④の間に因果関係が認められ、また、行為者に行為時においてその故意及び不法領得の意思があったと認められること

「イートイン脱税」は、購入時にテイクアウトと嘘をついて(又はイートインと伝えずに)(=欺罔行為)、店員がテイクアウトで購入するものだと思い(=錯誤)、消費税8%でお会計をして商品を引き渡しを受けている(=処分行為、占有移転)ため、上記要件の①~④を満たします。

最後の⑤の要件は、「相手に実害が発生しているか」、「その行為は故意によるものか」ということになります。この⑤の要件を満たすかどうかがポイントとなります。

相手に実害が発生しているか

消費税は間接税なので、売主である事業者が消費者の代わりに消費税を納付します。

間接税の説明イラスト

消費税は8%でも10%でも、売主の手もとには本体価格分のお金が残るため、実質的な損害はないように思えます。

しかし、消費税は、商品の売買が行われた直後にすぐ納付されるのではなく、基本的には年1回の確定申告(中間申告という制度もあります)をするときまで、売主が預かっていることになります。その間は、売主が事業資金として運用することができるため、事業資金は多ければ多いほど資金繰りや投資において好都合となります。

例えば、4月1日に本体価格1,000円のお弁当を販売し、翌年3月31日までの1年間、本体価格+消費税分の金額を利回り10%の投資に回したとすると、イートインとして販売した場合とテイクアウトで販売した場合とで以下のような差が出ます。

消費税を投資へ回した場合

上記の例だと、イートインとして消費税10%で販売した場合の方が、テイクアウトとして消費税8%で販売した場合よりも2円多く増やすことができます。お店にとっては、消費税は多く預かっておく方がメリットが大きいのです。

このように、「イートイン脱税」により消費税を2%少なく支払った場合、本来なら売主が確定申告により租税債務が確定するまでの間占有できる事業資金をだまし取ったのと同じであるため、結果として売主にとって実害が発生したと考えることができます。

また、売主が免税事業者(消費税の納税義務が免除されている事業者)であった場合は、「イートイン脱税」による2%分の差額がそのまま損害額となるため、実害が発生していることになります。

ただし、金額の大きさを考えると、現実的には「実害が発生している」とは言いがたいです。コンビニなどで飲食物を買った場合に「イートイン脱税」により免れる消費税2%分の金額はせいぜい数十円程度です。1回の買い物だけでは規模が小さすぎるため、よほど常習的に何度も行っている場合でなければ、「実害が発生している」という要件を満たす可能性は低いでしょう。

その行為は故意によるものか

詐欺罪として成立するためには、故意に嘘をついたこと(だます意図があったこと)をお店側が立証しなければなりません。

「イートイン脱税」の場合は、購入時にウソをついてだます意図があったことを立証しなければなりませんが、それは現実的には非常に困難です。

「お会計の時点では本当に持ち帰るつもりだったけど、買った直後に気が変わってイートインコーナーで食べていくことにしたんです!」と言われてしまえば、詐欺行為として立証することは困難です。

しかし、例えば、一緒にイートインコーナーで食べる約束をしていた友人に裏切られて「あいつ私とイートインで食べてく予定だったのにウソついてますよ」と証言されてしまった場合などは「だます意図があった」と認められる可能性はあります。

詐欺罪に問われる可能性は極めて低い

上記を勘案すると、「イートイン脱税」により詐欺罪に問われる可能性があるのは、イートインで食べていく予定なのに「テイクアウトで」とウソをついて相当な金額の消費税の支払いを免れることによりお店側に実害を発生させ、かつ、会計時に店員をだます意図があったことが立証できる場合に限られます。

同じ店で365日朝昼晩3食全部1,000円(税抜)のお弁当を「イートイン脱税」により購入したとしても、免れる消費税の金額は 365日×1,000円×3食×2%=21,900円です。

しかもこれは最終的には税務署に納付される金額であるため、お店が確定申告までの間に21,900円を事業資金として運用して得られたはずの利益が実害の額となりますが、その金額は極めて僅少と言えるでしょう。

また、お店がその人を告訴しようと思ったら、その人が購入時に毎回故意にウソをついていたことを立証する必要がありますが、それは現実的に不可能に近いです。

したがって、「イートイン脱税」により詐欺罪に問われる可能性は極めて低いと言えます。

 

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偽計業務妨害罪に問われる可能性について

詐欺罪の他に「イートイン脱税」により問われる可能性がある罪は、偽計業務妨害罪です。

偽計業務妨害罪とは、ウソをついて業務を妨害する行為をいい、法定刑は3年以下の懲役または50万円以下の罰金とされています。

(信用毀損及び業務妨害)
第二百三十三条 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

「イートイン脱税」をすることにより業務が妨害されるということはあるのか、考えてみましょう。

例えば、マクドナルドでハンバーガーセットをテイクアウトで購入する場合、ジュース等が倒れないように固定される紙の包装容器に入れてもらうことがありますよね?(写真はこの記事を書いた日の僕のお昼ごはんです♪)

マクドナルドのテイクアウト時の包装容器

この他にも、例えば、サーティワンでテイクアウトでアイスクリームを注文した場合は、無料で保冷剤がついてきます。

これらは、テイクアウトで購入する場合だけの特別なサービスなので、イートインで食べていく場合は提供されないものです。

お店にとっては、テイクアウトで注文を受けた方が、イートインで注文を受けた場合よりも手間がかかったり、特殊な包装が必要になる場合が多々あります。

本当はイートインで食べていく予定なのにテイクアウトとウソをついて注文する行為は、お店に不必要な手間をかけさせたり、個別包装容器や保冷剤を提供させることになるため、業務妨害に当たる可能性があります。

これについても、数回程度ウソをついたくらいでは立件される可能性は低いですが、同じ店で何度も繰り返しテイクアウトとウソをついてイートインで食べることにより著しく業務を妨害した場合は、偽計業務妨害罪に問われる可能性があります。

 

名誉棄損罪に問われる可能性について

「イートイン脱税」により問われる可能性がある罪として「名誉棄損罪」が考えられます。

名誉棄損罪とは、公然と事実を摘示して人の名誉を棄損する行為をいい、法定刑は3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金とされています。

(名誉毀損)
第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。

「イートイン脱税」が名誉棄損になるとは、いったいどういうことでしょうか?

軽減税率がスタートした2019年10月1日、Twitterで「#イートイン脱税チャレンジ」というハッシュタグがトレンド入りしているのを見て、胃がキリキリと痛くなりそうでした。

テイクアウトで購入した飲食物をいかにバレないようにイートインコーナーで食べていくかを試すチキンレースが新制度導入初日から大流行している日本の未来はWowWowWowWowであります。

僕はこれを見て「絶対これで将来炎上するやつとか出てくるだろーな」と思ったため、炎上する前にどういう罪に問われる可能性があるか解説します。

例えば、YouTuberが『店員の目の前で何回イートイン脱税やったら怒られるか挑戦企画!』なるしょーもない企画を考えたとします。

企画では、店内で駄菓子等を「テイクアウトで」と伝えて買い、店員からすぐ見える位置のイートインコーナーに座って食べるのを何度も繰り返します。

軽減税率の対象となるかどうかはレジでお会計をするときの顧客の「店内飲食」か「持ち帰り」かの意思表示により判断され、その後適用税率を変更する必要はないこととされているため、そのYouTuberが何度「俺今イートイン脱税してますよ?www」とチラ見しながらアピールをしてきたとしても、店員は特に何も対応する必要はありません。

駄菓子等を30回くらい食べ終わったところで、「今日は店員の目の前で30回もイートイン脱税していったのに何も言われませんでしたwww。今度はまた別のお店でも挑戦してみたいと思います!それじゃあみんなバイバイ!チャンネル登録もよろしくネ☆」と言って締めくくられる動画を投稿したら、モラルのなさと不謹慎さで瞬く間に炎上するでしょう。

また、もし動画にお店の実名が載っていたら、「お店もお店で、なんで目の前であからさまにイートイン脱税しているやつがいるのに何も注意しないんだ!この店の教育は一体どうなってんだ!」と思われ、そのお店の評価も下がってしまう可能性があります。

このように、お店の名誉を傷つけるような動画をアップした場合は、名誉棄損罪に問われる可能性があります。

「イートイン脱税」ネタで動画を作ろうかなーとか思っているそこの君、今すぐやめなさい。

 

まとめ

「イートイン脱税」により問われる可能性がある罪は「詐欺罪」「偽計業務妨害罪」「名誉棄損罪」が考えられますが、いずれもよほど悪質な場合でない限り実際に罪に問われる可能性は低いでしょう。

ただし、いくら罪に問われる可能性が低いとはいっても、「イートイン脱税」はモラルに欠ける行為であることは間違いありません。

抜け穴だらけのこの制度自体に問題点があることは確かですが、自分達が暮らす社会を支えるための会費だと思って、イートインで食べていくときは正直に申告して2%多く消費税を支払うようにしましょう。

 

なお、「イートイン脱税」の逆で、「テイクアウト脱税」という行為もあります。こちらは消費税法違反となり、本当に「脱税」となる可能性があるため注意しましょう。

「テイクアウト脱税」については、詳しくは以下の記事に記載しています。

 

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